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貧乏学生と感謝

「おお……すごいところに住んでるんやね」

何故か話し合いは俺の住んでいる部屋で行われる事になった。

「だから、喫茶店かどこかに行こうって言ったんだ。それに外観でなんとなく予想つくだろ?」

俺の部屋は2階建ての安アパートの2階の一室、玄関兼台所(キッチンとは口が裂けても言えない)と四畳半の和室にかろうじてトイレ、風呂がついている。

「ザ・貧乏学生って感じやな。おっ!?ちゃぶ台あるやん」

「こ、小宮山さん、生活大丈夫なんですか?」

大丈夫という程、大丈夫ではなかったが、口に出すのは抵抗があった。

「……大袈裟な。個室に風呂トイレがついてるだけで贅沢だよ」

「男の子の一人暮らしにしては管理が行き届いてるね」

「そうか?」

「掃除とか大変じゃないかな?」

「狭いから楽だよ……って、俺の部屋の事はもういいだろ。飲み物出すから座ってろよ」

「あ、うん」

「飲み物、何がいい?麦茶、烏龍茶、緑茶、紅茶に珈琲なら、冷蔵庫にあるから、すぐ用意出来る」

「作り置きしてるんですか?」

「まぁな」

「炭酸とかないん?」

「ない」

「しゃあないな、麦茶でええわ」

こいつは何様のつもりだろうか?

「僕はなんでも……小宮山さんにお任せします。」

「幽璃も」

なんとなく癪だったが、明石翼以外、任せるという事なので、明石翼に合わせて麦茶を出す事にした。

「お茶受けとか気のきいたものは置いてないんだ、勘弁してくれ」

俺は人数分の麦茶の入ったグラスをお盆で運び、ちゃぶ台に置いた。

「しゃーないな。ま、許したるわ」

本当にこいつは何様だろうか?

