第二の魔王
仮想世界では、3人の旅が始まった。リイナは、むしろ自分よりもスタイルのいい彼女の道中は不安でしかなかったが、実際そのとおりリイナはやきもきする道中となった。太陽のように明るいエレカトールに連れて行かれるように楽し気に話すヒビキを見ているとお似合いの二人に見えると気がきではなかった。だが、エレカトールは、ヒビキやリイナもまたそれ以外の人々も同じように接していた。すれ違う人すべてに同じように振る舞うエレカトールに、リイナは尊敬のまなざしで見ていた。
「エレカトールは、皆に同じように接しれてすごいね」
「そうかなぁ
気にしたことないや。
そろそろ、炎の大陸の入口の村につくよ」
「そうなんだ。
そういえば、エレカトールのところより、少しあったかくなった気がする」
「そうね、あっちよりはあたたかいけど、
以前いた大陸のほうが暖かいわね」
「そうなの?
ちょっといってみたいわね」
「今度、来るといいよ」
3人が会話をしていると、視線の先では、一人のTRTが王様のようにふるまっていた。人間を椅子がわりに座り周りには女性をはべらしていた。その様子を一目見ると、エレカトールは、怒りの形相となり2人よりも早く走りこんだ。
「な、なんだ……
重力層!」
座りながら、3人に向けて放たれた魔法によって、三人とも地べたに貼り付けとなった。指先一つも動けない3人に、ゆっくりと敵がか片手剣をもって近づいてきた。三人は顔を動かすこともできず、近づいてくる足音だけで恐怖が襲っていた。それでも、ヒビキは超重力により口を動かすこともできなかったが、魔法を使って空中へと弾き飛ばした。
「……ッ(カオスハンド)」
紫色の魔法の掌は、重力魔法に関与せずヒビキを、TRTのメンバーの頭上まで持ち上げた。一瞬目と目があい、相手が驚愕している中、黒赤剣を抜きだすと前につきだした。その剣はかすりもせずに、握ったヒビキごと、地面へと押し付けられた。
「あぁー、びっくりした。
何がされるかと思ったが、残念だっ……ぐっはぁ」
TRTの男は、真っ二つになると一瞬で光の粒子へとかわっていった。完全に男がいなくなると掛かっていた魔法も解かれ、3人ともようやく地面から解放された。何が起きたか判らなかったエレメールは、ヒビキに駆け寄ったが、その横のリイナが自慢げに説明するのだった。
「その剣は、当たらなくても同様のダメージを与えられるスキルがついてるのよ。
だから、空ぶってもあんな感じに一撃で倒せるのよ」
「えー、いいな。
ヒビキ、ちょうだい♪」
かわいげに迫ってきたエレカトールだったが、それ以上に他の村人から続々と感謝のため3人に近寄ってくると、簡単にうやむやになった。
「ありがとう」
「ありがとうございます」
その後情報収集を兼ねて食事をとり、村人から長が殺され困っていることを聞くとエレカトールは残ることになった。後に合流することにして、ヒビキとリイナは、旅の先を急ぐことになった。
エレカトールから、さっきの村のように次の都市でもTRTが悪行をおこなっているのではないかと推測されていた。二人に無理はしないように釘を刺し、自分が到着するまで待つようにと提言されていた。なるべく静かにしようとヒビキとリイナが示しを合わせていたが、そうもいっていられなかった。彼女の予想は当たっていたが、ヒビキが想像を超えていた。そこには、顔なじみの関さんが町の中で知らない若い男たちにフルボッコにされていた。慌てて駆け寄り、不意打ちで二人を倒して光の粒子へと変えていった。意識を失くしている関さんをつれて泊まる宿に連れて帰った。
夕方意識を取り戻した関から事情をきくと、一緒に来ていた二人の女性が拉致監禁されており、奴隷のような扱いでダンジョン攻略を手伝わされていた。
リイナとヒビキに協力を依頼すると、夜に待ってTRTが根城にしている洋城へと潜入した。道中で数人のTRTメンバーに発見されそうになると関が自ら名乗り出ることで、なんとかごまかすことに成功した。関は目線で二人の救出をお願いすると再び、奴隷以下の存在へとなり下がった。
