根をはる。ということは。 2
「そりゃぁえらいめにあったんだなぁ、それでこれからどうすんがいね。」
「一族で流れてきましたもので、この向こうにある大倉岳の中ほどに社を立ててに姫神様を細々と祭っていこうと思います。」
戦国時代に来てから三日目。今日は付近の村の乙名に挨拶に来た。もちろんお土産も忘れない。
「それで今後お世話になるかもしれませんので山で獲れた肉を地鎮祭の供物をお下がりとしてお届けに来ました。あとは塩や酒、薪、炭などもお持ちしました。村の皆さんで分けてください。」
「それは気の毒な。こちらこそよろしくお願いしますね。」
この集落の村長さんも気のいいおじさんだ。深々と頭を下げてお礼をしてくれた。苦労をしてきたであろう雰囲気がある。乙名は複数人いることもあるけどこの村は小規模なので祭事なども一人で回してきたんだろうな。一向一揆に徴発されたりもあっただろうし。
牛車で運び込まれた物資をみて想像以上の量だったんだろう。
「こんなてんぽな、ええがんけ?」
と恐縮しきりだ。と言っても大八車一台分だ。そこまで多いわけじゃない。宅配業者が来て段ボール一箱分くらいかと思ったら10箱分くらい届いた、って感じかな。
「ただ山中では米などがあまり作れません、奉納する分は私達で何とか作りますが、もし余分があればお分けください。その分は他の何かでお返しさせていただきますので。」
物々交換を持ち掛けることで、今後の交流を図っていく。
「次の月には社の予定地に簡易な祭壇と集会場が出来ます。例大祭、と言っても大したことはできませんが、直会といって供物のお下がりをみんなで頂く食事会も行いますので皆さんもぜひ参加してください。もちろん手ぶらで結構ですので。当宮の宮司からも挨拶をさせていただきたいですから。」
「あら、お前さんが神主さんじゃないんけ?立派な身なりやし勘違いしたわ。」
俺が今着てるのは作務衣とはいえ、新品同様だ。確かに立派に見えるかもしれない。
「はい、私は別当の真護寺の住職です。当宮の宮司は代々女性でそれもあって外には出ないのです。なので皆さんが来てくれると本当に喜ぶんです。ぜひいらしてくださいね。」
「はあ、わかりました。そしたらぜひ例大祭によばれたいと思います。」
良し、まずは例祭に招待だ。そしたら次は毎月の月次祭。祭事での交流を習慣化させて思想的にも取り込んでいく。
村長は話していくうちに緊張が解けたのか段々と方言がきつくなっていくのでこれからは脳内で標準語に変換していく。一応丁寧に話してくれているのでヒアリングは可能だ。ちなみにここにきてすぐの村人同士の会話は理解不能だった。
「私の寺では子供にお経と一緒に読み書きや簡単な算術も教えていました。こちらでも同様の事をしていきたいと思ってます。掃除やお手伝いをしてもらいますが日供祭のお下がりを持たせますので、ぜひ利用してください。再開したらお知らせしますね。」
と子供を使った交流で取り込みも忘れずにしていく。
乙名のもとを辞し、拠点に戻る。
他の村に向かった崇久達はまだ帰っていない。ゲームと違って視点切り替えができないので彼らの仕事ぶりがわからない。
彼らの帰りを待つ間、周辺調査から戻ってきた配下からの報告を聞くことにする。もちろん遠方の調査はまだ手つかずだ。
現状で判明しているのは今が天文14年、西暦でいえば1545年だ。1545年の4月3日。ということは転生した日はエイプリルフールにあたる。もちろん転生が嘘や冗談だったということもないのでこの日付に何か意味があるのかは分からない。ちなみに元の未来だとクリスマスだった。犯人が神様だったとして、戦国転移がクリスマスプレゼントってことなのかね。まあよく分からないことを考えても仕方ない。
ともあれもう半年もすれば関東諸将が関東管領や古川公方と連合し8万の大軍で北条家の河越城を包囲することになる。このイベントは多少詳しい。何度も河越夜戦シナリオを挑んだからね。他は何かあったかな。特に思い当たらない。来年1546年は割と大きな出来事があるんだけどね。河越夜戦があって北条勝利。ゲーム的には信長の元服と初陣は重要イベント。他の大きな出来事は足利義輝が将軍就任。
おっと、今はまず現状確認だ。一昨日の計画で話した鳥越城はまだないらしい。いつできるんだろう。尾山御坊はどうだっただろう、石川郡の調査はまだ始まってない。小松城もまだだし、加賀三ヶ寺は大小一揆で粛清されて本願寺による加賀支配がまだ完全に本格化されていない段階じゃないのかこれ。
一向宗の拠点は原にある岩倉城と今江城、そして本覚寺か。大一揆で中心的役割だった超勝寺の名前はもう聞かなくなってると。そもそも聞いたことないけどな俺。
ともあれ付け入る隙は十分あるんじゃないかな。
ちなみに一応加賀守護もまだいるらしい。ゲームに出てこなかったのでとっくに滅んでると思ってた。富樫晴貞。石川郡野々市にいるようだ。利用できるのかね。史実だとどういう役割をしたんだろう。情報部としても今後の重要な調査対象になってるけど。
守護はともあれ、本覚寺にも一応挨拶というか届け出的なものをしておくほうがいいのかもしれない。