根はより深く、より広く 1
「崇顕様ならびにご隠居様方ががおいでになりました。」
琥珀が親父たちの来訪を告げる。ちなみに俺たちは普通に諱を呼ぶ。僧籍だったり神職だったりするので時代に合わせてロールプレイを徹底するなら法号と諱は分けるべきなんだろうけどね。まあでもうちの祭神は大和朝廷の記紀にも記載されていない、いわゆるまつろわぬ一族だ。うちの伝統は今の大和王朝の風習とは違う。真護寺もその一族だ。なので諱は忌み名ではなく普段から使うし、法号は同じ字を当てる。状況によって呼び方を変える。そういうロールプレイなのだ。
「で、何の用なのだ?若住職殿。」
早速父達が集まってくれた。きっといつ呼び出されても大丈夫なように配慮してくれていたんだと思う。若住職と俺を呼ぶのも嫌味でもないし遜ってる訳でもない。ほんの少しだけの照れ隠しでからかってる感じだ。代を替わって隠居しているんだと周囲に知らしめてくれているのもある。ゲーム的には忠誠心という数値だったけれど受肉後の感覚だときっとこれは先代としての責任と親としての情なんだともう。
「前置きはいいよね。親父達には近隣の領主クラスへの折衝をやって欲しいんだ。」
ゲーム時代からこんな感じだ。時代的な常識で正しいのか分からない。
「ほう、具体的には?」
親父も当然気にしないし、むしろどことなく楽しそうだ。
「荒れた石川郡から流れてきた小規模な神社の一族が、この大倉岳での建立の許可を求める。というのが主な目的かな。寺社領もこの山で自活できる程度の最小のものしか要求しないしその代わり兵役というか一揆には極力参加したくない。食料の供出程度は出来るかもしれないけれど期待はさせないでほしい。教義的な対立は避けたいし、警戒心は極力持たせない。まあ匙加減は相手の反応次第で任せるよ。」
多少説明不足感はあるけれど、親父達ならこれで汲んでくれる、と思う。確認のために対面の床几に座っている親父達を見渡した。
それぞれがそれぞれな表情で前向きな反応をしている。種類は違うけどそれぞれ威厳溢れる武将達だ。いろいろなプレイで経験も積んでいる。任せても大丈夫だ。そのなかでも一番乗り気なのは親父の弟の季久だな。
「なるほどな。まあお前らはまだ若い。見た目だけで舐められるかもしれんからな。分かった任せておけ。」
とかなり前向きに請け負ってくれた。
「叔父さんはいつも頼もしいね。」
「無論だ。」
さも当然のように賞賛を受け入れる。なんというか安心だね。
「あとそれぞれの相手が一向宗の中でどんな役割というか立場なのかもわかる範囲でつかんできてほしいかな。誰が誰の相手をお願いするのかは後で琥珀から聞いてほしい。多分もう決まってるから。それと、それぞれの相手ごとの注意事項は崇久も含めて話し合って確認してくれ。」
「ああ、了解した。」
快く応じてくれた親父達は琥珀を伴って崇久達が打ち合わせをしている隣のテントに移動していく。
「で、佐美の小父さん。小父さんには鎬と一緒にこの近辺の銅鉱を調査してもらいたいんだ。それも極秘にね。」
「分かった。任せておけ。氷雨と天籟を少し借りるぞ。」
その他の隠居組にもそれぞれの役割をお願いしていく。こういうのは俺がやらなきゃいけないことだからね。
「お疲れ様でございました。今日はこのくらいでお休みになってください。すっかり遅くなってしまいましたが夕食の準備をします。それと桜様がお待ちです。そちらに用意いたしますね。」
「そうかもう結構遅くなったのか。」
ゲームでもそうだったけど何かに打ち込むと時間を忘れてしまうんだよな。
ありがとうと翡翠に感謝の返事を返して、桜が待つテントに向かう。
時間を忘れるのはゲームと同じだけど、ゲームと違って派手な展開はまだ当分起きそうにはないよね。まあリアル志向の『BUSHI』は序盤の準備が長いゲームだったけど、それでもそれなりに荒事はあったからね。山賊や無頼漢に絡まれたりね。それでもゲームはゲームだ。細かいところは色々と省略されている。現実は、これが現実なのかはまだよく分からないけれど、現実はゲームと違って省略されないことばかりだ。むしろそれが現実が現実たる証なんだろうと思う。
そういう部分が嫌になって全部やめてゲームにのめり込んだのにな。そう思うけれど、これはこれで好ましいと思っている自分がいる。
明日も明日で頑張ろう。
桜と翡翠と一緒に食べる夕食は簡素なものでしかなかったけれど、宅配で食べていた人気店の料理より全然おいしく感じられた。
真護寺崇顕 しんごじたかあき
主人公の父。先代真護寺持住。まつろわぬ民の一族の長として密かに勢力を保ち育ててきた。上位の天狗のような威厳を持つ。寺社勢力プレイで作成。実は他社人気ゲームとのコラボイベントのクリア特典として得た大妖怪鞍馬天狗キャラ。ちなみにゲーム内での妖術は武将ごとに使用できる特殊戦術の一つとして他の武将と同様に設定されていた。三国志コラボで敵将として出てきた張角の妖術より強力だったのでゲームバランスを壊したくない主人公によって寺社勢力プレイ時に人間に作り替えられた。ゲーム内で妖術は別の戦術に変更され、当然今も妖術は使えない。その経緯もあって「真護寺は瀬織津姫に調伏され眷属となった天狗を祖に持つ。」というフレーバーテキストを追加した。
佐美鉄舟 さみてっしゅう
海賊プレイ時に作成した船大工の棟梁。職人タイプとして作成。主人公は基本的に親世代の武将の事はおじさんと呼んでいる。遠縁にあたるため叔父や伯父ではなく小父さん。BUSHIの幅広い職業設定ゆえ、新規作成武将には多くの生産職がいる。船大工が活躍できるプレイモードは多くないため、鉄舟は船大工を隠居しそれら生産職のまとめ役となった。容姿は和人版ドワーフ。能力値は生産職特化。巨大船や大規模な拠点建設にも指揮をしているのでそれなりに統率能力もあるが他の軍事的な能力は平均以下。腕力はあるので個人戦闘が弱いわけではないが志向的に軍事向きではない。ちなみに佐美一族は本来織津の製鉄を担ってきた一族。「海賊プレイと言えば鉄甲船だろ、鉄甲船なんだから佐美一族でいいじゃん。」という事で佐美一族で作成したのだが、とある海洋航海ゲームに影響されて西洋船を建造するようになった。主人公のプレイスタイルに最も振り回された武将でもある。
佐美鎬 さみしのぎ
鉄舟と同じ佐美一族。刀鍛冶氏。剣豪プレイ時に刀匠として作成。職人タイプ。鉄舟とは違い主人公らと同じ現役世代。後の鍛冶師プレイ時には刀剣部門を担当してクリアに大きく貢献した。その引き換えに主人公の刀鍛冶師として経験は中途半端になった。剣豪プレイと同様、リアル技能の習得をせずにクリアするいわゆる効率プレイの弊害である。鎬の能力は刀匠として極めるために剣術はそれなりに習得している。その他能力は平凡以下。