殺伐としないためにもこれは必要な事なのである。結果的にはともあれ。
何かと話題に出てくる白山比咩神社、神社としては『しらやま』と呼ぶが周知の通り霊峰白山の事であり、白山比咩神は白山を神格化した女神である。
だけど本宮は白山ではなく割と離れた剣と呼ばれる場所にある。
ちなみにその地には地名の由来となった古代から瓊瓊杵尊を奉る金剱宮もあり、こちらも比咩神社と同じく戦国期には荘園もなくなり衰退している。
白山そのものには奥宮と呼ばれる社があるが、この時代、白山に最も近い地域は能美郡に属している。
手取川上流、白山を開山した泰澄が白山守護に牛頭天王を祀ったことでこの地域は牛首と言われている。
この地域にはいくつも小さな村々があるが交通の便も悪く、冬も大変な豪雪地帯の為、交流も最低限であり、独特な方言が生まれるほど隔絶しがちな地域である。
以上が情報部からの大まかな調査報告だ。歴史にはそれほど詳しくないからね、基本情報部頼りになるのは毎度のことだ。
何故この地が気になっているのかというと、この地域に影響を持ちたいからだ。今の段階ではまだ領有まではしないけれど実質的な属領下におきたい。
ここが能美郡なら交流を持つことはそれほど変ではない。むしろ当然だ。
で、何故この地を欲しいかというとこの地には欲しい産物があるからだ。数寄者に人気の牛首紬ではない。硫黄である。
硫黄の産出地を調べてもらっていたのだ。貿易で入手しないといけないかもと思っていたので案外近くにあって助かった。
これで大体は揃うんじゃないかな。大倉岳の近辺、特に尾小屋では銅、亜鉛、鉛が採れる。それもかなりの量だ。
後は綿花か。有名どころは三河かな。そのくらいは知ってる。本證寺か。加賀一向宗とは直接の交流はなさそうだしな。また情報部に頼るしかなさそうだ。表がだめなら裏でもいい。頑張って入手してもらおう。
何を作るのかって?そんなの勿論火薬に決まってる。そうそれも黒色火薬じゃない、白色火薬だ。
そして銅と亜鉛で真鍮が出来れば薬莢が出来る。鉛は弾頭だ。まあ弾頭は採掘量次第で銅を使ってもいいし、技術的に可能なら真鍮で覆ってもいい。いわゆるフルメタルジャケットだ。貫通力が飛躍的に上がる。
だけど銅は高額だ。いくら豊富な埋蔵量とはいえ、あまり使うと怒られてしまうかもしれない。まあ「そういう事も出来るよ」という技術的な話だ。六兵衛の俺を見る目が少し怖い。きっと気のせいだと思っておこう。大丈夫、多分使わない。いや絶対使わないからね。
ともあれ。
俺は特に軍事オタクじゃないけれどその程度は知っている。硫黄から硫酸を作る工程は知らないけれど得られることは知ってる。あれ待てよ、確か尾小屋の銅鉱石は黄銅鉱だったはずだ。これを燃焼させたほうが簡単に出来た気がする。いやまあいい、どうせ大量に必要になる。それにどちらが良いのか俺には分からないからね。
知識チートとしては不完全だけどそれが何からできるか、どのようなものなのか、それらを知っているだけでかなりのアドバンテージだ。それが映画や小説、義務教育の知識だけでも。
「よし、俺からは大体はこんな感じかな。琥珀、研究に向いてる者、というか希望者は多そうだしその中から数人を選んでもらって研究室を作って欲しい。室長の人選も任せるよ。所属は教育関連かなとも考えたけど佐美の小父さんに任せようと思う。鉱山の管理も小父さんだから。」
「畏まりました。」
「ああ、任せておけ。」
「小父さん、前に話した施条の事は記憶にあるかな。」
「覚えているぞ、銃身の内側に螺旋状の溝を彫るんだよな。」
「そうそれ。あの時は間に合わなかったけど、今回は完成させてほしい。」
「量産するのか?」
「いや、可能性はあるけど今は技術力の向上が目的かな。火縄銃も結構あるし、何より現状は弓の方が実用的だしね。」
「確かにな。」
「量産を考えているのは半自動小銃かな。完全な自動小銃も欲しいけど。」
「自動小銃の方はともあれ、セミオートマチックライフルだったか。概念だけじゃなく機械構造も大まかには聞いてる。少し時間は必要かもしれんが、造るだけなら可能だろう。まあ量産は難しいかもしれんがな。」
「でも連弩の発想が古代から東洋にはあったのに、銃を連射する発想に至らなかったのは少し不思議だね。」
「技術革新なんてものはそういうものだろ。技術的に可能だから生まれるというより、それを思いつくかどうかだ。」
「なるほど。」
「まあ、ここには材料だけは沢山ある。腕を持った奴らもな。任せておけ。」
「さすが佐美の小父さん、頼もしいね。」
六兵衛の目線が気になりつつこの日の会議は終了した。
これからも秘匿度の高い打ち合わせは、更に重要になるだろうし必要になってくるだろう。
「それにしても今日の崇弘様はいつもより興奮なさってましたね。」
興奮って言われると恥ずかしいけど確かにテンションは高かった。軍オタではないものの、やはり銃器の類は心躍るものがあるよね。AK47とかドラグノフは何故か憧れる。つまり銃は浪漫なのだ。
男の強い嗜好というものは、いつの時代でも嫁さんの冷たい目に晒される、という事を学んだ一日だった。
まあ確かに少しキモいかもしれない。
そして俺は今日も翡翠の冷ややかな視線を浴びながら自室へ帰っていくのだった。