#00 虚空に流れる声
西暦2025年3月27日13時32分、この日は人類にとって大きな転換点となった。
「ねえ、あんたまだ彼氏できないの?」
「先輩〜。課題全く終わんないんですけど、どうしたらいいんですか〜?」
「ほお...ミクの新しい音楽が登場かあ...」
「眠い〜学校行きたくねえ〜。」
「よし!今日も仕事頑張るか!」
周りに聞こえる声。
普段通りの日常。
普段通りの会話。
そこに明日に対する不安や恐怖を持っているものは一部の例外しか存在せず、
ほとんどの人間が毎日をただ生きているだけという日常。
自分が生きる意味も持たずに、ただ生きているだけという日常。
当たり前のことだ。
誰が1秒後には自分が死んでいるかもしれないと思えるだろうか。
誰がこの星が、もう滅びに向かっているとも思えるだろうか。
だが今、星の崩壊を止める光明ができる。
手段を選んでいることなど出来ない。
僕らには、そんなことを思う資格なんてない。
さあ、世界を救おう。
そして、『神』を作ろう。
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この星の全ての生き物に、背筋が凍るような抑揚のない音声が響き渡った。
『...............ピッ......ピピッ.........
全生物への意志疎通に成功しました。これより、プロジェクト[FEXN]を開始します。』
いきなり、脳内に流れる音声に戸惑いを隠せない人間たち。
(頭に声が響き渡ってくるような感覚...この声は一体、誰が話しているんだ?)
(これはなんだ?周りのみんなには、聞こえているのか?)
(なんだ?これは?異国からの攻撃か?)
(分からない...一体なんなんだこれは....)
ざわめく民衆。
変化が起きたのは、その直後だった。
『魔術を模倣し擬似魔術、『Ability』を作成します.......
成功しました。
続いて、全生物の肉体をAbilityに馴染むように作り替えます...
成功しました。』
この瞬間、世界のほとんどの人間の見た目が急速に変化していった。
髪の色が金色や赤色などに変化し、体つきもややたくましくなる者。
他にも、横に耳が伸びたり肌の色が変わるするような者もいた。
それ以外の動物の変化はもっと大きい。
鹿は角がものすごい速さで枝分かれして、角が木のようになった。
カラスは、周りを黒い靄がまとい、体が大きくなった。
蛇は体が大きくなり、足が生え、伝説の龍のような見た目になった。
しかし、驚きも束の間
時は待ってくれない。それはこの世界においても同義である。
「続いて、Abilityを全生物にインストールします.......
成功しました。』
突然、この星の全ての生物に激痛が走った。
Abilityを無理矢理インストールした副作用である。
しかし、その痛みは並のものではない。
針山の上を裸で転がされているような痛みだ。
とにかく全身が針で刺されているように痛く、熱い。
当たり前だ。なんせそれは、神でさえ苦痛を伴うほどの行為なのだから。
あまりの痛みに発狂する者、気が狂ったとばかりに急に笑い出すものさえ現れた。
しかし、世界は無慈悲だ。
そんな事情など知ったことないと言わんばりに無情に言葉を述べていく。
『最後に、虚無神・ラグナ様からのお言葉です。』
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世界に数秒、静寂が訪れた。
しかしその数秒後、身の毛もよだつような感覚に人は襲われた。
それこそ先ほどまでの痛みなど全て吹き飛ぶような感覚に。
『地球の皆さん。おはようございます。ラグナです。精々生き足掻いて、私を楽しませてくださいね。この中から、神へ至る者が現れることを期待しています。では、さようなら。』
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感情としてではない。
その者のことを知っているわけでもない。
ただ、体が震えている。
ただ、生物としての本能が言っている。
《こいつはやばい。何がどうあっても勝てない。》と
『以上です。これにてプロジェクト[FEXN]を終了します。』
..........終わった。
あまりにも急な展開。
何が起こったのか理解できている人間はほんのわずかしかいない。
時間にしてわずか数分。
しかしその時間はほとんどの人間にとって人生で最も高密度な時間だったであろう。
こうして最後に身の毛もよだつような感覚に襲われ、短くて長い時間が終わった。
気づくと、体の痛みは無くなっていた。
人類全員が安堵と恐怖の気持ちを持った。
だが、最後の言葉を聞いていたものは数えるほどしかいなかっただろう。
恐怖に耐えるのに必死で。
その中の一つの言葉、 『神へ至る者』
そう、この瞬間からもう戦いは始まっている。
世界の命運が懸かった勝負に待ったはないのだ。
..................その日を境に、人類には混沌が訪れた。
Abilityというものが現れ、次々と変化していく世界。
その事実に発狂する者
変わってしまった世界に耐えられなくなり自殺する者
心のままに自由自在に生きる者
それを使い犯罪を企む者
それを止める者
そして、その日からおよそ50年の月日が流れた。
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何ない漆黒。
そこにあるのは黒い空間と、二人の人間、そして一つの椅子のみ。
その椅子に座っている、一人の白髪の少年。
年は10代半ばくらいだろう。また、いくばかの幼さが見える。
そしてそれと対になるように立たずむ黒髪の少女。
長く伸びた黒髪で顔が隠れており、表情が読み取れない。
年は20を超えたくらいだろうか。そして、その眼は両方閉じている。
白髪の少年が口を開いた。
「君は...誰......?」
しばしの沈黙の後、黒髪の少女が口を開いた。
「私は......貴方よ。」
そう言い、少女は右眼を開ける。
その開けた眼はひたすらに赫い光を発していた__
無限大樹の初小説です。
文章力とか語彙力とかが時折やばいところがありますが暖かい目で見守っていただけたら嬉しいです。( ̄  ̄)
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