これもヤマアラシのジレンマというべきかもしれない。
桜による慰霊の祈祷は比較的簡素な形で行う。あまり大げさにはしない。午前中に済ませてお昼に直会も済ませていまう。
あまり大げさにしても人気取りで媚び過ぎになるし、今日中に用意を終えて明日の朝一で件の山賊討伐に出発するからだ。
氷雨や親父達の調査の結果は、思ったより背後関係が根深く無いとのこと。うちを警戒して何らかの罠にはめる為かとも考えたらしいけれど、そのような動きはなかったらしい。
ならば被害がこれ以上広がらないようさっさと叩いてしまえばいい、という事になった。
大げさにはしないといってもそれなりに丁重にもてなし、お下がりをお土産を持たせて見送った後、最終確認のための打ち合わせをする。
「皆揃ったな。では真護寺家、初の軍事行動だ。必要以上に派手にする必要はない。迅速にかつ安全に。作戦と戦後処理は改めて天籟から繰り返し説明する。」
俺は皆が集まったのを確認すると挨拶もそこそこに打ち合わせを開始する。
必要最小限で打ち合わせを終える。明日は早朝からだからね。みんなにも早く休むよう伝えたし俺もさっさと寝てしまおう。
翌朝、点呼だけで早々に行動を開始する。先発は俺を含む10人だ。目立った武装はしていない。比咩神社へ無事例祭を終えた報告に挨拶の品を届ける、という体だ。まあ実際予定していたので何もおかしなことはない。
大倉岳を南側から回り込むようにして、大日川を北上する。途中の五箇村には事前に伝えてあるので問題はない。当然、討伐するところまでは伝えていないので随分心配されてしまった。
小原を過ぎて石川郡の境を超える。しばらく川沿いを下っていくと川筋が大きく曲がる場所に差し掛かると、川原が開けている場所に差し掛かった。
炎が目くばせをしてきた。ここが襲撃予想場所だ。炎以下、平静を装いながらも奇襲に備える。
だけど山賊どもはそんなこちらの気も知らず、呑気に正面から姿を現した。
「小者を含めて30人、全員です。伏兵はありません。」
琥珀が耳打ちをしてきた。想定通り。想定通り過ぎて逆に疑心暗鬼になりそうだ。
「おい、手前らが大倉岳に根付いた山猿どもか。誰に断ってココを通ろおうってんだ?」
まさに山賊そのものだ。守護家家臣を名乗るならそれなりの振る舞いがあるだろうに。
「これは松永丹波守様、瀬織津姫神社別当、真護寺の崇弘と申します。治安維持ご苦労様でございます。白山様にご挨拶に向かっております。関料はいか程でございましょうか。」
「はっ。白山さんか、今はあんな奴ら何もできねぇよ。あの神主共、焼けるは荒れるはで食うに困る有様よ。その荷は俺たちが二曲様に届けてやるからよ。」
「といっても俺たちがほとんど頂いちまうんだがよ。」
「まあお前らが心配するこたねえよ。ここでおっ死んじまうんだからよ。」
「わはは、違えねえ。」
多少でも警戒したのが阿保らしくなるな。コントか。
「ひええ、お助けを~。」
こっちも真剣にやるのが馬鹿らしくなる。これでは恐怖で慌てて逃げる演技も、身が入らないことこの上ない。琥珀の悲鳴に笑いをこらえる。
しかしこんなの俺たちだけで反撃しても勝てるんじゃないだろうか。
そうは思ったものの折角考えて万全の準備をした作戦だ。荷物を放り出してきた道を逃げ帰る。当然、追手は半分以下、もう半分は置き去りの荷物が気になるようだ。きっと早い者勝ちなんだろう。
「荷も女も早い者勝ちだ!俺は女を追うぞ!」
良かった、追ってこなかったらどうしようかと思ったところだ。まあその方が楽なんだけども。まあ準備が無駄になることろだった。いや何を安心してるのか、我ながら馬鹿らしくなってきた。
荷物あさりをする者と追手組が十分離れたな、もうすぐ反撃のタイミングだな。そう思った直後、最後尾の炎の口笛があたりに響く。
逃げてるふりをした俺たちは走りながら小弓を矢をつがえ、振り向きざまに一斉射撃を行った。それと同時に前後に分かれた彼らの頭上から豪雨のように矢が降ってくる。
流れ矢による同士討ちを防ぐため、草木が生い茂る林の中から曲射による一斉射撃を行ったのだ。左右に伏せた者たちと俺たち囮10名の総勢80名、小弓による連続射撃だ。
軽装部隊を後発させて、少し離れた山中を並走させたのだ。念のため物見にみられることを警戒して偽装したんだけど、そこまでする必要も無かったかもしれない。まあ甘く見て何かあるより全然ましだ。
反転して最前面になった殿の炎とその両脇に控えた藤と菖蒲は討ち漏らしを狙うため、直射に構えて射掛けているが最初の斉射でほぼ片付いていたらしい。
炎は合図を出し斉射を止め、2人を伴って止めを刺していく。むやみに近づかず、黙々と射掛けて片付けていく。
鎧なんてものも着ていない、舐め切った山賊なんてこの程度だ。むしろ後片付けの方が大変だろう。
俺の戦国時代初の戦は過剰戦力による完全勝利で幕を閉じた。