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戦国時代に転移した話  作者: べりある
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根はより深く、より広く 4

 方針はあくまでも方針だし、想定はあくまでも想定だ。

 なんで突然そんなことを言うのかというと、しばらく荒事は起きないだろうという想定が外れたからだ。

 もちろん熊や猪ら害獣対策も十分危険だし荒事ではあるのだけれど、今回は要するに討伐対象は人間である。

 さてここで問題だ。現代人である俺が人を殺せるのか。殺すことに心理的な抵抗が無いのか。

 答えは当然、問題ない。の一言だ。

 よくある転生物で最初の壁や乗り越える障害。それが殺人への抵抗感。俺にはそれがない。だからといって能動的に行いたいとかそういうのも一切ない。そこは安心してほしい。実際事後に心の中で何かがあるのかもしれないが、その命令を下すのも、自分の手を汚すことも現状は全く抵抗は無い。

 『命のやり取りを行う』という事に対しての緊張感は当然ある。自分だけじゃなく250人の中の誰か一人が怪我をすることだけでも絶対におきてほしくないという感情はある。

 だから徹底した安全対策はする。だけど、いやだからこそ躊躇は一切しない。それと俺もその現場に立つ。さすがに先頭を張ることはしないけれど。感傷的な責任感とか殺人に慣れる為とかでもない。単に顔を売るためだ。大名クラスともなれば別だろうけれど、小集団の責任者ともなれば荒事を部下に押し付けるような印象がつくのはあまり得策じゃない。それにまだ手の内は隠しておきたい。今はまだ2~30人くらいの規模でしかないと思わせている。何から何まで当主が自らやらないといけない程度で、集団の規模としては侮っていてもらう。だけど頼りがいはあるという風に周知させる。

 今回はそれに丁度良いという事で決行することになった。


 話の始まりは、拠点からみて大倉岳の反対側、大日川沿いにある五箇村。小原、丸山、須納谷(すのだに)、新保、津江。その一帯の乙名からの相談だった。

 大日川は大日山に源流を持つ川で、その流域は能美郡に組み込まれている。だが下流に行くと石川郡に属する手取川と合流する。水利として少しだけ問題の起きそうな地勢になっているのだ。

 それで乙名が言うには、大日川が手取川に合流する地点、つまり能美郡と石川郡の境界線に山賊が住み着いたというのだ。

 旧守護家家臣一族を名乗る小集団が流れてきて住み着き、領境であることを利用して関所を設けて関料を徴収しているらしい。それだけならまあよくある話だけれど、最近徐々に横暴に振る舞うようになり、高額な関料を要求し、支払いを渋ると近隣の畑を荒らしたり、嫌がらせにごみを村に投げこんだり、挙句の果ては追剥や村の娘をかどわかしたりするようになったというのだ。

 彼らがより悪辣なのはその利益を石川郡の支配者層に上納金として納めて丸め込み、彼ら公認の組織となってしまっているのだ。彼らは石川郡側の山内庄へは全く手を出さないだけではなく、庄を統治する鈴木出羽守に取り入り、比咩神社へは付け届けをこまめに送る。石川郡の人たちにとって彼らは山賊ではなく気前の良い徴税官であり、頼もしい治安維持部隊であり、信心深い信徒たちなのだ。

 この五箇村(能美郡山内、同じ山内なので五箇村と表します)を統治するのは円満寺にある本光寺なのだが、加賀国内でも有力な石川郡山内衆や比咩神社とは揉めたくないのか、被害を訴えてもまともに取り合ってくれないというのだ。


「なるほど、それは大変でしたね。乙名さんにとっても村の方々にとってもお辛い状況でしょうね。被害のあった方たちには多少ですがお見舞いを届けせていただきますね。」

「あ、いえ、そういうわけには。話を聞いていただけるだけでも有難いのです。」

乙名さんや村の方々を労り、物心両面で支援する。

「私たちはこの地では新参者なのでどれだけ力になれるか分かりません。なので、せめてお線香代とお経だけでもあげさせてください。」

「もったいない、本当にありがとうございます。」

「宮司にも恨みが残らないよう祈祷をするよう伝えておきますね。」

「桜様にまで、なんといってよいやら、私どもは碌に何かをして差し上げてもいないのに。」

もったいなや、ありがたや、と言って乙名さんだけでなく同行している村人まで泣き出して、俺に手を合わせてかしこまってしまった。

 仏教が民衆のものとなった浄土真宗でもちゃんとした形で経を読むのはそれなりに対価が必要だ。祈祷だって安くない。というか乙名にとっては対価の問題じゃなく、親身になってくれたことの感謝だろう。俺としては勿論打算もあるけれど何かしてあげたいというのも本音だ。


 落ち着いた乙名たちを見送った俺は、傍に控える琥珀に伝える。

「桜たちを呼んでくれ。祈るためでも経を読むためでもない。これは俺たちの仕事だ。」

そう、これは依頼ではなくあくまでも相談なのだ。だけど俺は頼られたことが嬉しかった。自分たちの安全や野望の為じゃない。実際にこの地に住まう人たちのために活動できることが。

「かしこまりました。直ちに。」

恭しく頭を下げて立ち上がる琥珀。


大木が根を張るのは、自身が養分を確保するためだ。風雪に負けず倒れなくするためだ。だけどそれによって山は守られる。

だから遠慮しない。根はより深く、より広く。

「琥珀、絶対に解決するぞ。」


※地域間や各勢力間の関係はこの作品内の独自の世界観です。

あくまでフィクションとして楽しんでいただけたら幸いです。

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