#01 なんの変哲もない日常
僕自身、自分の人生が平々凡々だなんてことは思ったことはない。
でも、それでもある程度の普通の人生を歩んで、出るところは出すぎずに普通に生きて死んでいくんだろうな、って思っていた。
漫画や小説で見る劇的な変化なんてものは訪れないんだ。
世界を救うために魔王を倒すだの、どこかに冒険へ出かけて宝を見つけるなど、そういう事は起こらない。
そりゃあ、そう言うのに全く憧れないかと聞かれると少しは羨ましいし面白いとも思う。
けど、僕は今の日常に満足してるから別にいい。
今の日常が続けばそれだけで十分だ。
いや、そう思っていた。
あるいは、望んでいたのかもしれない。
僕は、思わなかった。
想像すらしていなかった。
僕が、世界の命運をこの手に握るだなんて......
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『ピピピピピピピピピピピピピピピピ』
部屋に目覚まし時計の音がけたたましく響く。
「んわぁー、眠いわー。」
無意識のうちに言葉が出る。
相変わらず朝は苦手だ。
肩まで伸びている白髪をいじくりながら布団から出る。
僕の名前は白雲霊。15歳の中学生だ。
いや、正確には中学生だった。
「...なんで高校なんか行かないといけないんだよ〜。」
僕は今日から、高校生になる。
ああ...ダルいわぁ...
めちゃめちゃサボりたい...
目をこすりながらも少し早足で部屋から出る。
早足で出る理由は、時間がないからだ。
現在時刻は8:00。学校が8:30からなので結構時間がギリギだ。
僕は生活面でそこそこズボラな方だと自覚はしているが、時間は結構気にする。
まあ、歴史上の偉人は意外と時間に厳しい人が多いって聞くし、もしかしたら僕って結構偉人タイプなんじゃないの!?
......まあ、よく寝坊はするけどさあ。
そんなくだらないことを考えながらリビングのドアを開けると、そこにいるのは一人の少年とピンク色のロボット。
特徴的なところは、少年は長く伸びた黒い前髪で顔が半分隠れており、
ロボットはメイド服を着ている。
...いやロボットではないか。こいつは、魔道機具・ゴーレムだ。
足が速い。
よくお使い(という名のパシリ)とかに行ってもらっている。
ご飯も毎回作ってもらってるし、ジュレがいなくなったら生きていける自信がない。
...いや、生きていけるとは思うけど。
「おはようー。空ー。ジュレー。」
黒髪の名前は黒川空牙。ロボットの名前はジュレア=ムワイトス。
二人とも僕の友達だ。
「おはよう。お前いつも眠そうだな。もうちょっと早く起きろよお前。」
「おはようございます。我が主。」
空はいつもなんかしらの小言を言ってくる。
言い返そうとしても空は頭の回転が良いので簡単に言いくるめられてしまう。
「うるさいなあ......やろうと思ってもできないんだから仕方ないじゃん。」
「まずやろうとしてないだろ。」
「むう......」
やはり口では空に勝てない。
力とかだったら大幅に勝ってるのに。
...まあいいや。ご飯にしよう。
食パンを取り出し、そこにドバドバとチョコレートを塗る。
そこの上にさらに生クリームも乗せる。
ついでに、トッピングでチョコチップを乗せる。
さらにそれを後2枚作る。
最早、職人並みの手つきだ。
一般人が食べたら一ヶ月でおまんじゅう体型になると思うけど僕は太らない体質だから大丈夫だ。
というより、常人よりまあまあ運動してるのも原因だろう。
「うげえ......ジュレア。霊のあれは毎度ながらパンの枠組みを超えてるだろ。もっとこう...深淵に塗れた何かだ。ていうか、あの質量兵器食ってよく太んないな。」
「創造主よ。あの乳脂肪分と糖分の塊を摂取すると通常ならば体に害を及ぼし体重の大幅な増加は避け難いと予測できますが、主は食べ物を消化しやすい少し特殊な体質と、普段からの運動量が非常に多いいことが原因で肥満を回避していると思われます。また、糖分の過剰摂取による体への悪影響ですがこれも常人ならなんかしらの悪影響で糖尿病などになる可能性が高いですが、主の場合、そもそもの肉体性能が異常なのとあれを毎日摂取していることにより体に耐性ができ.........
「いやいや、ジュレア...そういうことじゃ、なくてだな。
なんというか...その...。はあ、なんで家の奴らはこんなのばっかりなんだ。」
「創造主よ。今の発言、大変不愉快です。
ワタシをあの人外の怪獣と同列に語らないでください。」
「いや、そもそもお前はだな......
あーうるさいうるさい!!
