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戦国時代に転移した話  作者: べりある
14/31

根はより深く、より広く 3

 例祭が終わって月末の定例会議だ。この時代なら評定と言えばいいのかな。

 議題はそれなりに集まった情報のまとめと今後の目標設定。幾つかの目標に対してそのままでよいか、再設定する必要があるか、などを話し合う。

 まずは現時点の報告をまとめる。

 現状は、本願寺による加賀支配がまだ完全ではないとはいえ、特に対抗する勢力もなく順調である、と結論付けられた。

 本願寺はいずれ顕如ヘ代替わりをして最盛期を迎える。だけどその顕如から本願寺坊官はまだ加賀へ派遣されていない。まだまだ加賀の実態は各地域の寺院と国人や下級武士による共同統治、という状態が続くと考えられる。

 有力な坊官である下間氏や杉浦玄任、七里頼周などが派遣された直接的な理由は、対上杉や朝倉の戦争指導の為。という事は彼らとの対立がなければ本願寺も地元の有力者も危機感を抱かず加賀はゆるい状態を維持できるのかもしれない。

 上杉や朝倉が一向宗へ侵攻するのをやめさせることは可能だろうか。いやそれは無理だな。一向宗は本拠地でもある越前奪還は諦めきれないし、朝倉側からしたら一向宗はテロリスト集団だ。そもそも加賀が欲しいわけじゃなく、対一向戦争は防衛戦争でしかない。

 上杉側だってそうだろう。庇護下にある越中を安定させるにはテロリスト集団の殲滅か無力化が必須だ。ただこの時期越後はまだ長尾晴景の代だ。謙信はまだ元服したてで戦が得意な若武者という評価でしかない。守護代長尾家を継ぐのもまだ3年程はあるし、将軍義輝から越後の正当な統治権を認められるのは更にもう少し後で、家中を完全にまとめるのも長尾政景の謀反討伐後だったはず。それまではまだ時間的に大丈夫。

 ちなみに能登畠山は小一揆を庇って抱えたものの、本願寺と事を構える気概はない。応仁の乱で落としてしまった威信を取り戻せないでいる。そのうち内紛が起きて自滅するので放置で良いはず。

 おっと、どんどん思考がそれていくのは悪い癖だ。もう一度順を追って考えよう。


 大小一揆の後、信仰の旗印としては本願寺に恭順したものの、加賀国の支配そのものは国人や現地寺院勢力の共同体によって統治されていた。そしてどんどん強くなる外圧に危機感を持った本願寺と加賀一向宗の両者の利害は一致して完全に一体化した。多分そういうことだと思う。

 問題は本願寺はどのタイミングで加賀の支配を確定したんだろうかという事だ。

 朝倉宗滴の本格的な加賀侵攻は大小一揆の後は1555年まで無かった。その時に本願寺から坊官は派遣されてはいない。仮にされていても有名じゃないだけなのかもしれないが、有名じゃないってことは加賀一向宗全体の指揮をとれるほどの立場じゃなかったってことだ。それに1545年の現時点で本願寺派の意向で現在進行形で尾山御坊を建立しているのは間違いないけれど、本願寺からその指導者が派遣されているという話は聞かない。技術者レベルでは派遣されてるのかもしれないけれど、一揆の指導者は派遣されてないという事だ。

 証如や事実上の本願寺の指導者蓮淳の時代は、加賀へ指導者を派遣していない。していたとしても影響力はなかった。そして顕如の時代になってからは何かあるごとに指導者が派遣されている。

 という事は、一向宗に反旗を翻すのは、超楽観視すればタイムリミットは頼総派遣の1566年と考えればいいのかもしれない。いや門跡になる前か。そうかうちの立場だと大和朝廷を敵に回す恐れがあるのか。

 では朝廷工作もしないといけない。それはどの時点からどういう工作になるのか。それも考える必要があるのか。

 とりあえずそれまでは加賀で何か有事が起きても本願寺は直接介入してこないと考えてもいい。実際は分からないけどひとまずそういう仮定で行く。

 そうすると決起はいつがいいのだろうか。

 1555年の宗滴による加賀侵攻は謙信と呼応しての作戦だったはず。その際にある程度の戦力を揃えることができれば一揆勢を駆逐できるかもしれない。越前や越後と連絡を取り合って一緒に呼応するか。それとも決戦後の消耗した後を狙うか。江沼郡や河北郡を失うかもしれないからね。

 いずれにしてもその後の事もあるから事前に交渉はしていないといけないだろう。

 その時に一斉蜂起できるように周囲を取り込むのか。それとも留守を狙って同時多発的に攻め落とすのか。あるいはそのどちらも同時に並行して行うのか。

 転移後に考えていたように少しづつに支配地を拡大していくのは見直して、10年をかけて暗躍するのが良いのか。そうなると当面は商人プレイと忍者プレイの再現だな。


 大体だけど、これが俺やみんなの疑問や意見をまとめた感じだ。


「すべての選択肢を捨てる必要はないかと思います。可能な限りの想定だけはしておいて想定外で判断が遅れる、という事だけはないようにしておきましょう。」

と言ったのは今回も光顕を部下に組み込んだ崇景だ。

「兄上、以前の領地拡張案はそのままで行きましょう。機会があれば領土を広げていくべきです。」

と崇久が今日の会議のまとめに入る。

「宗滴の侵攻がこの世界でも確実に行われるかは分かりませんし、仮に起きたとしてもそれに合わせて行動を起こせる保証もありません。」

「そうです、我々の存在がどういう影響を及ぼすのかは全くの未知数なのですから。大一番の賭けに出るより、わずかな機会をも見逃さず、堅実に確実に行きましょう。」

崇久に賛同するのは春久と冬。夏と秋久もうなづいて賛同を表している。

「これだけ雁首揃えて話し合って結局結論が変わらないってのは、今日の会議が無駄に終わったような気もするねぇ。」

「ふふ、そうかもしれませんね。でもそれは結果論ですよ。」

そんなことを言うもんじゃありません、ちゃんと意味はありますからね、と桜が炎をたしなめる。

「へいへい。まあ私は戦があれば戦うだけさ。」

炎は決してふてくされたり愚痴を言ってるわけじゃない。会議の終わるタイミングを見計らって、茶化したことで重い空気を払ってみんなの肩の力を抜いてくれてるだけだ。炎流のやり方で。みんなもそれが分かってるから苦笑いを浮かべたり、微笑ましく炎を見てる。

「この戦闘狂め。」

と光顕が楽しそうに突っ込んだ。

それを聞いたみんなは心の中で、炎は口に出して同時に光顕に突っ込んだ。

「お前が言うな。」「お前は戦争狂だけどな。」

と。

※本願寺と加賀一向宗の関係はこの作品での世界観です。

史実はもっと強固な関係だったのか、あるいはもっと放任だったのか、そこまで詳しく調べていません。あくまでフィクションとして楽しんでいただけたら幸いです。


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[気になる点] 上杉はまだ長尾 かな?
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