最初の魔王
二人、いや、三人がリイナの体を見つけた時には、リイナとヒビキも大陸移動が終わり、ようやく第一エリアの大地へと降りった。
そこは自然に包まれた活気あふれる港町だった。前にいた第三エリアより涼しくひんやりとしていた。
ヒビキとリイナは、新しい防具を買いにいき暖かそうなウェアとマントを買い足しに行った。その時にいくつかの店に行くといくつものスキルが付与されたアイテムで溢れていた。どれも見たような事もなければ聞いたこともないスキルで、ぱっと見ただけではどんな内容が付与されているか判らないものばかりだった。
「どうするヒビキ?
試しに使ってみてみる?」
「いや、うまくいかなかった場合のリスクが高いから、
この防寒がついたスキルのマントを上着だけ、買って行こう」
「そうね、それがいいかも。
こっちも同じ銀貨の支払いで助かったわ」
「そうだね、食べ物とか準備して、さっそく向かおう」
リイナとヒビキは、町で買いだしの準備をしながら、この大陸の情報を仕入れていった。ほんの少しだけ期待していたリイナの情報も、ほんの少しも目撃情報はなかった。だが、この大陸を支配、管理している魔王であれば、情報をもっているかもしれないと考え、魔王が納めているという都市へと向かって出発していった。
変わったスキルを持った武器や防具を幾つか買いながら、初めてみた魔物と戦っていった。残念ながら安い武器や防具についているスキルは癖が強く今後の冒険には役立ちそうなものがなかった。いくつかの町を探しながら情報収集をしていったが、それもこれだといった情報がなく落胆せずにはいられなかった。
それでも、次に町では、魔王がおり何かしらの新しい情報が得られるかもしれないと思うと二人もはやる気持ちを抑えられなかった。そんな道中で、両手を後ろで手錠をされ目隠しされながらつれられている冒険者と意識が怪しい子供を連れた人相のわるそうな二人組を見つけた。リイナとヒビキは、様子を窺いながら見つからないように後ろをついて行った。
陽が落ち道に隠れながら野営をする4人組を観察すると子供を人質に女性を拘束されているようだった。一人の男が身動きが取れない女性に襲い掛かろうとしたところで、ヒビキとリイナが、一人づつ後ろから首筋を手刀とおろして気絶させていった。
手錠には、鍵穴がなくどうやっても外すことができなかった。ヒビキが、合成により強引に手錠を別のアイテムへと融合させると女性を解放することができた。彼女は、目を封られていたアイマスクを外すと空中から武器を取り出し、男たちの元へと向かって行った。
ヒビキは達が止める間もなく一撃で二人の首を落とすと彼らは光の粒子へと変わって行った。二人がいなくなることで、彼らにかけられていたスキルが解除され子供は意識を取り戻した。
「ふぅ、これで奴らの呪縛から解放されるわ」
美女の凛とした声で、ヒビキとリイナが彼女に視線を戻した。
「ぎゃーーー」
子供は、自分がまったく知らない場所で知らない男女に連れられていると勘違いし辺り一面に悲鳴が響き渡った。
「もう、大丈夫だから」
美女は、子供にちかよるとなだめ、落ち着くまで彼のそばにいるのだった。ようやくひと段落するまで半刻ほどかかったが、子供は彼女の後ろに隠れてこちらを窺っているようだった。
「お礼がまだだったわね。
助けてくれてありがとう。
私はエレカトール」
「僕は、ヒビキで」
「わたしが、リイナよ」
「そうか、話をしたいのだが、この子を村へ送り返すのが先のようだ。
早く出発しないと日も暮れるし」
「わかりました」
「君たちは、どこに行くんだ?」
「わたしたちは、魔王のところへ」
「そうか、じゃ、また」
彼女は、手を挙げるとそそくさと立ち去って行った。ヒビキとリイナは、嵐のようにさっていった彼女と全くこちらをみなかった子供を姿がきえるまで見送ると魔王がいるといわれる水の聖都へと足を速めた。
