(2)
ちらっと時計を見るともうとっくに学校が終わる時間になっていた。ブランコに揺られているだけでかなりの時間が潰れたようだ。不毛な時間だし、無駄だったと思う。それでも、家に帰りたいとは思えない。
はぁ…どう思われているんだろうな。きっと怒った、とは思われていないはずだけど。なんで俺が気にしちゃうんだろうな。もう、分かんないや。
「あれ?早退したんじゃないの?!」
「ん?あ…」
「やっぱり…不良か?!」
「はは、違うよ、考え事してたら…ね?」
今朝、俺に話しかけてきたお調子者っぽいクラスメイトがこちらに歩いてくる。彼は俺の隣のブランコに腰かける。き、気まずいな…。何を話せばいいんだろうか。笑顔だ…笑顔で接すれば…。
「わぁ、独特な笑顔だね?」
「え?本当に?」
「ちょっと怖い…」
そんなに怖い怖い言わなくてもいいじゃん。皆人に対して刺さる言葉を放ちすぎだよ。言葉はな…ナイフにもなるんだぞ。
「いや、違うよな、ごめん!」
「え?な、なんで?」
「気にしてたんだろ?顔の事を言われるのは良くないよな」
「う、うん」
「それでさ、何かあったのか?急に帰っちゃったから…」
「そういえば、名前が分からないんだけど…」
「え?!今更?!藤田智一、智一でいいよ」
おお、名前を聞けた!第一歩だ。それにしても…なんて答えればいいかな。ぼかして話した方がいいよな…?智一は何故かきらきらした目でこっちを見ている。これ、恋バナ好きな人なのか?
「う~ん…ここじゃ話しづらいかな。」
「そうか~…じゃあ、家来る?近いよ?」
距離の詰め方!!すっごいじゃん。一度話したら友達みたいな感じなの?!すっごいな…。でも、友達として認識してくれてるなら、好意に甘えてみようかな。どうせ、俺だけじゃあ解決できないだろうし。
「うん、お邪魔させてもらうね」
「お、じゃあ行こうぜ!!」
二人でブランコから立ち上がって、移動する。公園から歩いて5分程の所に智一の家があった。初めて友達の家に呼ばれた。緊張と期待で家に入る前から何も喋ることができなかった。
「ただいま」
「お邪魔します…」
玄関から、自分の家ではない匂いがする。なのに家として自分は認識しているから不思議な感覚になる。リビングの方から智一の母親が現れる。智一を見てから俺を見る。はっとした表情をした。
「智一、友達が来るなら連絡しなさいって言ってるのに!」
「あ、忘れてたわ!ごめん!」
「急にお邪魔してすみません…」
「いいのよ!私の準備が整わないだけだから」
「準備…?」
「気にしないでいいよ、行こうか」
俺と智一は二階に上がって、智一の部屋へ入る。智一は「そこら辺に座って!」と言っていた。どこに座ればいいんだ…。綺麗に片付いている部屋だけど、初めての経験で、どうすればいいか分からない。いいや、座ろう。テーブルの横に座ると、智一は対面に座った。お見合い…?
「よし!ここなら話しやすいっしょ?」
「ま、まぁね」
「さて、全部聞かせてくれよ!」
目が輝いてるよ…。そんなに大層な話じゃないよ。まぁ、喧嘩みたいな事をしてしまった下りが一番いいかもしれない。
智一に自分のコンプレックスの事、それから顔が怖いのはいつもの事と言われたという事、それでつい帰りたくなくなったことを話す。智一は頷いて一生懸命話を聞いていた。途中で首を傾げ始めた。
「う~ん…予想以上に難しい話だな。」
「だよね、俺もどうしていいか分からなくなっちゃって」
「でもさ、どうしたいかは決まってるのか?」
「どうしたいか…?」
どうしたいのかは…分からない。口喧嘩だったら仲直りするってできるけど、俺が純粋に傷ついて、もやもやしているだけだから。どうすればいいんだろうか。
「決まってないかも」
「え?!決まってないのか?!」
「うん…」
「更に難しいじゃないか!」
一生懸命悩む智一を見て、申し訳なさを感じる。こんなに自分のために悩んでくれる人はそんなに居ないだろう。ありのままをすべて話せればいいんだけど、天使とか言ってもなぁ。変な人になっちゃうよ。
「でも、いいよな。彼女が居て」
「え?そうかな?」
「なんだ?!喧嘩か?!」
「いや、そういうつもりじゃないよ?!」
「はは、冗談だよ、持たざる者の気持ちは分からんだろ?」
うん、持ってるって言うか…なんというか。こっちの気持ちも知ってほしいけどね。ある日天使が降臨して、貴方に惚れましただよ?まだ正直現状を飲み込み切れてないんだけど?
「でも、肇の優しさは良く伝わったよ」
「え?今までの会話で?」
「ああ。悪く言おうとしないでちゃんと説明しようとする、すごい事だ」
「そ、そうかな?」
「散々俺らだって肇を避けてきたのに…本当に申し訳なくなるよ」
そんなに褒められても…何も出ないよ?そんなことを考えていると、扉がすごい勢いで開く。
「話は聞かせてもらったよ!」
「か、母さん?!」




