移動開始
「⋯ゴホン。」
『わっ!』
誰かの少し強めな咳払いが聞こえ、振り向くと
私の後ろにはリルントさんが立っていた。
「やり取りは終わったか?」
「リルント殿か」
兄様は、その鼻下が伸びた顔から、すぐに真面目な顔に戻って、リルントさんと向き合う。
「⋯メノン、移動中のメノンの護衛は俺が受け持つことになっているんだ
よろしくな」
『タイズさんが?』
「アゲットは自分がやると言って聞かなかったんだが
族長は巫女を守らないといけないからな⋯
説得には時間がかかったよ」
『そ、そうですか
シャロア様の⋯』
「だから代わりにと、アゲットはスフェンを指名したんだが
スフェンはクラース族で一番目が良いし、殺気にも敏感に反応する
だから先頭を任されているんだ。」
それで、兄様でもなくスフェンでもなく
タイズさんが請け負うことになったのね
でも⋯
『タイズさんだって、兄様の右腕で
戦士団で二番目に腕が立つじゃないですか
私一人に付きっきりなんて、勿体ないです』
「けれど、護衛を付けないわけにはいかないだろう
メノンは前族長が残してくれた、クラース族の大切な存在だというのに」
『⋯あ、あの
私は本当に大丈夫なので⋯!』
「め、メノン!?」
私は堪らない気持ちになり、その場を逃げ出す
タイズさんと、近くにいた兄様から、私を呼び掛ける声が聞こえたが
私は止まらずに、スフェンの元へと走った。
スフェンはもう既に起きていて、敷いていた毛布を畳んでくれているところだった。
「お、メノン!
アゲットと話せたみたいだな」
私が抱えている荷物が入った袋を見てそう言う
『あ⋯』
⋯そういえば、持ってきてしまった。
俺達の荷物、と言っていたし、兄様の物も入っているかも
(いや、今はいいや
移動中に話せるタイミングがあったら返そう)
私はそう思って、スフェンから畳んでもらった毛布を受け取った。
『スフェン、タイズさんに聞いたよ
移動中、隊の先頭を任されているんだって?』
「ふふ、まあな!」
スフェンは自慢気に胸を叩き、得意の武器である弓を取り出し、高く掲げた。
腰には二つの短剣も携えており、スフェンの戦闘能力の高さと、その器用さを窺える。
「じゃあ、あたしはもう行くよ
メノンはきっと、隊の真ん中あたりだろ?
何か不便があったら、あたしを呼ぶんだぞー!」
そう言ってスフェンは外套を羽織り、軽快に走って行く。
私は手を振り見送って、出立のその時を待った。
(隊の中央⋯
位置まで決められているのか)
そうだよね、兄様はぞろぞろと動きに統一なく移動するのは危険と判断して
リルントさんと話し合ったんだろう。
先頭はもちろん、一番危険で一番重要
二番目に危険なのは後方
何かの追撃を受けやすい
真ん中は⋯比較的安全
もし隊を二分するのが目的の敵がいれば、真っ先に狙われるとは思う
シャロア様もきっと中央だから、心配するような事は起きないだろうけど⋯。
それに兄様も隊の中央にいる
シャロア様の護衛を行う一方で、シャロア様から離れられないのなら、逆に私を近くに配置して
様子を見守ろうと考えていると思う。
そこにタイズさんもつくというなら、後方は手薄になってしまうので
リルントさんが引き受けているか、戦士団を多めに固めているのだろう
(⋯後でこっそり、後方に移動しよう
私がシャロア様と同等の扱いなんて
身に余る待遇だ⋯)
そう考えていると、兄様から出立をする声が聞こえ
周りの人達が、村の出入口へと向かって行く。
私も荷物を抱え直し、今一度忘れ物が無いかも確認して
隊を編成し始めている皆の元へと向かうのだった。
・
・
・
フェルンを先頭に、クラース族は順番に並ぶ
先頭、後方は戦士団を多めに配置し
前衛で動きやすい戦士、戦士の補助を担う槍兵、魔法兵、弓兵の順番で並ぶ
中央には聖職者、シャロア様、族長である兄様、タイズさんと
陣営には抜かりがない。
そして⋯
「リベラルの兵とも少ししたら落ち合う予定だ」
クラース村とアーク港の中間地点辺りで
リルントさんの仲間が待機しているので、合流予定とのこと。
リルントさんしか見かけなかったので、単身で来たのかと思っていたが⋯
「そうしたらリベラルの兵が、更にクラース族を囲み
アーク港まで護衛をする
港に近付けば近付くほど、イーオン帝国軍に会う可能性は高くなるからな⋯
港には、船を一隻用意している
クラース族全員と、リベラルの兵合わせても乗れる程の大きな船だ」
リルントさんはそう言って、私達の後方についた。
「そのリベラルの兵と落ち合う場所で、少し休憩を設ける予定だが
アーク港まで半日以上はかかる距離だ
体調が悪い者がいたら、周囲の者と助け合い
それでも厳しい状態の者がいたら、すぐ近くの戦士団に教えてくれ
それでは、アーク港に向けて出発するぞ!」
「「「「「応!!」」」」」
アゲット兄様の掛け声に、一致団結して
とうとう、ついに⋯私達はクラース村を出発した。




