全ての出会いに感謝する
ヒビキが全ての動きを黙って見守っている中、親友の声が聞こえてきた。
「かっちゃん、俺はそろそろだめそうだ」
ヒビキは我に戻ると、辺りを見回し入口へと急いで戻って行った。
「融合にはしばらく時間がかかる。
誰もいれさせるな」
ニークの言葉にうなずきながら、親友を助けに向かって行った。
その頃、色々な装備が壊れとうとう認識祖語のスキルの帽子もこわれ、傷だらけの荻原がTRTメンバーに攻撃を繰り出されていた。
その輪の中央には、吉原が仁王立ちで最後の一撃をいれるのを待ち、助けにくるであろうヒビキをまっていた。
荻原はおびき出す餌にされていることは分かっていたが、ヒビキに一言だけいいたかったため、乗ることにした。
吉原の想像通り、罠にのった響は親友の元へと走ってやってきていた。
彼に向けて、時間停止のビームを出したが、その前に荻原が身を挺して防いでいた。
「かっちゃん、現実世界では、リイナちゃんの準備はできてる。
あとは、彼女を戻すことができれば、この世界から離脱できるからな。
俺は、ここまでだ。
現実世界に先に戻ってるよ、
じゃ、信じ……ぐふっ」
「何を言ってっやがる」
TRTの副リーダが、脇腹から背中にかけて突き刺すと、荻原は響の目の前で光の粒子へと変わっていった。ヒビキは吉原の光線に当たらないように副リーダを真っ二つに一撃入れると彼も光の粒子へと変わって行った。
「ははは、
ヒビキィ
絶対お前と女を倒して、復活を阻止してやる。
メンバーの後ろに隠れてないで、俺と戦え!」
ヒビキは、ぐるりと荻原を囲っていたメンバーの対角線上から、メンバーを攻撃していった。吉原はいら立ちながらメンバーもろとも光線を出したせいで、固まったメンバーはヒビキに振り向くことなく倒されていった。
「ちょっと、吉原さん、
メンバーにも当たってますって」
「うるさい!
お前らじゃまだ」
吉原は、忠告を入れた側近に一太刀をいれて光の粒子返ると現場は混乱し、吉原の意図どおりにならなかった。
少し離れたところに囲まれていたアースは、炎の魔王と水の魔王候補によって、窮地を脱していた。さらに、人間の冒険者が助けに来ていたが、ヒビキ達が窮地であることを告げ、そちらに向かうように促した。
ヒビキは、だんだんと人が減り、対角線上のメンバーが減っていくと、急激な避けをしない限り光線を避けることが困難になっていた。いずれ捕まると思うとこれ以上TRTのメンバーを倒すこともできなかった。だが、そんな様子を察した吉原は、自らTRTメンバーを倒していき、影になる範囲を減らしとうとうヒビキを光線に捕らえることに成功した。
「お前の運もこれで最後だな。
他のメンバーも俺が全員とどめをさしてやるさ」
「っぐっ」
最後まであきらめきれないヒビキは、ゆっくりと歩いてくる彼を睨みつけるしかできなかった。
彼の長剣が響きの頭上に上がった時、辺り一面に白い膜でおおわれていくと体が動くようになり間一髪動くことができるようになった。
「な、なにが、おきた!」
「あぁ、二人の邪魔をして悪いわね」
「助かります」
「援護にきたよ、これで貸しはなしだ!」
「貸しだなんて、少しも思ってませんよ」
それは、関が連れていう彼女たちの能力、全てのスキルやアイテムの効果すら無効にする能力を発動したのだった。
「じゃ、吉原君は、神樹君に任せるよ。
俺らは、他の奴を倒すとするか」
「「はい、関さん」」
ヒビキは、置いて行かれた吉原の前に立つと持てなくなった黒赤剣をその場に落とした。超重量の黒赤剣はスキルによって軽くなっていたが、スキル無効により持てなくなっていた。同じように仕込み杖も持てなくなり無手での戦闘へと余儀なくされた。この時、モンザさんから教わった無手術を習っていたことに感謝したのだった。
何も武器をもっていない響をみると、吉原は勝ったと確信していた。だが、必殺の突きも彼には簡単に避けられた。
「おかしい、なぜ当たらない」
「スキルに頼って、努力しなかったからだろ」
ヒビキは、ステップを行い始めると、何度となく彼の攻撃を軽々と避けて見せた。二十回を超える頃には、肩で息を吸うようになり、やがてその場に蹲るようになった。
「もう、限界のようだね」
「はぁ、はぁ、バカナ。
身体でも俺のほうが上のはずなのに!」
「そうだったかもね、
でも、僕は、こっちに来て毎日体を鍛えていたよ。
君は、そんな努力をしたのかい?」
「う、うっさい。
俺は、俺は天才だから努力なんていらないんだ……」
「そうかもしれないね。
だから、努力した僕に負けるんだよ」
「俺は、負けない」
ぜぇぜぇと苦し気に起き上がると、ふらふらと上段から振り下ろした。ヒビキはよけながら鳩尾に一撃入れるとその場にごろごろと転がって痛みを和らげようとしていた。
ヒビキは、彼が剣を杖のようにたちあがり先ほどよりも遅い袈裟斬りをくりだした。ヒビキは右手こぶしが回転速度を上げて、右手を中心に竜巻が出来上がっていた。
「ハン流最大奥義!