町に入ると移動は、船での移動が主となり、白とオレンジで作られた街並みはとても美しかった。河の隅々まで流れている透き通るような水源の先に、魔王が納めている洋館へと続いていた。ヒビキたちは、船主に魔王が済む場所までと伝えると、気のいい彼の案内のもと、中央に聳え立つ白と水色で降りなされた洋館へと連れて行ってくれた。
洋館の扉からは、無数のシスターたちが、心配そうに出たり入ったりを繰り返しており、何かがおきているようだった。船主にそれとなく聞いてみたのだが、彼もまったく知らないでいるようだった。
ヒビキとリイナは、船主にお礼をいい開きっぱなしの大きな扉をくぐった。その先には、大きな台の前で綺麗な女性が心配そうに佇んでいた。そこを急ぎ足のシスターが駆け寄ると少しだけの話を聞くとまた落胆し、シスターも苦悶の表情のまま慌てて外へと走って行った。
ヒビキは、声をかけるのにためらいながらも、順番をまって挨拶をするのだった。
「僕は、ヒビキというのですが、魔王様でいらっしゃいますか?」
「ええ、よくお越しくださいました。
私がここを納めさせていただいているライザといいます」
リイナは、自分のことを聞く前に困っている人を助けたいと思い声を掛けた。
「どうか、なされたんですか?」
「最近、町を荒らしている軍団 TRT(真解放戦線)に娘がつれていかれたようなのです」
「それは、大変ですね。
僕たちに協力できることはありますか?」
「ありがち事なんですが、相手は強力なスキルをもっているようで、
この大陸でも2番目に強い私の娘をつれていっています。
冒険者様では、むずかしいかと思います。
もし、娘を見つけることができたら、ここまで教えてもらえませんか」
「ええ、わかりました。
そんな危険な奴がいるんですね」
「そうよね、さっきも女性が捕まってたし、ここら辺はぶっそうよね」
「そんなことがあったんですね。
その方は、どうされたんですか?」
「どうも子供を人質にとられて拘束されていたようですが……
僕らで、開放したんですが、子供を送ってくると村へ向かわれました」
「そうですか、ヒビキ様たちはお強いんですね。
もし、助けられるチャンスがあったら、助けてください」
そういうと泣き崩れてヒビキに抱き着いてきた。
その直後、扉からヒビキが助けた女性がはいってきた。リイナは、落ち着くまでヒビキを貸すことにし、扉の方へと視線を変えると、さっき別れた美女が嬉し気に入ってきた。
「あ、話していた女性です」
「ママ、ただいま~」
ライザは、彼女の声を聞くと、ヒビキを突き飛ばし声の主に駆け寄って行った。
「もう、心配したのよ。
ひどい事されなかった?
何がおきたの?」
泣きながら抱き着いたライザに、事の顛末を伝えヒビキとリイナに助けられたことを話していた。目が塞がれていたエレカトールは、話にいくつかの尾ひれがついていたが、二人はとめることをしなかった。ヒビキが想像したとおり、子供を人質にとられ、操られた子供によって手錠を掛けられると全てのスキルが使えなくなり周りの音も聞こえなくなったとのことだった。
半時後、ようやく落ち着きを取り戻し洋館の中で歓迎と感謝の宴が行われた。ヒビキとリイナは旅の事情を話し相談に乗ってもらったが、リイナに関する有益な情報を集まらなかった。それでも、この大陸に関する更なる情報を聞いて、次に行くべき火の城都への道順を教えてもらえたのだった。その魔王は、4人いる魔王の中で最強であり、TRTが攻略しようと一番戦闘の激しい場所だった。
朝を迎え、旅の準備をしてくれたライザ親子にお礼をいい旅立とうとすると、エレカトールもついていくといいライザに別れの挨拶を済ませた。美女が増え喜ぶヒビキと、ライバルが増え露骨に嫌な顔をしたリイナをおき、楽し気にエレカトールが腕をひぱって二人をつれて洋館を出発した。ライザは、冷静に最強の魔王へと旅だった愛娘を心配しつつも、それ以上に難しく辛い旅になるであろうヒビキとリイナの先の行く末を神に祈ったのだった。
ネタバレ山盛りのあとも、前作に興味があるひとは、こちらをどうぞ。
https://ncode.syosetu.com/n9780fb/