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【4日目】 O型のアンラッキーカラー:黒

 ものを描くのに精一杯で、ゲームやれないや(汗)


※noteにも転載しております。

 きようは平日。


 とくに約束をしていなくても、一樹(かずき)に逢える日。


 だけど、その「逢える」がこんなに怖い日がくるなんて、あたしは想像したことがあっただろうか?

 通いの駅がちがうあたしたちは、とちゅうで待ちあわせたりしない。どちらかがさきで、どちらかがあとに着いていて。そして「おはよう」をするんだ。


「おはよう」

 どうやら、きょうはさきに着いていたのは彼のほうだったらしい。あたしの気も知らないで、顔を見るなりあいさつをくれる。

 そしてあたしは。

 きのうのそっけなさを、ののしるでもなく。

 いまかかえている不安を、ぶちまけるでもなく。

 これから彼が話すはずの事情を、あれやこれや想像するでもなく。


 ただ、あたしは。

 彼が、無事そうで。そして、その表情に沈んだものがないことを見て、まず安心した。

 血液型占いを信じていないわけじゃあないけど、あんなのは絶対じゃあない。

 だから、まんがいち。

 彼のほうに不幸があるくらいなら、やっぱりあの占いがあたって、あたしが不幸になったほうが何百倍かましだっておもった。

 だから、あたしはおもう。

 彼が、無事そうで、ほんとによかった。

 これで、きっと。

 きのうの占いによる、あたしの不幸が確定しちゃうんだろうけど、それだってどうでもいい。

 安心をとおりこして、またもや涙目になるあたしを。

「ねえ、ちょっと来てよ」

 一樹(かずき)は、(かばん)を置くひまもあたえずに、そばへとまねく。


 きた!

 きのう彼が送ってきたメッセージ。そのそっけなさの理由を説明してくれるのだ。

 覚悟をきめてきたはずが、いざとなるとびくびくするあたしを、うずうずするように彼はせかす。

「これ、見た?」

 彼は手にしていた、スマホを差し出す。

 でも、ひらいていたのはいつものゲームのアプリではなく。例の漫画の公式アプリにある、血液型占いのコーナーだった。

 あたしは、うなずく。

 きょうの運勢。あたしのA型はラッキーカラーが黄色で、彼のO型は青。ちなみに、最悪な運勢のO型は、アンラッキーカラーが黒だったりする。

 朝起きて、さいしょに占いをたしかめたあたしは。A型にアンラッキーカラーがないことに安心して、ピンクのケースをスマホにはめなおしたんだ。


 で、その占いがどうしたの?

 あたしが疑問を口にするまえに。

「だから、ちゃんと来てってば」

 一樹(かずき)は、あたしの手をつかむと。アプリの占いを閉じて、スマホを操作しだす。

 ひらいたのは、べつのアプリ。こんどこそ、あのゲームのアプリだ。

 きゅうに(つな)がれた手にとまどうあたしに、説明のひとつもなく。彼は、きょうのぶんのデイリーボーナスをうけとるべく、片手でスワイプとタップをする。

 そして、画面をのぞきこんだあたしにも、緑色したカプセルがころがってくるのが見えた。

「いいね? タップするから」

 は? なにが「いいね?」なんだか。

 わけがわからず、もうどうぞお好きにってかんじのあたしの手を(つな)いだまま。一樹(かずき)はカプセルをタップする。

 ぱっくりと割れて、そこからは——


「やった! やっぱり、あの占いあたるんじゃん」

 はしゃぐ彼。なんだか、金色のフレームにきらきらしたエフェクトをつけて。どうやら、きょうのぶんはキャラガチャだったらしい。黒いマントとモノアイの仮面をつけた、キャラのイラストが出てきた。

「よし! これで、きのうから二連続!!

 ほんと、ありがと」

 まだ、(つな)いだままの手を、ぶんぶかふりまわしそうないきおいに、あたしはちょっと待ってをかけて、説明を求める。

 だいたい、なんであの血液型占いが「あたる」なのよ? きょうのカプセルは緑色だったじゃないの。

 ……あ!


 気づいてしまったあたしを、知ってか知らずか。一樹(かずき)は得意そうに、種あかしをしてみせる。

「おれのラッキーカラーは青で、そっちは黄色。

 混ぜたら、何色(なにいろ)になると思う?」

 なるほど。そうやって緑色のカプセルから、レアなキャラをひきあてたわけだ。

 正直、ばかばかしいとも思わなくはないが。ガチャをひいたあともまだ、(つな)がれたままのふたりの手を、ちょっとだけ強くきゅっとする。なんだか、(おこ)る気にはなれない。

 あれ? でもそしたら、きのうのは?


 あたしが求めるよりはやく。彼は種あかしのつづきをしてくれる。

「いやあ、きのうはカプセルの色が青でさ。

 きょうが青だったら、おれのラッキーカラーだったんだけど。

 きのうの占いじゃ、ほかの血液型もラッキーカラーが青のやつがいなかったんだよね」

 ふむふむ。

「そしたら、きのうのおれのラッキーカラーは紫で、そっちは赤なの。

 ——だからさ」

 だから?

「紫から赤をひいてやれば、青になるだろ?

 ごめん。だから、きのう連絡とれなかったんだ。ちゃんと『ひいて』やらなきゃ、御利益(ごりやく)ないだろうし。

 おかげできのうのガチャも——痛っ!!」

 そこまで聞いて。

 あたしは、彼の足を思いっきり踏みつけた。

 ただし、(つな)がれた手は、まだそのまま。こっちを放してやるのも、それはそれでしゃくにさわる。


 ようやく、あたしの機嫌(きげん)を察した一樹(かずき)は。土曜日にふたりで映画に行く予定と、そのあとのランチをおごってくれる(つぐな)いの約束をくれた。

 しかたない、それでゆるしてやるか。

 ふふ、だけどあの血液型占い。

 ほんとによくあたる。

 踏まれた足をまだ痛そうにしている彼を見て、つくづくそう思った。



 だって、一樹(かずき)の足を踏んだ、あたしのブーツの色は。


 他でもなく、彼のアンラッキーカラーの黒だったのだから。

 めずらしく、ハッピーエンド。


 おつきあい、ありがとうございました。

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社畜女子は星座占いがお嫌い
作者:未来屋 環 先生
― 新着の感想 ―
[一言] 他の人にとっては「そんなことで?」と思われてしまうようなことが、自分にとっては絶対に譲れなかったり拠り所になっているようなことってありますよね。それが彼にとってはゲームで、彼女にとっては占い…
[良い点]  振り回されっぷり、堪能いたしました。  本当に、傍から見てると『なんでそんなことで…』なのですけど。本人にとっては大きなことなのでしょうね。 [一言]  ………別れちまえ、そんな男。 …
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