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排泄の念

作者: 高木和久

この前、街を歩いていたら。

誰かに刺された



正直、これで楽になれると思った

銀杏並木の中の公衆便所の大便室でである

ちょうど夕刻だったので同じむじなはいなかった

排泄の刹那が襲ってきたとき

施錠を壊して。

怖い人が入って来て、胸を刺された

分身よ、せめて肥だめとして成仏せよ

信号向かいの交番は殺風景な気がしてたんだ

パンストを被ったおじさんは、あわてて僕の懐をあさっている

今日はお日様が真っ赤だ

ウルトラマンよりも短い命

もう一度アル・カポネに会いたい

あの娘が聴いたら悲しむかな

M78星雲の闇の中に、この体は浮遊し続ける

万有引力なんてどうでもいい

頭が重たくなるだけ。



屋外ではみんな戦争が始まると騒いでいる

そんな気がしたんだ

札束はちり紙替わりになりました

宣戦布告の号外は木枯らしに乗って、旋毛を描いている

明日は間違い無く雨だろう

どこの墓に入ろうか

先祖代々の墓はカビが生えているから嫌だ

男らしく、このまま流してくれ




開戦騒動の真っ最中、パンストは居なくなっていた

お元気で。精々長生きしろよ。

どこかで野良猫が鳴いていた

明日の新聞が心なしか楽しみである

眼の前が真っ赤になったと思ったら、なにも見えなくなった

もう近いのかもしれない

血圧が薄っぺらく

下半身は戦車のように重たい

両親に知れたらと思うと恥ずかしい

希望なんて排泄のようなもの

この世は便器の蓋でしかなかった


せめて明日が。

晴れでありますように

晴れでありますように


僕の躰はバラバラになって海を目指し、流されて行く


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