船の奪還
港門上の塀に、何人かの弓兵の姿が見える
「これ以上進むと矢の雨か⋯」
俺は手だけで、周りや後ろにいる戦士団に
これ以上進まないようにと合図を送る。
「⋯スフェン一人で十分そうだな」
俺がそう言い、再度上を見上げれば
まるで猿の様な身のこなしで、塀の壁⋯
ほんの少しのおうとつに指や足を引っ掛け、登っていくスフェンが見えた。
本来、梯子や階段が無ければ普通の人間では登れないだろう
スフェンの身軽さは、仲間として頼もしければ
敵に回したくない恐ろしさもあった。
「弓兵をどうにかすれば、民の移動も開始できるだろう。」
「そうだな、残党を狩りながら
安全を確保しよう」
弓兵は近距離攻撃に弱い
弓にはリーチがあり、攻撃するまでに時間を要する
素早く動く敵にも弱いが、奇襲にも当然弱い。
そして、弓兵は矢を構えて俺達に注目している。
これ以上近付けば、射るという威嚇だ。
だから、すぐ近くの内壁を
凄い勢いで登ってくる、たった一人の女には気付いてもいないだろう。
「へへっ、一人くらい剣士を配置しておくんだったな!」
スフェンは塀の上へと登り切り
笑いながら、短剣を構えて奇襲
慌てて放たれた矢は、誰を狙ったのか
へろへろと空中に飛んで、下にパラパラと落ちていく。
そうしている間に、そして次の矢を構える暇も
逃げ出す暇もなく
十五人程いた弓兵全員を、戦闘不能にしてしまうのに
殆ど時間を要さなかった。
「⋯スフェンが頭も回る奴だったら
戦士団長の座は盗られてたな」
「はは⋯全くだ
身体能力も戦闘センスも、戦士団随一だな」
タイズと肘で小突き合いながら、スフェンの働きっぷりを一望
後ろでは、敵の残った魔道士と
こちらの魔戦士での戦いで、爆音が生じていた。
「さて、そろそろか」
騒ぎを聞き付けたか、援軍要請を受けたか
イーオン帝国軍の援軍が姿を表した。
「蛮族共、何をしている!」
「反逆行為だぞ! 全員ぶっ殺してやる!」
「おい、港門を閉じろ
包囲して一人も逃がすな!」
さっきより軍の数が多い。
港門は、大きく鈍い音を建てながら
その門を閉じる為に、静かに動き出した。
「これはまずいな⋯」
数と状況だけならまずいが⋯
予想通りだ。
「クラース族戦士団よ
我々の船を奪おうとしているのは本当か!」
ここで、リベラル軍が
クラース族の民を、まるで捕虜の様に囲いながら
アーク港内へと入ってくる。
「そうだ!
な、なんだか最近狩りの調子が悪いから
海にも出て、漁とか出来たら良いなと思った!」
「おいおいアゲット⋯
嘘が下手すぎる」
「うるさい⋯」
タイズは吹き出しそうになるのを堪えて
俺を愉快そうに見つめた。
しかしこれが、最適解だと俺は判断したのだ。
「ここに捕まえたクラース族の民がいる!
大人しくしないと、こいつらに危害を加えるぞ!」
「リベラル軍の方が演技が上手いな⋯」
そんなタイズの独り言が聞こえたが
気にせず、俺は剣を収めた。
「そ、それは大変だ!
民を傷付けられるのは、ほ、本望では無い
せ、戦士団の皆よぶぶ、武器を下げろ!」
くそ、たくさん噛んだ⋯
タイズのせいだ。
敵を騙すにはまず味方から⋯
この作戦はタイズとスフェンにしか知らせていないが
恐らく今ので皆にバレた。
きっと、タイズと同じく笑いを堪えているのだろう
肩を震わせている者が何人か見えたのだった。
「リベラル軍か!
良かった、イーオン帝国軍とはいえ
クラース族の戦士団を相手にするのは手を焼くのだ」
「奴らの駆除に手を貸せ!
ここは休戦といこうじゃないか」
イーオン帝国軍は、リベラル軍にへこへこと態度を変えだした。
「まずはこのクラース族の捕虜達を船に乗せる
すぐ解放しては、再度すぐに奴らは剣を向けてくるだろうから」
リベラル軍はそう言い、クラース族の皆を船へと連れて行く。
元々敵の数が多い事は、リルント殿も俺も分かっていた。
全員を相手にするのは、ちゃんとした闘いの準備が出来ていない上
何かと消耗している俺達の方が圧倒的不利な為得策では無いと言えるだろう。
しかし、ただ囮となって注意を引き
混乱に乗じて民を乗せるとしても、きっと安全にともいかない。
なので俺達は、何かを奪わんとするその蛮族らしさを逆手に取って襲撃をし
リベラル軍がイーオン帝国軍と一時的同盟を結んだ様に見せかけ、民だけでも先に船に乗せてしまった方が良いと考えたのだ。
「⋯よし」
恐らくクラース族の全員が、リベラル軍に連れられて船に乗る事が出来ただろう
船側からはリベラル軍
アーク港の入口からはイーオン帝国軍
きっと、イーオン帝国軍は
クラース戦士団を挟み撃ちしていると、油断しているに違いない。
俺達は双方の軍と睨み合いながら、じりじりと少しずつリベラル軍側へと退く
そして、リベラル軍側⋯
走ってすぐに船へと乗り込める位置までくると
「今だ!
一斉攻撃!」
大きくそう指示を出す
戦士団、リベラル軍の魔道士達による一斉攻撃
火球や石つぶて、水飛沫やかまいたちが
目の前のイーオン帝国軍に向かって、放たれた。
「ぐわぁあああ!!」
「何してる!!回復魔道士!
さっさと防御しろ!!」
爆風が巻き起こり、奴らの姿が見えなくなった隙に
戦士団、リベラル軍共に船へと撤退
「よし、船を出せ!」
港と船を繋ぐ橋を畳み
錨を引き上げて、すぐさま港門へと出航した。
「ぐっ⋯
奴らはグルだったのか⋯!」
「おい、逃がすか!
港門を絶対に開かせるなよ!!」
少しずつ煙が晴れていき
出航する船を見て、指示を回す帝国軍
だがその指示だってもう遅い
「聞いているのか!
何故港門が開き始めるんだ!!」
「港門を操作する為のハンドルが壊されています!」
⋯リルント殿達がやってくれたのだろう
あとは、無事合流する事だが
(二人は一体どこに⋯)
そう思いながら見上げると、港門脇にある灯台に
リルント殿と、アモル殿が見えた。
(まさか、あの高さから船に飛び降りる気か?)
そう思っていると、二人の後ろに人影が見えた。
「⋯あいつは!」




