中間地点
「⋯よし、この辺りだろう
一度止まるよう伝えてくれ」
⋯かなり歩き、誰もが休息はまだかと思い始める頃
後方のリルントさんの所にいた戦士団が、伝言を預かって前方のスフェンの元へ走って行く
「疲れた〜」
「さすがにこんなに歩き続けたのは初めてだよ」
など、あちこちで声が聞こえてくる
そして隊が完全に止まり、兄様とリルントさんが合流して何か会話をしているのが見えた。
「イーオン帝国軍を警戒して、街道ではなく
整備されていない野原を進んだが⋯
やはり、帝国軍には襲われずに進むことが出来たな」
道中、獣型の魔物に出くわすことはあったが
真っ先に弓兵が反応して先制攻撃
本隊に近付く前に殲滅してしまった。
なので部隊の真ん中にいる私達は、そんな魔物の姿も見ること無く安全に進む事が出来たのだった。
「この辺りに私達の隊が、天幕を張って控えている
今の内に軽い休息を取ろう、アーク港まではまだ半分程の距離がある」
リルントさんはそう言うと、腰に提げていた大剣を頭上に掲げた。
すると、その剣にはめられた淡い空色の宝石が光を放つ。
強くは無いが一瞬放たれた光に、きっと誰もが目を瞑っただろう。
次に目を開けると、何も無かった野原には複数の天幕が現れていた。
「こ、これは⋯」
「魔法使いは皆会得していると思うが、防御魔法に近いものだ
姿と気配を隠す事が出来、潜伏や野営に向いている」
「凄い! クラース族には無いものだ
王国の魔法使いが生み出したのか?高等技術だな」
アゲット兄様はキラキラと目を輝かせ
どうにかクラース族の魔法使いも会得出来ないか、と顎に手を当てて考えていた。
そんな兄様を横目に、リルントさんは天幕に向かって声を掛けた。
「リベラル城、近衛騎士団長リルントだ!
クラース族を保護に成功した」
その声に、天幕からリルントさんと同じ様な格好をした人達が、わらわらと出てくる。
「リルント団長、ご無事で!」
「ご帰還、お待ちしておりました」
「軽食の準備も出来ています!」
「⋯ああ、ご苦労
その前に、この男がクラース族の族長であるアゲット
そして、こっちにいるのはその妹のメノンだ
他のクラース族も大丈夫そうに見えて、かなり疲れている
丁重にもてなしてやってくれ
副団長、アゲット、作戦会議を行うので奥の天幕へ」
リルントさんはリベラル軍に対して、軽く紹介と
とてもありがたい言葉をかけて、奥の天幕へと向かって行く。
そんなリルントさんを追い、兄様もタイズさんを連れて向かって行ってしまった。
「メノン!」
『スフェン⋯』
リベラル軍が、クラース族の民を休憩場所に案内し始める中
私の元にはスフェンが走ってきた。
『先頭お疲れ様
さっきの魔物はガルムだっけ?
討ち取るのが早くてビックリしたよ』
「足音も鼻息も丸聞こえだったし
群れで行動するから、殺気も分かりやすかったし」
スフェンは思い返すように宙を見て、にこりと笑う
私は何も分からなかったけど⋯
流石はスフェン、先頭に任命されるだけの能力がある。
「あたしらも休もう、お腹空いたしな!」
『う、うん!』
私の手を掴み、ぐいぐい引っ張るとリベラル軍の内の一人が私の元へと歩いてくる。
「リルント団長から伺っています
クラース族長のご息女であらせられる、メノン様ですね
椅子と食事が準備出来ていますので、あちらへ⋯」
丁寧な口調で、私に軽く頭を下げた。
『え、えっと⋯?』
あまりにも丁寧な扱い方に、思わず固まってしまったそんな私に柔らかく笑いかけ、私の隣に立つ、ぽかん顔のスフェンを見て
「従者の方⋯でしょうか
お席をもう一つご用意しますね」
と、一言付け加えた。
『じ、従者だなんて!
スフェンは友達です、その言い方は控えてくださると助かります』
扱い方もこそばゆいが、友達を従者と言われて
ほんの少しだけ不快感を覚える。
スフェンは全く気にせず、それどころかまともに話も聞かず、ご飯の匂いをスンスンと嗅いでいた。
さ、さっきリルントさんが
兄様と同等の紹介をしたからだろうか⋯
「それは失礼しました
ではお席があちらに⋯」
と、掌を上に向けて示した。
⋯が、その示された先の席には既に先客がいるようだった。
「ん?シャロアが座ってるじゃないか」
スフェンも、小首を傾げて目をぱちくりとする。
「あ、あれ?
あちらの方は⋯
す、すみません
ちょっと団長に確認してきますので!」
リベラル軍の兵士さんは私と、その席に座るシャロア様を交互に見て
とても慌てた様子で、走って行ってしまった。
「な、何だったんだ?」
『うーん、分からないけど
私は席が用意されていたってこと⋯?』
「まあ、待っていたって腹は満たされないし
疲れも取れない!
休憩時間もそう長くはないんだ、あっちに行こう!」
スフェンは鳴るお腹を抑えながら指し示した方には
クラース族の何人かが輪になって座っているのが見えた。
リベラル軍から、お椀の様なものが配られているみたいで
早速スフェンと一緒に向かった。
「あたし達にも頼む!」
「あ、はい!」
スフェンは兵士さんの一人にそう伝えながら、どかっと座った
兵士達が、私を見て小さな声で何か話していたが
気にせずスフェンの隣に座り、少しすると
何か良い香りがする、湯気が立つお椀と、
木製の匙が手渡された。
お椀の中には、人参や大根、芋が入った汁物で
所々に白い丸いものが浮いていた。
「おおー!美味そう!
でもこれ何だ?この白いの⋯見た事ないな」
隣で温かい食事にはしゃぐスフェン
匙ですくったのは、白くて丸いものだった。
『た、確かになんだろう⋯』
どこから見ても、雪玉の様に白い
匙で押すとぶにゅっと潰れて、離せば元の形に戻った。
どうやら芋ではなさそう⋯
これは食べ物なのだろうか、見るのは初めてだった。
「お、おいメノン
この白いの、柔らかくてもちもちしてるぞ!」
目をキラキラとさせながら咀嚼するスフェン
私と同じ様に警戒していた、周りの民達も
美味しそうに食べるスフェンを見て、続いて口に運び入れた。