ヒビキは彼の意をくみ、探知の魔法で二人の女性の場所と階段が判ると見つからないように静かに降りていった。ほぼ半裸の女性がふたり牢に閉じ込められており、エレカトールの時にいた子供のように目がうつろだった。ヒビキは、地下にいる3人の冒険者を倒すことで解決できると考えリイナをその場において討伐へと向かった。同時に3人を相手にすることは危険と考えたヒビキは、一人になるまで待ち、ゆっくりと倒していった。それでも、半刻もかからず3人をなぎ倒した。直後、リイナのいるところで女性の絶叫が聞こえた。ヒビキは、本来の意識を取り戻したんだろうとと考えた。だが、それと同時に上の階にいるTRTのメンバーの増援がやって来るであろうと考えたヒビキは、急いでリイナの元に戻り、迎え撃つことにした。
だが、上で少し騒がしい音が下だけで、一向にやってこなかった。その代わり、階段を降りる静かな足音が聞こえてきた。一本道には、
血だらけの関さんが息を消しながらやってきた。二人の女性冒険者は、それを見かけると直ぐに駆け寄って行った。3人が泣きながら抱きあっていた。
関は何度かヒビキに付いて行って欲しいと二人の女性に言われていたが、半裸に近い彼女らを置いて町へと戻らせるわけにはいかないと判断し見送ることした。
「カミキ君、助かったよ」
「「ほんとに、ありがとう、二人とも」」
2人よりも年上の3人が深々とお辞儀をすると、二人とも返って恐縮するのだった。
「気にしないでください。当り前のことを下だけです。
それに、わたしたちのせいで、前の時に迷惑かけたんですよね」
「それは、お互い様だ。
過去のことは気にしないでくれ」
「すみません、関さん、こんなことであの時の借りを返したとは思ってませんが、
何かあったらまたいつでも呼んでください」
「何言ってるんだ、カミキ君こそ、困った時にはいつでも我々を呼んでくれ。
今回は、申し訳ないが気を付けて旅を進めてくれ」
「ありがとうございます」
この後、ヒビキは魔王のいる活火山へと続く道を伝え持てる限りの旅道具を関グループから貰えたのだった。あっという間に朝日が昇ると、3人はお礼と更に言って、ヒビキとリイナを見送った。
途中で、ほんの少し仮眠をとりながらも、お昼を過ぎたころには、魔王がいるであろう山頂近くまでやってきていた。そこには、魔王がTRTメンバーと対決していた。既に数人もの人間が彼の足元に転がっており、無事でいるのは一人だった。何度となくスキルを発動しているようだったが、彼にはまるで効いておらず、狼狽していた。他のメンバーも同様に最後の最後まで彼のためにスキルを使っていたようだったが、同様に効いていなかった。彼は、一瞥すると全ての敵を一撃のもと吹っ飛ばした。
そして、後ろからやってきたヒビキたちを見ると声を掛けてきた。
「オマエラ三人も、戦いにきたのか?」
慌てて、後ろを振り返るとエレカトールが二人の前に立ち、戦いの口上を述べるのだった。アドアやユキナを彷彿とさせる口上で、彼の心を揺らがせた。
3人は、距離をとると交互に攻撃をしかけた。それは、初めてにしては、見事な連携だったのだが、そのすべてが魔王の前には何もなかったことになっていた。彼がもっているスキルで、彼が見つめているものは全攻撃無効が発動しているのだった。必ず背後を取らせないポジショニングを行っている魔王の前に手も足もでなかった。三人が地べたに転がされ反撃の力も残っていなかった。魔王は、見事な口上に免じて自分のスキルを伝え、どんな攻撃すらうけてやると余裕を見せた。リイナとヒビキが考えている中、エレカトールはよろよろと彼に向かって行った。彼の胸板に寄りかかるようにもたれかかると、下目遣いで誘うように唇を奪った。思わず魔王が目を瞑ると、薄めをあけていたエレカトールは、スキルを発動していない彼の金的目掛けて蹴り上げ、魔王は悶絶のまま失神した。
眼を覚ました魔王は、たいそう魔王の娘を気に入った大陸最強の魔王は、改めて求婚を申しでた。絶対にうけるわけがないと思ったリイナだったが、初めての異性からの好意に喜んだエレカトールは婚約へと進んでいくのだった。
唖然としている二人をおいてラブラブな二人から、次の魔王への情報を聞くと、魔王の娘を置いて、海を渡り次の大陸へと向かうことなった。
だが、大陸を渡る港町では、TRTの多くがおり簡単には、次の大陸にいくことができなかったのだった。
ネタバレ山盛りのあとも、前作に興味があるひとは、こちらをどうぞ。
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