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呪われた貴方を佑ける方法  作者: 槻 みことӪ
第一章 アウラ島脱出編
11/25

手作りの衣装

____ザッ⋯、ザッ⋯、ザッ⋯






私の大嫌いな音が聞こえる



歩く度、その黒い鎧が擦れ、硬い金属音が鳴る



そして規則正しく、地面を踏み鳴らすこの音が



私達の住処を荒らし、侵し、



何もかもを奪い去っていくのだ。












『はっ⋯⋯!』


あまりに現実的リアルな夢に、私は勢い良く起き上がる。

てっきり、敵が攻めてきたのかと、肩がガクガクと震えたが

村はとても静かで、すぐに夢だったのだと気付いた。


『⋯⋯』


頬や首、背中に嫌な汗をかき、私は雑に袖で頬を拭う。

私にはいつの間にか、スフェンの白い外套がかけられていた。


『これって、確か⋯』



⋯確かスフェンが自慢してきたっけ、少し前に雪山まで狩りに出掛けた際に

雪山に生息するイエティと呼ばれる、猿に似た狒々(ひひ)魔物(モンスター)がいるらしいのだが

そのボス⋯総称して頭に“ドン”と付く特別強くて大きなイエティを討ち取ったのがスフェンらしく、兄様への自慢と牽制用に外套として仕立てただとか。


雪山に住まう魔物なだけあって、弓矢や並の剣技では貫くことは出来ず

防寒用としても大層役立っていると言っていたのを覚えている。


村の戦士団にも何人か、イエティの腰布や襟巻を着用している人もいる程だ。

ドン・イエティに比べると、性能は劣る様だけど⋯



『スフェン⋯?』


横に目をやると、スフェンが隣で眠っている。

どうやら私に外套をかけてくれた様だが、スフェンの方が私に比べるととても薄着で

衣服をちゃんと着ると動きにくいから、とお腹も常に出しているのだ。


私はそんなスフェンにありがとう、と外套をかけて辺りを見回した。

全員が寝ているわけではなく、戦士団の人は交代で物資を荷車に乗せたり

その荷車も足りず、家の崩れた木片から作り出している人もいる。


空を見るに、もうそろそろ夜明けだろう

東の空は薄く紺色になり、星々は薄く消えかけ

キラキラと存在感を示し、明かりのない私達を照らしてくれた月も、役目を終えすっかり白んでいる。


(⋯出発が、近付いているんだ。)


立ち上がると、懐に入れていた、熱を失った懐炉がころん、と落ち

私は慌てて拾い、腰の鞄に入れた。


だが、その音でスフェンは目が覚めてしまったようだ。


「あれ、メノン⋯?」

『ご、ごめんなさい

起こしちゃったね⋯』

「あたしまで寝てたのか、ごめんごめん」


そう言いながら起き上がり、私を見て恥ずかしそうに笑う

スフェンは私の二つ上だが、幼少期から私と過ごす事が誰よりも長く

今程本格的に狩りに参加する前は、よく私と遊んでいたものだ。


シャロア様同様、歳も変わらぬのに

寝てしまったことにも責任を感じてしまうくらいしっかりしていて

いつも守られていることに、少し申し訳なさを感じてしまった。


『⋯ドン・イエティのすごく貴重な外套

私にかけてくれたんだよね、ありがとう』

「いやいいって、寝る時にこれかけると暑くてさ」

『ふふ、私はちょうど良かったけど

スフェンなら有り得そう』

「む?なんか、褒められていないのは分かる⋯」


少しの睡眠だったのに、かなり疲れていた様で

身体はかなり楽になっていた。

スフェンも腕や肩を伸ばして、起き上がる準備をしているようだ。


確かに、今から寝直すには微妙だし

一足先に出発の準備を進めても良いかもしれない。


『ちょっと兄様の所に行ってくるね

スフェンはもう少し座って休んでいると良いよ


これから村を出発するでしょ

ここからアーク港まで半日はかかるし

戦士団は護衛もしながらなんだから⋯』


普段なら大丈夫!の一言で、私の心配など吹き飛ばしてしまうのだが

今回ばかりはスフェンも理解してくれたようで


「そうだな、あの黒い兵隊ともまた会うかもしれないし

備えあれば何とやらだ!」


スフェンは、アゲットによろしくなー、と手を振って、一瞬にして眠ってしまった。


(は、はや⋯!)