「早速で悪いが、話してくれるか?幽霊のルールとかいうのを」

今江はぽかんとした表情で俺を見た。

「どうした?」

「あ、ううん。そういう捉え方……言い方もあるのかなって。それじゃあ、幽霊としてのやってはいけない事、禁則事項みたいに聞こえるから」

「違うのか?『ルール説明』って言ったのはそっちだろ?」

「そうなんだけどさ、そのルールっていうのは存在する為の条件。つまりはやってはいけない事ではなくて、やらないといけない事だから。」

「やらなきゃいけない?じゃあ、今日の名前の事もそうだったのか?」

「そうと言えばそう、かな……」

「歯切れが悪いな」

「そうだねぇ、名前の事っていうのは無いと駄目って訳じゃなくて、あったほうがいいって事だからね」

「すみません、今江先輩。よくわからないんですが……」

俺もいまいち理解仕切れていない。

「じゃあ最初から全部話すから、聞いてくれる?」

「あ、すまない。頼む」

俺が横から質問もとい茶々を入れるから、話が進まないのだ。

まずは今江の話、『ルール説明』についてすべて聞いておくべきだろう。

「うん。それじゃあ、まず幽霊っていうのは一度死んだ人間が幽霊という存在として、言い方は間違っているけど生まれかわった存在なの」

「ふむ」

「転生って言い方が一番近いかな。幽霊っていうのは死んでしまった自分を継続させる手段。元の動物……人間なら人間でなくなる事で死んでしまった存在を繋ぎとめた形なの。

だから、幽璃や七志君はもう人間とは別の生き物にカテゴライズされるの、まぁ死んでるんだから、生き物って言い方はおかしいけど」

「言いたい事はわかるよ」

「そう、じゃあこのまま続けるね。死んでるって言ってもあくまでそれは肉体的な死なの。幽霊には幽霊としての死があるの。成仏って言えばわかるかな?」

「成仏が死っていうのはおかしくないか?」

「えっと……そうだね。確かに意味合いは変わるね。厳密には存在の消滅の事なの。

例えば普通の人間がご飯も何も食べずにいるとどうなる?」

「栄養失調になって、最後には死ぬな、普通は」

「そう、考え方はそれと同じ。存在を継続させる為の『栄養』となるモノがなくなると存在が希薄になっていって最後には消滅する。それが幽霊としての死なんだ」

「栄養って言っても、飯の事じゃないよな?」

俺は天井を見上げ、左から右と流した。

「そうか、名前は『栄養』か」

「は?」

明石翼の目が点になる一方で今江は大きく頷いた。

「そう、そういう事だよ」

「いや、どういう事やねん」

明石翼がわからなくても、問題ないと思うが詳しく聞いておきたかったので今江を見た。

「幽霊にとっての『栄養』は他者からの想いなの」

「想い?人からなんて思われるかって事なんか?」

「少し違うね。どう思われるかじゃなく、どれだけ思われるか。想いの強さ問題なの」

そこで俺は気になり、口を挟んだ。

「って、事はどう思われるかは関係ない訳か?例えそれがどんな感情であっても」

「そうだよ。例えそれが、好意や愛情でも敵意や憎悪でも変わらない。存在する上では」

「ほーん……で、それが、なんで名前の問題になるんや?」

「名字だけしかなかったら、必然と名字でしか呼べないでしょ?それだとよそよそしいもの、名字しか知らない人より名前も知ってる人のほうが“知ってる”って想いが湧くよね?」

「はぁー……なるほどやねぇ、知ってるってのも想いなんやね」

「そうだね。まぁ、それとは別に名前自体に存在する為の力があるんだけど」

「そうなのか?」

「うん。と言ってもあくまで何か行動を起こす為の時間を与える為の初期ポイントみたいなものなんだけどね。」

「初期ポイント?そんなものもなかった俺って結構危なかったんじゃあ……」

「うん、昨日の時点で消える寸前だったんだよ」

「なっ……」

「素朴な疑問ですが、なんで今江先輩はそんな事までわかるんですか?」

「うん?それはね、幽璃が七志くんの事をわかったようにある程度すると幽霊は同じ幽霊を判別できるようになるんだよ。それがもっと経験を積むと相手の存在の濃度……どれくらいで消えるかという事までわかるようになるんだよ」

「それが昨日の時点で危なかったって言うんだろ?もしかして今江が名前の事やってくれなかったら、今頃俺は消えてたのか?」

「そうだよ、だから幽璃に感謝してね……って言いたいところだけど」

「うん?」

「確かに昨日の時点ではそうだったけど、今日になると存在が濃くなっていたんだ。何か昨日から今日にかけて変わった事でもあった?」

「変わった事?ああ……」

俺は明石翼と貴子を見た。

「あ、もしかしてワイの相談に乗ったのと後藤ちゃんの事やろか?」

「だろうな」

「そっか。人の悩みを解決したりするのは自然と感謝の心が生まれるかあらね」

「そうだな」

「いや、全然解決してへんやろ!どっちかって言うたら後藤ちゃんやろ?幼なじみとの再会とかそれっぽいやん」

「へぇ、そうなんだ。随分七志くんを慕ってるみたいだし、後藤さんが街の外から来たなら納得できるね」

貴子が顔を真っ赤にしているのを尻目に俺は疑問を投げかけた。

「待ってくれ。街の外っていうのはつまり……」

「幽霊なんてオカルトそのものだからね。魔法使いとかと一緒でそのほとんどがこの街ぐらいでしか存在できないんだ。だから、影響を受けるのは街の中にあるものだけなの」

「逆に言えば街に影響のあるもの……貴子が街の外からでも来ればその影響を受けるという事か」

俺はそう口にしながら、中だ外だという言い回しに違和感をもった。

だが、考えてみれば至極当然の事でもう街……香須から出る事は出来ないのだから、そういう表現になるのだろう。本当に俺が幽霊なら。

「じゃあ、小宮山君は後藤ちゃんに感謝せなあかんな」

「そうだな、助かった。ありがとう貴子」

「え!?いや、僕は何も……お礼なんてやめて下さい」

「偶然だったとしても、貴子のお陰で助かったのは本当だ。仮に貴子がこちらにこなかったら……いや、来るのが一日ずれていただけでも危なかったんだ。その事で礼をいうのは間違いじゃない」

俺は貴子の目をまっすぐ見た

「ぇあ……う……は、はい……」

貴子はまた顔を真っ赤にして俯いた。


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