駕籠
『わあ⋯』
移動を開始する頃、私は目の前の風景に圧倒される。
それはシャロア様が駕籠に乗って、運ばれている姿だった。
大きな一本の太い木に、縄と分厚い布が引っ掛けられて、その布の上に腰掛けている。
安定性があるところを見ると、背中と、そのお尻が面している部分にも木の板が入って、椅子の様になっているのだろう
宙ぶらになった脚から、靴が脱げて落ちてはいけないと
その駕籠を持つ聖職者の一人が、靴を預かり
泥が跳ねるかもしれない、と綺麗な布を足に巻かれていて、巫女様のその丁重な扱われぶりを
タイズさんと呆然と見つめた。
『⋯いつこんな物を?』
「出立前に、聖職者で集まって何かの準備をしているのは見たが
まさかシャロア様を運ぶ駕籠だったとは」
タイズさんもさすがに驚いている様子だった。
それに、他の聖職者達はやけに荷物が多い様に見える
他の村人は、食料を中心に衣服や家宝なども持っているようだが⋯
『すごい荷物⋯』
「祭事に使った道具⋯にしては小さいな」
聖職者の人は、一体何を持っているのだろうか
ただの村娘の私には想像できなかった。
そして、歩き始めからそれなりの距離を歩き、疲れを感じ始める頃⋯
私より前の方にいたシャロア様が、そっと私の横に移動してきた。
「疲れていそうね、大丈夫?
回復魔法を使ってあげても良いのよ」
『え!
いいえ、私は大丈夫です』
私に使うくらいなら、お年寄りの方が子ども達
あとはいつ帝国軍や魔物襲撃に遭うか分からない
戦士団の回復の為、温存も必要だろう
「貴女と私の仲なのだから
遠慮は必要無いのに⋯」
『⋯え、
えっと⋯』
シャロア様は困った様に笑うが
歳が近いだけで、そこまでして貰う理由もないし⋯
「巫女様、ご心配ありがとうございます
ですがメノンが疲れてしまったら、私が抱えるので大丈夫ですよ」
と、タイズさんがひょこっと私とシャロア様の間に立って
シャロア様に軽快に返事をした。
「⋯そうなのね、メノンのことが心配だったのだけれど
大丈夫そうなら、良かったわ」
シャロア様はにこっ、と笑い、前方へと戻って行く
うろうろしないように、とアゲット兄様の注意する声が聞こえるが
シャロア様は貴女の妹が心配で、と言うと
アゲット兄様は後ろ姿でも分かるくらい、機嫌が良くなって、生えていないはずの尻尾をぶんぶんと振った。
『シャロア様って、こんな時でも周囲の気遣いも欠かさず⋯
凄いですね』
「ああ、そうだな」
尻尾ぶんぶんな兄様は、チラッと私の方を振り向いて
にこにこと笑って
おーい!と手を振った。
「わお⋯相変わらずだな」
『あはは⋯』
私は兄様に手を振り、兄様がまた前を向いたのを確認すると
少しずつ歩く速度を遅めて後ろに下がる。
「ん? どうしたんだ、疲れたのか?」
『あ、いえ⋯』
私を不思議そうに見るタイズさんに
ずっと言い難かったが、いっそ言ってしまおうかなと悩む
『⋯その、やっぱり私は後ろに下がらせてくださいませんか?』
「いや、駄目だな」
『え!』
り、理由も聞かれず断られるとは⋯
「絶対に俺から離れないようにって言ったろ?
それに、アゲットにも怒られるし⋯」
『シャロア様は兄様が専属護衛で
私にはタイズさんが専属護衛だなんて、どうしても大袈裟に感じてしまうんです
居た堪れないというか⋯』
「ふむ⋯そんな事を考えずともメノンは⋯
お、そうだった!
もしメノンと離れそうになったら、と
アゲットからこんな物を預かってきたんだ」
『へ?』
タイズさんは懐をごそごそし、縄を取り出すと
そりゃ!と互いの腰を結んだ。
『わわっ!』
「よし、これで離れられないだろう!
何故そんなにも遠慮するのか分からないが、大人しく俺に護衛されていなさい」
これは遠慮ではないんだけどな⋯
⋯でも、そうだよね
こんな時に、自分の都合で隊の羅列を乱すのは軽率だったし、我儘だったのかも⋯
『⋯すみませんでした』
「ん? いや⋯俺は構わないけど
何かあったのか?
アゲットから、メノンの元気が無いように見える
そういう時、メノンはそそくさと人と距離を取りたがるから、と
それで秘密兵器として、縄を預かっていたんだが⋯」
『え、兄様がそんな事を?
それに、秘密兵器に縄って⋯』
私が悩みを抱えることに気付く事には、もう驚きもしないけれど、縄って⋯
一体どういう意味で持たせたんだろう?
「他人の元気が無い、そんな時はまず相手の話を聞き、相談に乗ったりするものだが
アゲットは相手の話を聞くとか、そんなことよりも
まずは傍にいるという考えを持っているみたいだな
⋯考えはともかく、このやり方理解はできないが⋯」
『そ、そうですね
傍にいるの意味を履き違えているみたいですね⋯
変な人です』
「お前の兄なんだがな⋯
因みにアゲットは、いつも常備しているらしいぞ」
『⋯。
ええっ?』
⋯やっぱり兄様の愛情深さは普通では無いのかも⋯
そんな事を考えながら、でもまだ実際にされた事はないので
もしかしたら兄様は冗談でそういう事を言ってい
それを素直に信じ、実行しているタイズさんも、タイズさんなのでは?とか思ったり⋯。




