アーク港
クラース村と、アーク港との中間地点で
リルントさん率いるリベラル軍との合流を果たし
一行はまた、アーク港へと移動を開始した。
クラース族を囲う様に、クラースの戦士団が
そしてその戦士団を更に囲う様に
リベラル軍が配置される。
本当はもう周囲への警戒はこちらに任せて
もう少し気を休ませて欲しいと、リルントさんは配慮してくれたみたいだけど
クラース族を守るのは戦士団の義務だと、兄様も他の戦士団も
普段と変わらぬ形態を維持していた。
変わらず最後尾にリルントさんがつき
リベラル軍の副団長である、アモルさんという方が
スフェンと一緒に先頭を務めているのだそう
言葉で紹介を受けただけで、まだどんな人かは分からないけれど
スフェン以外にも先頭を守ってくれる人がいる事は、ありがたく思う
そして、アーク港に着いたのは
夕暮れに差し掛かる頃だった。
『わあ⋯』
港門の向こうに見える水平線
鮮やかな橙色の太陽が、まるで海に呑み込まれるように
どんどんと姿を消していく。
海にも反射して、半分はもう沈んでしまっているのに
まだそこに、まん丸とした姿がある様に見えた。
「海!海だ!」
「お母さん、お日様がキラキラしてる!」
子ども達がはしゃぐ声がする
私は兄様とアーク港に何回か来たことがあるが
来たことがない民もいれば、きっと子ども達の中には
海も見たことがない子もいるのだろう
はしゃいでしまう気持ちは、何だか理解出来る。
「静かに⋯」
リルントさんははしゃぐ子どもの親にそう言いながら、隊の中腹部にまで移動し、兄様の横に屈んだ。
アーク港に着いた、と言っても
まだ港内に入ったわけではなく、足を踏み入れてはいない。
目的地に着いても尚、慎重に行動するには訳があった。
それは、中間地点を出発する前のこと⋯
リルントさんは、私達に一つの話と謝罪をした。
シャロア様の予言通り、確かにこのアーク港には
かなりの数の、あの黒い軍勢が着港していたそうなのだが
村と戦士団に来た黒い兵はほんの僅か
ただリルントさん達によると、リベラル軍を待ち伏せて襲った別動隊もいたらしい。
それでも着港していた数に満たないみたいだけど⋯
それと本来、クラース族が襲撃に合う前に村に到着する予定だったが
想像以上の兵数に押され、救出が間に合わなかったという話だった。
何故クラース族が襲われることが分かっていたのか、隣の大陸のリベラル軍が助けに来てくれたのかなど
疑問に思うことは幾つかあったが
リルントさんはそこまでは語らなかった。
ここでリルントさんに謝られても、正直我々の悲しみと怒りがリベラル軍には向くことはなかった。
寧ろその謝罪に、居た堪れない様な変な空気になってしまっただけだった。
そしてその数の合わない、まだ姿を現していない数多くの黒い兵がアーク港で待ち伏せているのでは
というのが、リルントさん達の見解だった。
「リルント殿の予想は、半分当たりだったみたいだな」
港より少し高い、丘に登り、茂みに身を潜め
アーク港を覗きこめば、そこには黒い軍勢ではなく
イーオン帝国軍がいるのが見えた。
「ここ最近、港には行っていなかったが
完全に帝国軍の手中に収まってしまったみたいだな⋯
アウラ島にまで勢力を伸ばしているのは知っているが
これ程とは⋯」
兄様は複雑な顔でアーク港を見下ろし
タイズさんも、どこか寂しげな表情になる。
「アゲット、あそこの港門近くにある大きな船が
我々の船だ。
だが、帝国軍が包囲している上
我々が港に入れば、港門は閉じられてしまうだろう」
「ふむ⋯」
「軍を三手に分けようと思う
一つは、帝国軍の注意を引きつける囮役
もう一つは、船に皆が乗り、出るまで港門の操作を担う役
そしてもう一つは、クラース族を無事船に乗せる役だ
どれも簡単にとはいかないが⋯」
「⋯そうだな
では囮役は戦士団に任せてくれ
ようは派手に暴れれば良いんだろう」
「この数の帝国軍なら、リベラル軍が囮になり
戦士団は共に船に乗った方が安全ではないか?
港門なら、俺とアモルの二人で間に合うだろうが⋯」
何やら、これからの事を相談しているようで
戦士団もリベラル軍も、二人に注目していた。
「というか、イーオン帝国軍に手を出して平気なのか?
俺達はこれまで、正面衝突は避けて過ごしてきていたんだが⋯」
ここで、タイズさんが小さく挙手しながら二人に言う
兄様は確かに⋯とタイズさんに頷くが
リルントさんはにやり、と笑いながら
タイズさんや戦士団の顔を見た。
「リベラルとイーオンは、既に対立して
敵対関係にある。
今更関係を気にする事理由にならない。
我々は船を取り返して自国に帰るだけだ。
邪魔をするならぶった斬るさ
⋯それとも、大国相手に怖気付いたのか?」
「⋯ふん!
俺達だってもう戻れない所まできているんだ
邪魔をするなら徹底的にぶちのめすさ!」
「⋯そうこなくてはな」
リルントさんは、そっと笑いながら立ち上がり、
静かに腰の剣に手を置いた。
「リルント殿、俺に少し考えがある」
兄様も同じ様に立ち上がり、同じくアーク港を見下ろす。
ごにょごにょと、何かをリルントさんに伝えて
戦士団の方に振り向いた。
「クラース族の戦士団よ
派手に暴れるぞ!
溜めに溜めまくった鬱憤、ここで晴らしてやる!
俺に続け!」
「「「「「応!!!」」」」」
その兄様の掛け声と共に、戦士団の皆は
一足先に、アーク港へと走って行くのだった。




