根をはる。ということは。 4
話は変わるけど桜や崇久達、配下武将のみんなを作った『BUSHI』というゲームのシステムは、新規作成武将の人格や性格などは義理堅さや向上心など数値を入力して決めるものもある。けれど、AIがゲーム内でどう動き、どういう会話をするのかの判断基準は『列伝』という項目に何を書くかで大きく変わる。そこに『崇弘の弟である。』と書き込んでも血縁関係がある設定となるし、そう判断して行動するのだ。だけど舞台は戦国時代。いくら血縁関係があっても裏切るときは裏切るし、謀反まではしなくても意に沿わない行動もすることがある。それを防ぐためには列伝に『忠義にあふれ決して裏切ることはなかった』と書き込んでもAIが「その時とは状況違う」と判断するかもしれない。なので褒美を与えたり、日ごろから会話や手紙などで交流を深めたり、いくつか方法あるけれど、俺がやったのはつなぎ役や纏め役を作るということ。具体的には親世代の武将を作ったのだ。普段は前線には出ないけれど、有事には後方支援や留守を守って貰う。そういう役割もあるけれど、本質的には俺と新規武将達の潤滑油だ。列伝にも『隠居後は家中の取りまとめや人間関係の円満化に腐心し、』という一文を書き込んでおく。ゲーム内でAIがどういう思考で判断しているのかは分からないが彼らを作ったことで向上心が強い武将を作っても独断専行をしたり命令の不履行などが劇的に減った。もちろん俺が独自に考えたことではなくて先達者のプレイ動画を参考にしたものだけれど。
ということでもちろん転移したこの世界にも親世代は受肉している。彼らは設定どおり自発的な発言を控え一歩下がって相談役に徹しているし、その分自発的に拠点建設や周囲の調査などの実作業を買って出て請け負ってくれている。
彼らは人間になったので色々な感情や欲はあるはずだけれど、変に前当主感を出して威張ったりもせず頑張ってくれている。
その一人と打ち合わせをしていた際
「若住職は常に前線で戦いながら、一族を無駄死にさせることなく苦心し、どんな厳しい状況でも前向きに頑張ってきました。それを皆が覚えているんですよ。」
とのことだ。
「愚痴っぽいところや一言多いところがマイナス査定ですが。」
というお付きの翡翠の一言のほうが余計な一言だともう。
「俺としてはゲームを楽しんでやってただけなんだけどね。」
「それでもですよ。あの時の感情はどうだったのか、それはもはや思い出せませんが、今はこうやって生きていられています。皆若住職には感謝しておりますし尊敬もしているんですよ。」
あの時はそういうつもりでやってたわけじゃないんだよね。まあゲーム的には裏切られたりしないためにもそういう風にプレイはしていたのでそうじゃないとは言えないのかもしれないけれど。そうだけどそうじゃないといえばいいのか。よく分からなくなってきた。当然嬉しいけれどそんな大げさな、という思いもある。鈍感系主人公じゃないから必要以上に謙遜したりかしこまったりはしないけどね。ちゃんと思いは受け取ってその分も頑張っていきたいと思う。
当然、翡翠の事もだ。
そういえば前世、と言えばいいのか転移前の世界でよくあったアニメや小説で、ヒロインに思いを告げられてもよく分からない倫理観や責任感で躊躇したり拒否したりする鈍感系主人公がどうしても理解できず共感できなかったな。社会の目が厳しい21世紀の日本ならともかく。どうしても好きになれない、状況が許さないといったことでもないのに、思いを受け入れてもらえないというのは何よりとても辛いものだ。それがたとえ恋愛感情でも忠誠心だとしても。
ともあれ俺は翡翠や琥珀、そして配下武将達みんなの思いは絶対に無下にはしない。
ちなみに中身が40代のおっさんなであることはゲーム中に伝えてなかったので、みんな当然知らなかったらしい。騙すような気がしたので早々に打ち明けたんだけれどそれについて特に反応はなかった。一部の配下武将からの若呼びが変わらなかったのも含めそれはまた別の話だ。
さて、みんなの思いを無下にしないためにも全力で取り組むべきだ。ということで親父たちにもまだまだ現役で頑張ってもらうことにした。
「そういう中間の思考をすっ飛ばして結論だけを伝えてしまうのが、無理解や不信に繋がっていくのです。崇弘様は一言多いくせに言葉が足りないのです。」
と翡翠からの厳しい指摘だ。
そうはいっても転移前からそうだったからなぁ。21世紀日本社会でもそれが原因で全ての事業をやめてしまったようなものだ。なのでゲームでは失敗しないように琥珀や親世代の武将を作ったのもある。
きっと言わなくても分かってくれるはずだ、というのは甘えだ。それは分かってる。可能限り口に出して説明しているつもりだ。でもやはり足りなかった。なので開き直って琥珀に任せることにした。そういうことだ。
何より当の琥珀も「承知いたしました。」と言ってくれてるし、翡翠の小言はとりあえず前向きに頑張るよ、という思いを込めた笑顔で対応して会議を進めることにした。
「というわけで改めて親父たちを呼んできてくれないか。」
※注意書き
主人公の人格描写において、いわゆる鈍感系主人公や、成人の記憶を持って転生したのにも関わらず聞き分けのない幼児的な行動をとって周囲に迷惑をまき散らす系の主人公、転生をやスキルを受け入れられずに物語を通じてずっと嘆いている主人公が嫌いです。まったく共感できない性格です。多少強めの反感すら持っています。そういう思考になった経緯は勿論あるのですがこの作中で描くことはないかもしれません。そういう性格なんだと思ってください。
そういった物語が好きな方にはご不快申し訳ありません。筆者としてはそれらの物語を批判する意図は全くありません。その点だけご留意をお願いいたします。