出港
「あいつは⋯!
ブラッパル⋯」
「お、おいブラッパルって⋯
何で奴がここに!?」
タイズが驚くのも無理はない。
____ブラッパル⋯
剃り残した髭と、くたびれた顔
皺の多いマントから、だらしなさをも感じさせる
一見弱そうな中年じじいに見えるが
その正体は、イーオン帝国軍の皇帝直属部隊、その総司令官だ。
あこ赤黒い髪は、返り血によって染まった色とも言われ
イーオン帝国軍では負け無しの、最強軍人。
俺も、顔を合わせるのは初めてでは無い
己を褒めるわけではないが、実力者ほど
奴の隠した牙に気付き、本能的に恐怖をも感じるくらいだ。
そんな奴が、何故ここに⋯
そしてこのままでは、リルント殿が危ないのでは⋯!
すぐに助けに行きたいが、船は既に港門を半分は出ている
今から単身で船を降りても、イーオン帝国軍に簡単に包囲されるだけだ。
「くそっ!
リルント殿は無事なのか!」
何を話しているのか、二人の会話までは聞こえない
だが向かい合って、何かを話しているのは分かる。
「お、おいアゲット
空を見てみろ!」
「空⋯?」
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか
タイズは空を指差した。
「なんだ? あいつらの上だけ真っ黒だ⋯」
スフェンも、そう言いながら空を見上げている
つられるように俺も見上げると、ブラッパルと
リルント殿とノゼの真上に
真っ黒な暗雲が、渦を巻いていた。
何故、あそこだけ⋯?
そう思った瞬間____
ドオォオオォオオオオンッッッ!!!
「うわっ!!」
激しい閃光と、空気を破く様な激しい雷鳴
そして、真っ黒に焦げた灯台が見えた。
「か、雷か⋯!?」
「俺の魔法だ。」
驚く俺達を他所に
大きく船を揺らしながら、二人が船へと着地していた。
「あ、あの高さから降りたのか!
というか今の雷は⋯
てかブラッパルはどうなったんだ!」
「アゲット、まずは落ち着け
作戦は成功だ。
全員無事に船に乗り、アウラ島を出発することが出来た。」
リルント殿は相変わらず落ち着いた声でそう言う
「そ、そうだな!
クラース族よ、俺達は無事に出港する事が出来たぞ!」
その俺の一言に、皆肩を抱き合いながら
腕を振り上げ、大声をあげながら喜ぶ
子ども達も、船だ船だと喜び走り回り
疲れたか、やっとの安堵にその場で座り込む者までいた。
「後で、リベラル軍に船室を案内させる
遠征用の船故、休憩の為の部屋も多少は揃っているがクラース族全員分には及ばない。
パトリア大陸には明日の昼頃に着くはずだ
かなり時間がかかるので、交代ごうたいでの利用になるだろう
そこは話し合って使ってくれ、どの部屋も構わず使ってくれてかまわない。
⋯早速、案内を頼む」
「は、はい!」
そう言って指名されたのは、新人だろうか
とても若く、妹と同い歳くらいの男が
少し緊張しながらも、優しい声で
こっちです、と船内に行ける扉へ皆を案内し始める。
俺はその姿を見守りつつ
リルント殿へと向き合った。
「⋯で、さっきブラッパルがいただろう
一体奴と何を話していたんだ」
「ほう、お前もブラッパルとは面識があったのか
まあ、お前の目的は何だとか
そういう類の話だな
奴に剣を抜かせれば、俺でも勝てまい
雷を落として威嚇し、その隙に船に降りただけだ。」
「然しあそこは灯台だったぞ
木の高さとはわけが違う」
「俺は風属性を有している
飛び降りる時の衝撃の緩和くらい出来るさ
ノゼも一緒に下ろしただけだ」
「へえ、風属性は便利だな」
攻撃以外の使い方があるのかと、またも驚く
それに、雷を落とす⋯って
剣士には魔法だけで打ち出せる程の魔力は無いはずだが
こいつは魔戦士だったのか?
それに雷までも操るには、風属性の魔法を完璧に会得する必要がある。
「⋯⋯」
俺とそう年齢も変わらない様に見えて
実はとんでもない奴なのかもしれない⋯
・
・
・
「ブラッパル総司令官
奴らを逃がしても良かったのですか?」
「ああ⋯
リベラル軍の目的は分からなかったが
まああんなちっぽけなクラース族が
村からここまで逃げて来たんだぜ?
その頑張に免じて見逃してやるさ
⋯次会った時は、全員殺さないといけないけどよ」
「⋯⋯」
「あーあ、めんどくせぇ
最近上からの扱いが雑で疲れが溜まっててよ〜
急に本国に呼び出されたかと思えば
アウラ島を制圧してこい、だぜ
簡単に言うけどよー
それに、例のあの黒い軍勢の
テストだとかなんだとか⋯
奴ら喋らねぇし、指示には従順で逆に怖いのよ
いつか、イーオン帝国軍の軍勢は
生きた人間じゃなくて、アンデッドで構成されるんじゃねぇかと不安だわな」
「は、はあ⋯
確かに最近数が増え、表にも出てくる事が増えましたね」
「上が何を考えているか分からないが
ま、仕事だからな⋯
本音を言えば、すぐにパトリア大陸へと追って
アゲットの小僧やメノンの嬢ちゃんとも久々に話したかったし
リベラル軍のその目的とやらを暴きたいところだが⋯
一仕事終えてからの楽しみ、という事にしておくかな」
「そ、そうですね」
「⋯それにしても、リルント
以前より状態が進行していたな
そして俺に、剣を抜くことも
暗雲はたち込めたものの、直前まで雷を落とす素振りもなかった。
⋯殺し合うのが楽しみだぜ」