空とジュレがなんか話してるけど、放っておこう。
【触らぬ神に祟りなし】ってのはよくできた言葉だ。
わざわざ絡んで仲裁するのが面倒臭い時に言い訳をしやすい。
昔の人は大層、言い訳が好きだったのだろう。
まあ昔の格言は苦手だけどね。
なんか偉そうだし、自分の言ってることが絶対正しいみたいな感じがちょっと......
《チーーーン!!》
おっと、パンが焼けたようだ。
☆
はあ〜食った食った。
「空〜。今日から高校行くんでしょ?なに持ってったらいいかなぁ?」
服をパジャマからパーカーに着替えながら聞く。
この水色のパーカーは僕の一番お気に入りの服なのだ。
「初日は体育館での挨拶だけで終わって授業も無いらしいから飲み物と筆記用具を持ってきゃ十分だろ。」
「了解〜。じゃあすぐに準備する。」
そうして、部屋に向かおうとしたが......
「主。もうすでに準備は終わらせております。」
そう言ってジュレがリュックを渡してきてくれた。
このメイド有能だわぁ。
というか、なんでメイド服着てるんだろう。
空の特殊な性癖かな?そうだとしたら中々気持ち悪いんだけど。
......まあいいか。
よく無い気もするが。
「じゃあ、行ってきます!!」
「...行ってくるわ。」
「我が主、創造主よ。どうぞ、行って来てください。
...お身体に気をつけて。」
そうして家を出て近くの空き地に来る。
「じゃあ空、クロウ出してー。」
「了解だ。」
空が一言なんかつぶやいた。
そうすると、翼の影からなんか飛び出てきた。
『オハヨウダぜーっ!ヨゥ!クーガ!レイ!』
クロウだ。
Abilityの能力、『念話』を使って心に話しかけてくる。
見た目は一言で言うならカラス。
二言で言うなら影を纏っているカラス。
もっと言うなら真っ黒で影を纏ってるおしゃべりなカラス。
要するに多少アホさはあるが基本的に気のいいカラスだ。
いつも空の影の中に潜んでいる。
ちなみに黒影鴉という強力な魔獣らしい。
なんか空が言ってた。詳しくは知らんけど。
あとサイズが無駄にでかい。
普段は翼を広げて2mくらいのサイズだが、これは自分の体をAbilityの『体積変換』で縮小しているからであり、本来のサイズは20mほどもある。
「じゃあ、クロウいつものお願い〜。」
「早くやってくれ。」
『アイヨッ!!アイカワラズ、カラス使イガ荒いゼ!!カッカッカ!!』
そして地味にうざい。
黙ってたら体から出てる独特なオーラーで威厳があるように見えるのに、なんでこんなんになったんだろう......
まあいい。
駄菓子菓子、すでに時刻は8時20分。
学校の門限は8時30分。しかもここは山の上。
ここから学校まで普通に歩いていくと、かかる時間は5時間強程。
普通に考えるとどう考えてもこれから時間内に学校に着くことなんて不可能だ。
だが、クロウがいるならその不可能は変換され、可能になる。
普通なものでは無理でも、僕たちは普通なものではないのだから。
『フゥ、ジャア行クカ!!ヤル気、一発!』
「変な事言ってないで頼むから急いでくれ。」
『ワカッタヨウ!全ク、ジョウダンが通ジネエ男はモテねエゼ!!』
...やはり少しうざい。
まあいい。
そう言うとクロウは元の姿、20mの巨大な姿になった。
『ヨッシャイクゾオ!!毛に潜リコメェ!』
僕らが毛に潜り込んだのを見るとクロウは空に向かって飛び立った。
毛の中に入っていても突風が吹き荒れる。
音もまともに聞こえない。流石の速さだ。
クロウは黒影鴉という希少な魔獣で、速さだけなら全魔獣でもトップクラスと空が言っていた気がする。
今は僕らが振り落とされないようにゆっくりと200キロほどで空を飛んでいるが、それでも十分すぎる速度だ。
7分ほどで学校の近くの広場に着くとすぐクロウを空が縮小させて影に潜らせ、学校へ走る。
もはや手慣れた手つきだ。
なんやかんだで、今まで一度も遅れたことは無いしな。
慌てて校門に向かって走り、チャイム5秒前で体育館へ飛び込む。
その光景は平和だった
何の変哲も無い日常だった。
だが、僕らは知らなかった。
この平和が仮初である事もこれからそれが崩れていく事も。
前回の投稿から1週間も時間がたってしまいました(⌒-⌒; )
まだ2話目なのにもう書くのがキツくなって来た人間です()
飽きっぽい性格ですが、頑張って『漆黒の眼光』は完結まで作りたいです。
という訳で、モチベ維持のために評価ブクマ感想などよろしくお願いします((