そんなスフェンに驚きつつ

これでも隠してはいるみたいだけど、本当に疲れていたんだろう

早く本当に休まれる日がくれば良いな、と心から思う


そして兄様を見付ける為、村を探し回る事にした。



『兄様、きっと寝ていないんだろうな⋯』


なんて思いながら、周辺を見るとタイズさんを発見

彼は大柄で体格に恵まれており、遠目で見ても分かりやすい

そんなタイズさんの横に、兄様を発見した。


『兄様!』

「ん?

おお、妹よ!

ちゃんと休めたか?」

『うん、スフェンも隣にいてくれて

もうすっかり元気!』

「そうか、良かった!

丁度メノンの所に向かおうとしていたんだ」


兄様はそう言って、手元にある布の塊を持ち

私の前で広げてみせた。


「じゃ〜ん!

兄ちゃんお手製のお前の服だ!


三着はあるぞ〜、これから大移動になるからな

着替えも自由だ!」

『⋯え、えぇ⋯?』

「ほらなアゲット、メノンもさすがに引いてるぞ」


兄様は自慢気に、今し方作ったと私の服を渡してきた。

ま、待って、移動の為の準備とかしてたんじゃ⋯?


『こ、こんな時に私の着替えまで気にしなくても⋯

兄様の準備とかもきっとあるでしょう?』

「俺は剣と、この身一つあれば大丈夫だ!

そんな事より、妹がずっと血の着いた服を着ている方が気掛かりで⋯」

『いやこんな、ほんの少しだけだよ

それに私だって自分で服くらい⋯』

「妹に針なんて危険な物は持たせられない!

万一怪我なんてしたらどうするんだ!」


⋯普段、兄に隠れて裁縫をしているのは黙っておこう

そのブーツや剣の鞘は、実は破れる度に私が直しているのだが

朝起きた兄様は、妖精さんが我が村にいる!と信じてしまい

とても言える雰囲気ではなかった、という出来事もある。


「おいおいアゲット、それは大袈裟だろう」

「いいからいいから

これは“俺達の荷物”として一つに纏めておくからな!」

「歳頃の女性が兄と同じ袋に荷物って⋯」


タイズさんは何か言いたげな様だが、呆れた顔で言葉をごくん、と飲み込んだ。

そして同情するぜ、と言わんばかりの顔で私を見るので、私も苦笑を返す。


⋯実は護身用に猪牙の短剣を持ってます、なんて言えなくなってしまった。


『ねえ、その服の布って⋯

毛皮ではないよね、触り心地も滑らかで

今着ているこの服もそうだけど、本来聖職者(サケルドース)の人が使う綿の布じゃないの?

かなり貴重で高価な物だと聞いたこともあるよ』

「俺にとっては聖職者の連中より、可愛い妹の方が着るべきだと思うが」


はてはてさっぱり、という顔をする兄様

⋯使ってしまって大丈夫なのだろうか

クラース族に対して貢献出来ていない私には、何だか気が引けてしまう。


「それを言うならアゲット、お前もだぞ

族長なんだから、もう少し気品のある物を身に付けても⋯」

「俺はこの頭飾りで十分だ

何かと身に付けたら動きにくくなるだろう」

「その頭飾りも、メノンとお揃いだから付けた様なものじゃないか!」


兄様の常人とはちょっと外れてしまった考えに、ついていけるタイズさんは凄い

私はもう、受け入れてしまったというか

もうこれが兄様なのだから、ちょっと上げられて恥ずかしい時も多いけれど


私を思って何かをしてくれる、というのは嬉しいし

兄様がいてくれて良かったと、今回の襲撃を経験して改めて思うことが出来た。

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