第二話:新しい季節と同居人
はじめましての方、そうでない方
こんにちは
私の小説を読んでくださった方・まだ読まれていない方
どうぞ最後までご一読くださいませ
この子が同居人として来てから私の生活は変わってしまった。
この子は全くダンボールから出ようとしない。
だから毎朝私はダンボールの中に少し温めたミルクとご飯を置き、すぐ横のトイレを綺麗にする。
実際、トイレには行っているようで消臭剤を置いておいて良かったと思っている。
私はと言うと、朝食にトーストをかじりミルクを飲む。
この子のおかげで私も毎朝ミルクを飲むようになってきた。
トーストが少し焦げてもミルクでごまかせると言うことを知り、賢くなったのもこの子のおかげだ。
私はこの子にまだ名前を決めれていない。
前の家での名前はクロだったらしいが、あまりにも単純すぎてそんな名前を読んでもいいのかと疑問に思ってしまう。
そもそも、この子の名前を呼ぶこともないわけだから私はまだつけないでいてもいいだろうと思っていた。
仕事に支障はまったくない。
基本的に私は家でパソコンと向かい合っている。
それが、二階からこの子を見ることのできる一階に変わっただけなのだ。
毎朝の散歩道はもう決まっていた。
様々な季節に咲く花が沢山見れる道。
近くの公園まで歩き、その後家に引き返すことにした。
できるだけあの子を独りにしないほうがいいと思ったのだ。
朝食の後に出かけて帰る。
いつの間にかこの地域は私にとってとても過ごしやすい場所となっていた。
あの子にとってもそうなればいいが、それは強要することではない。
ユリの花が咲き始める頃。
最近パソコンに向かっている時ふとあの子の方を見るとダンボールへ戻っていく姿がよく見える。
おそらく、外に出てみたはいいもののまだ怖くて戻っていったのだろう。
ここが安全な場所だとわかるといいのだが。
それからも何度もあの子がダンボールへ戻っていく姿を見た。
かなりダンボールから離れたところまで歩いていけたのに戻ってしまうのは何故だろう。
もしかして、私が見たからなのか…?
それなら、私が見るたびに戻っていく姿なのはしょうがないことなのか。
まだまだ私に対する警戒心はとけていないようだ。
睡蓮の花が咲き終わる頃。
最近あの子が私に向かって歩いてきてくれているように感じる。
が、私が見た瞬間跳ね上がってダンボールへ逃げていってしまう。
できるだけ見ないようにしても、バレてないと思い近づいてくるその姿をついつい見たくなってしまう。
それでも、少しずつ近づこうとしてくれるのだから初めより警戒を解いてくれたのだろうか。
私が見ても驚くだけでこちらを見つめ直してきたり、私が見た瞬間から睨みながらゆっくり歩いてきたり、どんどん進歩しているように思う。
どうしてもまだ足元までは来てくれないけれど。
コスモスの時期には寒いせいもあるのかダンボールの中で丸まっていることが多くなった。
しょうがないから、と暖房をつけてみると歩き始める。
毎日毎日、何度も何度も歩いているのは少しずつ縄張りを広げていっているのか、私の作業しているテーブルまで来るようになった。
テーブルに擦り寄り匂いをつけている。
時々足に尻尾が当たってこそばゆい。
しかし、私は動いてはいけない。
この子は小さな物音一つでダッシュしダンボールへ帰ってしまうから。
そしてついに今日、私の脚に擦り寄った。
同居人に認められた喜びに心躍らせながら私は石のように動かない。
それからというもの、一段ごとゆっくり階段を上がるように私とこの子の関係は良くなっていった。
少しくらい動いても気にされなくなり。
頭を撫でてみると更に求めて擦り寄ってくれたり。
自分から机の上に乗り寛いだり。
終いには、私の脚の上に乗ってくれるようになった。
ただ、今もまだできていないのはこちらから脚に乗せたり抱っこしたりすることだ。
「私は一度でいいから抱っこしてみたいんだけどな」
と言うとその返事は……
「にゃおーう」
警戒がかなり解けてからというもの、毎朝同じ時間にこの子に起こされ、朝食の準備をさせられる。
少し温めたミルクを出し、トーストを焼き、ご飯をあげ、私はその子の食事姿を見ながらトーストとミルクをかじる。
いつもいつも思うことは…
”ご飯…こぼしてるな”
散歩に行くとき玄関まで見送ってくれて、帰ってきたら玄関で待っていてくれる。
私の独り暮らしはもうお終い。
帰ればいつも小さな同居人が待ってくれている。
少しずつ大きくなっていく体を揺らしながら帰ってきた私に一言。
「お帰り」ならぬ「にゃああぅ」と。
「今日はね梅の蕾が開きかけていたんだよ」
お読みくださりありがとうございました
ご意見・ご感想お待ちしております
また、他の小説もお読みくださると幸いです
※この物語はフィクションです