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ネギとUターン

ちゃぶ台にはネギ焼き丼とネギのポン酢付けがあった。

今日の俺の夕飯である。

あの後、一人になって考えてみたが結論は出なかった。

とりあえず、飯でも食えば何か浮かぶだろうと全く根拠のない考えに至り、こうして夕飯を用意した。

用意してしまったのは仕方ないので食べてしまおうと箸をとった瞬間ドアチャイムが鳴った。

「はーい」

俺は箸を置いて立ち上がった。

「小宮山さん」

扉ごしに貴子が俺に呼びかけてきた。

「貴子か?」

「はい、そうです」

俺は扉を開けた。

「どうした、何か忘れ物でも?」

「あ、いえ、その……」

「ん?まぁ、入りなよ」

「あ、はい」

貴子を部屋の中に入れると自分で扉を閉めた。

「あれ、お食事中でしたか?」

「いや、今から……と、まずったかな?」

「え?」

「飯は食ったか?」

「いえ、まだです」

「そうか、それなら食っていけ、と言いたいところだが、生憎用意してる分しかないんだよな……」

「あ、いえ、おかまいなく」

「そういう訳にはいかないだろ。お前、飯どうするんだよ?」

「え?」

貴子は驚いた顔で俺を見た。

「な、なんだ?おかしな事言ったか?」

「あ、いえ……」

なんだか貴子の様子がおかしい、先程から「あ、いえ」を連発している。昨日話してからの事しか知らないがそんな口癖は無かったはずだ。

「あの……ごはんは僕のほうでなんとかします」

「今七時半だぞ、帰って飯用意するとなると八時は過ぎるし下手すりゃ九時十時だ」

「え、はい……そうですね」

なんだか、反応が鈍い。もしや貴子はいつも夕飯が遅いのだろうか?

それなら、ピンと来ないのも頷けるが。

「夕飯、いつもは何時にとるんだ?」

「え?えーと、だいたい7時頃です」

それで何かがプツンと切れた。

「だったら、こっちで飯を食べろ」

「え、いや、そんな、僕は」

「いいから」

押しつけがましいのは重々承知していた。

ただ、このまま貴子を空腹で返すのは間違いとしか思えなかった。

「駄目です、そんなご迷惑はかけられません」

「よし、だったらこの飯は食わない」

「な、なんでですか?!」

「たった今から、この飯は貴子の為に用意したものに変わった!」

「な、何を言ってるんですか?!」

「貴子が食わないって言うなら、それで構わない。でそれでもこの飯には箸をつけない」

……勿体ないけど。

「そんな……」

貴子は呆れたのか言葉を失っているようだった。卑怯な物言いだったかもしれない。

「……わかりました。小宮山さんの厚意と思っていただく事にします」

厚意と思う、という事は本当のところはそう思えないという事だろうか。

まぁ、間違ってはいないだろう、途中からは意地になっていた訳だし。

「そうか、ありがとう。俺の我が儘に付き合ってもらって」

「あ、いえ、そんな……我が儘だなんて、僕は思ってません」

「そうか、ならよかった」

それはそうと俺は俺で飯を用意しなければならない。

幽霊と言えど腹は減るようだし、今江は死ぬような目にあったら存在の力を消費すると言っていた、それはつまり栄養失調でもそうなのだろう。

「小宮山さんはご飯どうするんですか?」

「それを今考えてる」

「あの、やっぱりご飯、お返ししましょうか?」

「大丈夫だって、非常食ぐらいある」

記憶を失くす前の俺が用意していたなら、だが。

「わかりました。今度こそいただきます。」

「ああ、さて、と」

部屋の中の収納は少ない。

キッチン側に非常食が置いてあるなら、一週間の内に見つけているだろう。

という事はあるとすれば、布団を敷く時以外開けない和室側の押し入れだ。

二段式の上の段で布団は収まるので、下の方に何かあるだろう。

「ネギ……?」

何かを呟く貴子の隣で押し入れを開けた。

明石翼の言うような物があるなら、今は見つからないで欲しい。

「ご飯にネギだけ?食べさしって訳じゃないよね?」

ティッシュやトイレットペーパー、洗剤等の雑貨類とは別に置かれていた幾つかの段ボールの中にそれらしき箱が見つかった。

「お、これだな」

開封はしていなかったようで、箱ごと押し入れから引っ張り出した。

「小宮山さんいつもこんな……僕が何とかしないと」

段ボールには有名なカップ麺の名前が印刷されていた。

恐らく安売りしていた時に箱買いしたのだろう。

箱を開けてカップ麺だから大丈夫だとは思ったが賞味期限を確かめた。

問題なかったので、一つ取り出し残りは再度押し入れに直した。

「お弁当……?でもいきなりは、迷惑かな?」

やかんに水を入れ、火にかけた。

ウチには電気ケトルや電気ポットと言った家電は無い。

「でも、他にやりようがないしなぁ……」

先程から貴子が何やらぶつぶつ呟いているがどうしたのだろうか?


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