転がり始めるときは小石でしかない
「湖賊でもいれば面白いんだけどね。」
などと物騒なことを言うのは当然炎だ。
今は視察から帰ってきて、その報告をみんなにしているところだ。
「そうだね。まあでも居そうではあるよ。武装住民が多い地域だからね。明確な賊、と言えるかは分からないけど、他地域に侵入して賊行為をしている住民、という感じで。」
「いえ、それなのですが。」
「どうした氷雨?明らかな賊がいた?」
「ええ、江沼郡方面を調査している者からの報告に、3件ほど郡境付近で山賊や川賊と呼ぶべき集団がいるとのことです。」
「そっか、それなりに平和そうに見えたけどね。」
「一向宗の台頭によって危機感が無くなっているのかもしれませぬ。」
「自分達もやっていて賊行為が常態化しているから、賊そのものの存在も受け入れてしまっている?」
「受け入れているとまではいかなくとも、日常的な事ではあるので相応に危機感は薄くなっているのではないかと。」
「なるほどね。」
それで三湖沿岸の人たちには悲壮感や危機感が感じられなかったんだな。まあ単に節穴だった可能性もあるけど、
「いずれにしても討伐によって支持を集める効果が薄いなら、優先順位は高くありませんね。実効支配をする段に対応すればよいかと。」
崇久は討伐に乗り気ではないようだ。
一同の様子をみると炎以外は崇久に賛同しているようだ。
炎もそこまで賊退治を強行するつもりもないらしく、残念そうではあったけれど、特にそれ以上は発言しなかった。
賊に関してはそれで何もないかな。
「まあ、河川や潟の開発や安宅の発展、小松の活性化も同じだよね。統治後を見越した計画を今から考えておく、で。」
「はい、それでよいかと存じます。」
崇久以下も問題はないようだ。
「統治後に、支持基盤を固める為こそにやるべきでしょうな。ただ、」
「夜叉丸は何かあるのか?」
「安宅にて投機を行いたいと。」
「ああ、船で六兵衛と話していた件だね。任せるよ。計画と報告だけは抜かりなく頼む。」
「ははっ、確と。」
「他には何かあるかな。」
一同を見渡す。
「今回の視察で少し。」
「天籟か、何かあった?」
「水運を使えば、能美郡の掌握はそこまで難しくありません。現状戦力でも可能か不可能かでいえば可能でしょう。」
「ふむ。」
「ただ問題は維持です。支持と外圧。これに対応が出来なければ意味はありません。」
「それは当然だね。」
「そちらは専門ではないので皆様にお任せしますが、逆に言えばそれら対応が可能であれば、直ぐにでも行動を起こすべきかと。」
「確かに。時間をかけたところで本願寺の直接支配がより進むだけかもしれませぬ。」
崇景が賛意を示す。
「私の方で防衛には何がどの程度必要か、試算しておきます。それを整えるために必要な経費や期間なども。」
「任せるよ。皆も崇景に協力をお願い。」
「「ははっ。」」「承りました。」
「よし、では他に何かあるかな?」
なさそうだね。
「ではこれで今回は終了しようと思う、各自引き続きよろしく頼む。」
自室に戻ってきた。
「何か一つ動くと、全体的に動き始めることってあるよね。」
自然と桜と会議の話になる。
桜はあまり会議では発言しない。立場もあって言いたいことを抑えてるんじゃないかと思うこともあるからね。まあそこまで遠慮してることはないだろうけど、桜が何を考えているのかも知りたいからね。
「そうですね、そしてその流れを統御し一つの大きな目的のもとに集めて大河にすることが崇弘様や私の役割なのでしょう。」
「瀬織津姫の現身の桜らしい表現だね。」
「からかわないでください。でも私は今の真護寺と織津の在り方は好ましく思っています。」
「そうだね、俺もそうだよ。」
「崇弘様なら私たちを導けると確信しております。」
「そうだね、期待に沿えるよう頑張るとするよ。」