幽霊とロボット
「え、嘘ですよね?」
貴子はまるで信じていない様子でそう言った。
「俺もそう願いたいね」
そう言うと教室に持ち込んでいた烏龍茶に口をつけた。
「誰がそんな事言いだしたんですか?」
俺は烏龍茶から口を離さないまま、帰り支度をしていた今江を指さした。
「あの人ですか……お名前は何と言うんです?」
「今江ちゃんやで」
「ありがとうございます」
貴子は明石翼に礼を言うと、今江のところに歩いていった。
「今江先輩」
「はい、なにか……えっと、どちら様?」
「はじめまして、本日転校してきました、1‐Bの後藤貴子です」
「あ、はじめまして、2年の今江幽璃です」
「単刀直入にお聞きしますが、小宮山さんを……」
「七志くんだよ」
「え?」
「小宮山七志くんだよ。今日、決まったの」
貴子は目を大きく開けたまま固まってしまった。
「後藤さん?」
「あ、あの人が幽霊ってどういう事なんですかっ?!」
「……幽璃が同じ幽霊だから、わかるっていうのは駄目かな?」
「……失礼ですが、今江先輩が嘘をついている可能性もありますし、勘違いしてないとも言い切れません。」
今江は苦笑した。
「本当に失礼だね」
「ご、ごめんなさい……」
「でも、証明する方法はあるよ、一応は」
「なんですか?」
「七志くんを殺そうとするとか」
「なっ!?なにを言ってるんですかっ!」
貴子が今江に掴みかかろうとした。
「貴子!やめ……」
と、その瞬間二人の間にトゲのついた鉄球が叩きつけられた。
「ひっ……!」
「ひゃっ……!」
「ケンカヨクナイ。ケンカヨクナイ」
その鉄球の持ち主……頭と体、腕、足が四角く、拳の部分が鉄球のロボットが電子音声でそう言っていた。
「け、喧嘩じゃなくて、僕は……」
俺は貴子に駆け寄り後ろから肩を押さえた。
「貴子、自覚がないかも知れないが、喧嘩腰になってるぞ」
「小宮山さん……」
貴子ははっとした表情になった
「その……俺の事で怒ってくれるのは嬉しいけど、そういうのはよくない」
貴子は俯いた。
「ごめん、言い方が悪かったね。幽璃が言いたいのは、幽霊は既に死んでるから、肉体的な死はないの。だから、そういう証明の仕方が一応はあるって事」
「だからって……言っていい事じゃないでしょう」
貴子が俯いたまま声を絞り出していた。
「それは分かってる、実践する気はないよ。死なないからって痛みがない訳じゃないし」
「だったら、なんでそんな事を……」
「人に証明する方法がそれぐらいしかないからね。状況証拠というか、幽霊だから辻褄があう事とかならあるんだけど」
「ん?何だそれは?」
「記憶の事とか名前の事とか……幽霊は一度死んだものが代償を払って存在する手段なの。だから、七志くんは死んだ後、記憶や名前を代償として支払ったから」
「今の状態になった……と?」
「うん、そうだよ。本当は『ルール説明』で事前に知らされる事だけど……」
「さっきも気になったんだが、その『ルール説明』ってなんなんだ?」
「うーん……『ルール説明』は『ルール説明』というか……他に言いようがないね」
「説明って事は誰かから知らされるのか?」
「そのはずなんだけど……何か手違いがあったのかな?」
本来受けるはずの、『ルール説明』とやらを受けていないとしたら、それは『俺が幽霊』だという説の反論材料になるんじゃないか?
そう思いつつも俺は口に出せないでいた。
今江は仮設としてではなく、俺を幽霊だと断定していたからだ。
「その『ルール説明』とやらの内容を聞いてもいいか?」
「それは、いいけど……そろそろ下校時間だよ」
今江は教室の時計を指差した。
そう言えば、今日は部活動のない日でいつもより下校時間が早くなる事を思い出した。
「それじゃあ、場所を変えよう。えっと、貴子」
俺は貴子の方に向き直った。
「僕もついて行っていいですか?」
「俺はいいけど……」
「もう喧嘩腰にはなりません。迷惑はかけません。ただ、小宮山さんの事が知りたいんです」貴子は真っすぐ俺の目を見て言った。
俺は今江の方を見やった。
「幽璃は構わないよ」
「……わかった」
「もちろん、ワイもついて行くで!」
明石翼が空気読めまずに割り込んできたが、俺は無視して鉄球のロボットに話しかけた。
「スパイクアーム、さっきはありがとな。貴子を止めてくれて」
「キニスルナ」
スパイクアームは俺の方を見ずサッカーボール大のトゲ鉄球をこちらに向けた。
スパイクアームは俺の身長の3分の2程の大きさの丸と三角と四角だけで描けそうなロボットである、本人は格好つけたつもりかも知れないが、傍から見るとシュールな絵面だ。
よくよく考えたら、スパイクアームというより、スパイクフィストのほうが正しいと思うが、今ここで指摘する事ではないだろう。
「ワタシハカエルガ、モウ、ケンカスルナヨ?」
「し、しませんよ」
貴子は焦ったような口調だった。
「ホントダナ?次は顔面にぶち込むからな」
そういうとスパイクアームは教室を出て行った。
「あいつ、普通に喋れたのかよ……」
「あの……それよりもさっきの言葉冗談ですよね?」
貴子の顔は青ざめていた。