お片付け
『⋯ほ、本当だ
美味しい⋯!』
スフェンの言う通り、この白くて丸いものは
ほのかに甘く、そしてもちもちとした弾力があって
とても美味しい。
お米⋯とは形状も食感も違うし
お餅にしては形が綺麗で、弾力の感じが違う
これは一体何なのだろう?
それに、根菜やお芋も村で採れていたものより美味しく感じた。
かなり空腹だったのもあって、どんどん口に運び入れる
そんな私を見て、スフェンは笑うのだった。
「そんなに慌てて食べなくても、食べ物は逃げないぞ!」
『そう言ってるスフェンは、もうおかわりして二杯目を食べてるじゃない』
スフェンも凄い勢いで、美味い美味いと食べていた。
殆ど一日食べていなかった様なものだ
それなのに安心して食べれる環境、温かくて美味しいご飯
こうして落ち着いてご飯を食べれる時間があることに、本当に感謝の気持ちで胸がいっぱいだ。
『⋯⋯』
目頭が熱くなって、下を向けば涙が零れそうだった。
周囲を見渡せば、きっと私と同じ気持ちなのだろう
何人か、ご飯を食べながら涙ぐむ民がいて
上手く言い表せない気持ちを抱く。
『⋯ご馳走様でした』
汁まで飲みほして、私は空になったお椀に軽く手を合わせ
片付けを手伝おうと、周囲で食べ終わっている民のお椀や匙も一緒に回収し
兵士さんの元へと運んだ。
『あ、あの⋯
ご馳走様でした、とても美味しかったです』
「ああ、いえ!
たくさん準備しておいて良かったです」
そんな私の声に、一番近くにいた兵士の方が
私の元へと歩いてくる。
「少しは休憩出来ましたか?」
『はい、お陰様で⋯
ありがとうございます』
そう返すと、兵士さんは口元を緩ませ
私の持つ何個か重なったお椀を受け取った。
『あ、私も⋯
片付けのお手伝いをさせていただけませんか?』
「え!? いやいや!
こんなの下っ端兵士の仕事ですから」
『で、ですが⋯』
「それに、メノン様はクラース族長の妹様ですよね
雑務をお任せする事は出来ないですよ」
『私から言い出した事ですし
その、このまま何もしていない方が辛いと言いますか⋯』
段々と声が小さくなってしまう
先程のリルントさんの言葉と、兵士達が受けている指示
立場的にも、きっと断りたい事だろう
私がこの兵士さんの立場だったら、きっと同じ事を思ってしまうけれど⋯
『お願いします』
兵士さんの目を見て、再度そう言うと
根負けしたように眉尻を下げて
「では、洗い場はこちらです」
そう案内してくれた。
・
・
・
『これで、最後かな』
天幕から少し離れた案内された所で、何人かの兵士さん達とお椀を洗い、水気を拭いていると
天幕がどんどんと畳まれているのが見えた。
全員に食事が行き渡り、その後少しの休息を経て
どうやらもう出発の準備に入ったようだ。
「拭いたお椀はこちらの袋に重ねて入れてください
匙も同じ袋でかまいません」
『分かりました』
私達ももう後片付けが殆ど終わり
隣の兵士さんが大鍋を拭いたら、向こうへ合流出来るだろう
私はお椀などを入れ終わると、袋の口を結び
持ち上げようと、その持ち手に手を伸ばす
「⋯何故、族長の妹がこんな所で働いている」
『えっ⋯』
袋を持とうとした手は、宙を掴んで
その袋を持ち上げたのは、リルントさんだった。
『わっ!』
すぐ私の後ろに居たもので、振り返り様にあまりの近さに
私は後ろへ重心が傾いてしまう。
「⋯!」
そんな私の腰に咄嗟に腕を回し、尻餅をつくのを
リルントさんはそっと阻止してくれたが
返って近くなってしまった距離に、身体が強ばってしまった。
「「「す、すみません団長!」」」
作業を中断して
ぴゃっ!と背筋を伸ばし、慌てる兵士さん達
「俺は丁寧にもてなせと言ったはずだが⋯」
リルントさんが、低い声色でそう言った。
蛇に睨まれた蛙の様に、兵士さん達はその場で固まってしまう。
『あ、わ、私が⋯
無理言ったんです、ごめんなさい』
「そうだとしても、必要ない。
今のあんたに必要なのは
大人しく休息を得る事だ」
その紫色の瞳には、萎縮する私の顔が小さく映っている。
腰に回された腕はまだそのままで、私は居たたまれなくなり
リルントさんの胸をそっと押し退けながら
なんとか体制を立て直した。
『す、すみませんでした!』
そして少しの恥ずかしさと恐ろしさで
天幕があった方へと走る。
(⋯こ、怖い!
クラース族以外の男性と話すのもちょっと怖かったけど
怒らせてしまった⋯!)
「はあ⋯
本当に族長の娘なのか
威厳の欠片も無いな」
「そ、そうですね⋯」
「そうですね、じゃないだろう
お前達は今晩の船の見張り役決定だ
暫し休憩は取れないと思え!」
「「「そ、そんなあっ!」」」




