(8)
二人で並んで歩いていたが、周りが混雑し始める。笑夢を見失うのはまずい。俺は咄嗟に手を差し出した。笑夢は少しだけ驚いた顔をしたが、意味を理解したようで手を取ってくれた。
「どうしたんですか?今まではこんな事無かったのに」
「一緒に歩くならせめて…ね?」
「ふふ、かっこいいですね?」
「茶化したら…離すよ?」
「すいません!離さないでくださいよ!」
笑夢は俺の手をぎゅっと強く握る。まぁ…離す気なんてサラサラないけど。二人でコーナーを見て回る。ふと、視界に何やら不穏な気配を放つ人だかりを見つけた。
「ん?なんだ…何か問題でも起きてるのかな?」
「そうですね、女の子が囲まれているようです…あ、助けなくてもいいかも」
「えぇ?!大変だ!助けないと!」
笑夢を引っ張っていく。何故か笑夢は苦い顔をしているが…。人をかき分けて一番最前列に出た。
本当に女の子じゃないか。見た所…同い年ぐらいじゃない?でも、綺麗な金色の髪に鼻が高くて目がたれ目。何か…既視感があるような?
「いいじゃん!俺らと遊ぼうよ」
「嫌ですって!汚らわしい、近寄らないでくださいます?」
「いいじゃん、強気な女の子好きよ?」
「だから…」
「ねぇ?何してるの?」
俺が横から話しかける。男達は驚いた様子で後ずさりした。そう、こういう時に俺の顔は役に立つ。いかつい男が複数居ても、ビビってくれるから。
「な?!なんだお前」
「寄ってたかって可哀そうだと思わない?」
「なんだ?!やろうってぇのか?」
「いいけど、あの子は帰してあげてね?」
俺がにじり寄ると、男は後ずさりする。まるで神が海を割るように、人だからがよけていく。何故か他の男達は観客に紛れていた。こんな事最初からするなよ。
「くそ!なんだお前!!」
男が俺に向かってパンチを仕掛けてくる。綺麗に躱せ…れば良かったんだけど、ヒットした。痛いな…本当に。何もしてない人に向かって暴力は良くないだろ?口が切れてるかな…あぁ…痛い。
「ひぃ…勘弁してください!」
男たちはその場を離れて行った。なんだ?俺…なんかした?とりあえず、笑夢の居る場所に戻って…ん?何やら親しく話しているな?知り合いか…あ。もしかして…
「そうですよ、だから厄介になると…」
「嘘…だろ?!」
「初めまして、ごきげんよう。わたくし、笑夢さんの知り合いでございます。」
ペコリと頭を下げる。あぁ…これ神が言ってたサプライズ?もしかしてわざとあの男達をけしかけた…とか?うわぁ…まんまと嵌ったよ。
「貴方に一目惚れいたしまして…わたくしと来ていただけますか?」
「あ、あの…デート中なので。」
「あら、そうでしたの?でも、まだ付き合っていないのならわたくしにも勝ち目がありまして?」
なんか…すごいお嬢様みたいな。話しづらい感じが…します。助けてください、笑夢様。笑夢に助けを求めるが、笑夢も首を振る。もしかして…苦手?
「う~ん…申し訳ないけど…」
「わたくし、諦めませんので!」
何故かそう言い残してこの場を去った。笑夢の方から何か歯ぎしりのような音が聞こえる。これ…怒ってない?
「お礼すら言っていきませんでしたね?」
「う~ん…まぁ…いいって。」
「肇さんが怪我まで負っているんですよ?!」
「俺が笑夢の忠告を聞いておけば…あ、そういえばなんで俺の周りから男は逃げたの?人だかりも解消されたんだけど…」
「肇さん…言いづらいですけど、本当にやってしまいそうな顔してました。」
笑夢が言うには、顔は頬が片方引き攣った笑いをしていて、目が獲物を捕らえる目をしていたとか。う~ん…痛みをこらえていただけなんだけど。
「ほら…口から血が出てますよ?」
「え?うわぁ…思いのほか強く殴られた。」
「そうですよ、相手はフルスイングしてましたから」
「そっか…ありがとう」
「あのまま放っておいても良かったんですよ?彼女が何かされることはなかったので」
「まぁ…本当にその通りで。」
優しさは時にトラブルに巻き込まれる。本当に、体現するとは…。分かっていた事だったんだけどなぁ…。神がこんな仕掛けするとは思わないじゃない?だってさ、考えてみてよ?これ…定番過ぎない?
「定番がお好きな方なんです。本当に…。」
「困っちゃったな…俺が種を回収したよ」
「断れなくなりましたか?」
「いや、刈り取らないとダメだと思う、自分で」
「そうですか、頑張りましょう」
「うん、ありがとう」
出会っちゃったのは仕方ないとして…これからどのように動いていくか。でも、多分…邪魔してくることはないかな?本当に笑夢の言った通り、あの感じだと…強硬手段に出ることは少なくとも無さそうだ。
「とは言え…作戦は考えないとかな?」
「大丈夫だと思いますけど…定番通りに行くなら転校生として来るかと?」
「うわぁ…あの神本当に定番大好きだ。」
「小説や漫画が大好きな方なので…」




