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忘却と約束

俺は、なし崩し的に貴子が暮らす事になる学生寮まで彼女を送っていく事になった。

ちなみに明石兄or姉妹とはファーストフード店で別れたので、明石翼の生存確認は明日の朝まで出来ない。

「……ありがとうございます、小宮山さん」

突然礼を言われ、戸惑った俺は貴子に向き直った。

「送っていただいて……ありがとうございます」

「あ、ああ……気にするなよ、大した事じゃない」

「よかったら、お茶でも飲んでいきませんか?」

「え?いや、気にしないでいいよ、ホント」

「そん……いえ、そうですね。ハンバーガー食べた後にお茶なんて、何言ってるんだろ、僕は……」

しまった、ここは断るべきじゃなかった。

「よ、よかったら、荷物の整理手伝うよ、重いものもあるだろ?」

「いえ……わざわざ、ここまで来ていただいてそんな事をしていただく訳には……それにここ、ロビー以外は男子禁制ですから」

「あ……そうか、女子寮か。ごめん。俺、アパートに住んでるからそういうの分からなくて」

貴子はロビーで茶を飲むつもりだったのだろう。

「謝らないでください。僕は小宮山さんの気持ちだけでも、嬉しいです」

「……」

俺は空を見上げ、どうするべきかと視線を左から右と泳がした。

「小宮山さん?」

「やっぱり…………よな……」

「え?」

「なぁ、貴子は俺の事ずっとそういう風に名字で呼んでいたのか?」

「……っ」

貴子は視線を下げた。

「……親しい間柄なら大抵呼び方は統一されると思ったんだ。名字なら名字、名前なら名前でさ」

「……」

「貴子?」

「……はい。ご指摘の通りです。僕は小宮山さんの名前を忘れました」

「そう……か」

俺は口元に手を当てた。

「つまり……?」

何か違和感があった。

「え?」

「貴子は元々俺を名前で呼んでいた?」

「はい、そうです」

なにか腑に落ちないものを感じていた。

「………」

俺はまた空を見上げた。

「僕、思い出します。」

俺は貴子に向き直った。

「だから、小宮山さんも思い出してください、僕の事」

「あ、ああ……」

貴子は真っすぐ俺を見つめていた。

「……そうだな、思い出すよ。貴子の事」

貴子はニコリと笑った。

その笑顔が俺には眩しかった。


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