質問と通常
「ああ、そうだ。黒羽根に聞いておきたい事があるんだけど、いいか?」
黒羽根は俺のほうに向きなおった。
「なんだ?」
「ああ、今、俺達は一週間前の事……俺が死んだ経緯について調べているんだ」
黒羽根もあの『小宮山の下の名前を決める会』に参加していたのだから、今江の発言……俺が幽霊である事は知っているはずだ。
「俺達?」
黒羽根は俺を指差し、次に貴子も指差した。
「ああ、俺と貴子で調べてる」
「ふーん、そうか。……それで、聞きたい事って?一週間前の事を話せとでも?」
「そ、そうだけど、何か問題があるのか?」
「問題って言うより、憶えてないんだよ。ほとんど」
「えっ」
「小宮山にとっては、大変な日だったかも知れないが、俺にとっては他の日とそう変わりはない日だ。その上、一週間前だろ?余程印象深い出来事でもないと忘れるもんだろ」
「……確かに」
推理小説とかなら、些細な、でもヒントになる出来事を何故か憶えていたりするが、現実はそうはいかないだろう。
ましてや、一週間前となると憶えていない人間がいてもおかしくない。
仮に何らかの兆候を目撃した人間がいたとしても、保険医のように何らかの形で関わっていない限り、それが些細なものなら忘れてしまってる事は十分にあり得る。
だとしたら、この捜査だか調査だかは遅すぎた。
始めるとしたら、一週間前、俺が死んだ次の日にでも始めるべきだったのだ。
「小宮山さん……」
貴子が心配そうに俺を見ていた。
そんな目で見られると何か罪悪感のようなものに苛まれる気がした。
俺は気持ちを切り替え、黒羽根に他に聞いておく事がないか考えた。
例えば、記憶を取り戻す手掛かりになるような。
「わかった。じゃあ、この事はいい」
「この事?他に何かあるのか?」
「ああ、黒羽根の主観でいいから、答えてほしいんだけど」
「何だ?」
「一週間前の……死ぬ前の俺と今の俺で何か変わったと思う事はあるか?」
「変わったとこ?あまり以前の小宮山と話す機会はなかったんだが……そうだな、少し明るくなったんじゃないか?」
「え?」
正直、今の俺は自分でも明るいほうではないと思う。
「今のほうが明るいって……以前の俺は滅茶苦茶暗かったって事か」
「そうだな、おれの主観だが」
俺は思わず貴子のほうを向いた。
「貴子、中学時代の……お前の知ってる小宮山……俺はどうだったんだ?」
俺と言うのに、僅かに抵抗があった。
「……僕の知ってる限りは、明るい人でした。少なくとも僕の前では」
「……」
これはどういう事だろうか?
黒羽根は以前の俺は暗かったと言う。だが、貴子は明るかったと言う。
二人の記憶には一年程の開きがある。
それはつまり、一年の間に俺が変わったという事だろうか?
或るいは、元々暗い人間が貴子の前では明るく振る舞っていた?
と言うか、そもそもどちらも主観であって……いや、そんな事はどうだっていいのかも知れない。貴子の知っている……貴子の求める“俺”は明るい人間だった。
重要なのはその一点だ。
「そうだな、だったら、あまりおれの言葉を信用しないほうがいい。元々付き合いが浅かったんだ、記憶違いという事もあるだろう」
黒羽根はまるでこちらの心を読んだようにそう言ってみせた。
「……わかった、参考程度に留めておく。その参考ついでにもう一ついいか?」
黒羽根は一瞬ぽかんとしたが、苦笑しながらコクリと頷いた。
「黒羽根、俺は身体を全く残さず死んだらしい」
「!……へぇ」
「それが、もし人為的に起こされたものが原因だったとして、黒羽根は心当たりはあるか?」
「ある」
黒羽根は何ともなく言ってのけた。




