李衣菜の体とお父さん
ヒビキとリイナが仮想世界で移動している中、現実世界では、鈴音と雪菜が、目的である第一エリアの教えられた建物の前に立っていた。
建物に到着するのが遅くなったため、建物には明かりもなく誰もいる気配がなかった。だが、そもそもここ数年その建物は使われておらず、誰も入ってはいなかったのだったのだけれども。
そんなこととはしらない二人は、正門の前に立つと政府の建物のため、静かに重い扉は開いていった。二人が入ることで久しぶりに照明が使われ建物内は久しぶりのぶりの入場者を歓迎しているようだった。
鈴音と雪菜は、ナビゲータに実験体(李衣菜)の場所を聞くと明かりに従って李衣菜がいる実験棟まで導いてくれた。そこは、薄暗くしばらく使っていないせいか、綺麗に整理整頓され物は一つも置かれていなかった。しばらくすると、地面の底から長方形のクリスタルの大きな箱が浮かび上がってきた。その中には、良く見知った顔の美少女が姿を現した。
明かりの赴くままに歩いていたが、幾つもの扉を前に行く先が見えずたちどまった。
そこで、二人は、完全凍結されているリイナを発見し途方に暮れていた。
「スズネちゃん、これからどうしよう?」
「どうしよっか、考えてなかった」
「だよね、それにしてもでっかいね。
私より大きい」
「む、確かに。これならあのあにぃは喜ぶね」
凍結されていた李衣菜は何も来ておらずクリスタルの中の裸体は冷たく固まっていた。そんな中、二人の後ろから知らない男性の声が聞こえてきた。
「スズネさん、ユキナさんだね」
「あ、あんた誰?」
雪菜が怯えて鈴音の後ろに隠れるなか、二人がよく見ると凍っているリイナの面影を感じる初老の男性が姿を現した。
彼は、穏やかな笑顔になると優し気に声を掛けた。それは、親戚に声をかけるおじさんのようだった。
「驚かせて済まない。
私は、そこにいる李衣菜の父親の蒲生というものだ。
君たちのことは、仮想世界にいた時から、のぞかせてもらっていたよ」
怯えるだけの雪菜を前に半信半疑の鈴音が口を開いた。
「ど、どいうことですか?」
「少し長い話になるがいいかい?」
「ええ、かまいませんが・・・」
「・・・俺は、娘を失い無謀なことをやっていた。全てを誰かのせいにしたくて、政府のせいにしたんだ・・・。
運よく、第一エリアの解放ができた俺だったが、そんなことでは李衣菜を失った気持ちは直らなかった。そんな折風の噂で、第一エリアに李衣菜によく似た人間をみたという報告だった。
まさかと思いつてを使って病院から探ると、政府の手でつれていかれことが分かったが、それ以上は探せなかった」
「そうなんですね」
「ああ。君たちが政府の仕事をしてくれたことがよかった」
「そんなことまで、知ってるんですね」
「大体のことは把握している。
なんたって、娘の親友だからな。
俺は、その後第二エリアで統括になったのだが、君の兄のおかげで解放することができた」
「じゃ、あなたがヒビキさんがいっていたパパなんだ」
「神樹君や荻原君と一緒に、第二エリアを冒険してたんだよ」
「やっぱり!
聞いたことある」
蒲生は娘をみるような目で二人をみると、リイナの生まれのことに話の焦点を変えた。
「それは、一度詳しくきいてみたいところだが……どうして君たちを知っているかに戻ろう。
第二エリアで解放させたと喜んでいたのもつかの間、全員死亡の報を聞いて、どうすることもできなかった。
神樹くんにも同じように、君のせいではないと伝えていたんだが、真っ青な顔ででていって、それっきりになってしまった」
「……そうなんでですね」
「で、俺は責任をおわれて、飛ばされたんだが、統括もめんどうだったんで、内心喜んでいたよ。
そして、新しい気持ちで、出来たばかりの第四エリアの解放へとむかったんだ」
「で、どうなったんです?
あーそういえば、シルキィから聞いた気がします。魔王の子供をすくったんですよね?」
「ながれでね。そのせいで、仲間と対立した。しかも、仲間の攻撃で瀕死になったんだ。
気を失った俺が目を覚めると、李衣菜を産んで無くなった妻にそっくりな女性が、看病していたんだ。
徐々に彼女にひかれていく中、現実世界では、魔王の討伐を求める声がつよくなってな。
俺は、戦いに行かねばならなかった。
そこで、自分を助けた愛する女性の姉だと分かると攻撃することができなくなって、迷っている中、強制ログアウトで切断された」
「強制ログアウト?」
「あぁ、年に一度だけメンテナンスの日があって、登録者以外は強制的にシステムから除外されるんだ。
正規ログイン者であれば、目が覚めるだけだが、違法ログイン者は、脳に障害が発生するんだ。
本来であれば、その前に戻って来なくてはいけなかったんだが、俺は動転して時間を誤っていたんだ。
そのせいで、二度とログインができなくなった」
「そんなことをあるんですね」
「知らないことはあるさ。
俺も、彼女が妊娠していたことはしらなかったからな。
その後生まれてきた赤ん坊を、システム画面から覗く日々が始まったんだ。
そこで、成長する娘がどんどんと死んだ娘に似てきていることと、遊び相手の君たちが神樹くんの探していた妹に似ていることを知って驚いたんだよ。
同時に、一つの結論へと導かれたんだ」
「それは?」
「二人が電子脳のコピーのNPCではないかということだ。
ということは、どこかに同じように娘も電子脳があるのではないのか?ということだ。
だが、必死でつてを使って他のエリアも探したのだが、情報は一切はいってこなかった」
「解放戦線の力をもってしても探せないんだぁ。
やっぱり、りぃちゃんは、政府に秘匿されてたんだね」
「だから、君たちがこちらに戻ってきて、新情報が出てきたときは非常に驚いた。
で、いてもたってもいられずに、解放戦線を抜けて君たちを先まわったんだ」
「そっか。信じることにするよ
だってねぇ」
「だねぇ、りぃちゃんに笑顔がそっくりだもん」
「はは、そうかな。信じてくれてありがとう」
蒲生は、自分の娘の友人を信じてもらわれると背中がむずがゆく感じた。
「で、この後どうすればいいの?」
「うん、困ってるの、李衣菜ちゃんをどすればいいのか」
「そうか、まかせなさい。
輸送用のホバーを用意してある。
そこに積んでとりあえず、ここからは離脱しよう」
「うん、流石だね!」
3人で大事そうに抱えると外にあるトラック型のホバーへと向かって行った。
既に打ち捨てられている場所に近かった研究所は、一つの実験体がなくなっても何も動きはなかった。
冷凍保存が行えるホバーに李衣菜の体をロックさせると、前面に3人を乗せた乗せたホバーは、町の中心地へと向かって移動していった。