昇龍竜巻旋風衝!!」
吉原にあたると剣をその場に落とし、竜巻の渦の中心で回転しながら遠方に吹っ飛んでいった。転がって吹っ飛んだ先には、無効スキルから外れており、吉原は光線をだせるとわかりヒビキに向け手を向けようとしていた。ヒビキは、近くに転がっていた剣を拾うと、飛んでいった先に向かって投げた。吉原はヒビキを見つけて立ち上がり光線を浴びせて動きを止めさせた時、彼の胸には存在しないはずの剣が深々と刺さっていた。
「う、うごきは止めた。
お、おれの、かちだ、勝ち……」
吉原が光の粒子に変わりその場にいなくなると、固まっていヒビキも動くことができるようになった。、
「あの時、僕じゃなく剣を止めていれば、まだ逆転の余地もあったのに。
見誤ったね」
ヒビキが辺りを見渡すと、戦闘は全て終わっており、二人の戦いを眺めていたようだった。
「最後焦ったけど、それでも、ヒビキ君が勝つんだね」
「さすがだな、神樹くん」
「そ、そうだ。
リイナ!」
ヒビキは、リイナの事を思い出し洞窟の入口に走って向かうと、そこにはニークがエアの肩を抱き、反対側に少し幼くなったリイナが現れた。茫然としていると、ヒビキの隣にアースがゆっくりとエアに寄って行った。
「彼女が、私たちの娘なのかい?」
「そうよ、死にかけていた娘を助けてくれたのよ」
「そうか。
私たちの娘か」
アースは、リイナの頬を愛おしそうに撫でるとエアとリイナを抱け抱えた。
ヒビキは、その様子を見てリイナの意識があるのか、事実をしることを躊躇った。だが、リイナがエアとアースから離れるとヒビキに近づき二人と同じように抱き着いてきた。
「ヒビキ、
無事でよかったわ」
「り、リイナ。
よかった、変わってないんだね」
「そんなことは、ないわ。
神の力。管理者の力も使えるようになったし、現実世界の事も思い出せるようになったわ」
「そうなんだ、よかったっていっていいのかな」
「……」
リイナも、心苦しいのか素直に声に出していえなかったが、エアとアースはそんな二人を諭すように口を開いた。
「もちろん、よかったよ」
「ああ、それに助かった。
私なんて、娘と来ている間に会話できるんだし。
まぁ、一気に大人になったが……
そんなものは、小さな問題だ。
亡くなるより何倍もいいにきまってる」
「そうよ、子供が無くなるのを悲しまない親なんていないわ」
「パパ、ママ」
リイナは、再び二人に抱きつくと強く抱きしめたのだった。
暫く勝利をかみしめていたみんなだったが、ヒビキが第4エリアに戻る時間も必要だった。すべてのサーバの電源が落ちる前に、実際の体がある第4エリアに行かねばならなかった。
「じゃ、神樹くんたち、我々は先に戻るよ。
現実世界で会えることをたのしみにしているよ」
「じゃあね、ヒビキくん」
「またね」
「はい、僕も3人とまた会いたいです
お元気で」
仮想世界のお元気がどうなのかくすりと三人は笑ったが、笑顔のまま光の粒子へとかわるとその場には何も残っていなかった。
「じゃ、ヒビキ。
わたしも、戻るわ。
ほんとに戻れるか判らないけど、管理空間からすぅちゃんやゆっちゃんが、心配そうに私を見つめてるから
きっと戻れるんだと思う」
「そっか、二人によろしくね。
絶対もどれるから、僕は信じてる」
「えぇ、ヒビキが言うんだもん。
みんなを信じてるわ。
パパ、ママ、ごめん」
「いいのよ、子供の旅立ちは見守るものだわ
あっという間だけどね」
「でも、私たちは繋がっている。
この世界から君の成長を祈ってるよ」
「うん、ありがとう。
パパもママも元気でね」
リイナは、三人に手を振るとくしゃくしゃの顔のまま、何とか笑顔を見せながら光の粒子へと変わっていき、その場には彼女の残像だけがいつまでも残っているように見えた。
そのころ、現実世界では、仮想世界に入っていたリイナの体に魂が宿った。ピクリと動いた手を握りしめていた雪菜と鈴音は彼女の生還を確信し彼女以上の力で握り返した。
「いっちゃったな」
「さぁ、ヒビキも第四エリアに移動できる亀まで送って行こう」
「うん、頼むよ。
アース様、エア様、お世話になりました」
「あぁ、ちゃんと無事に第四エリアに戻るんだよ」
「はい」
エアは、ゲートを作り出すとヒビキに入るように告げた。ヒビキは、言われたようにゲートの中に入ると、そこは、第一エリアに最初に来た町の港だった。正面には、海獣が眠たそうに首を下げていた。
「見送るまでもなかったな」
「ええ、でも、ありがたいです。
では、二人とも、お元気で!」
ヒビキは、炎の魔王と水の魔王候補に挨拶をすると、亀の上にある都市まで飛んでいった。二人は響の姿が見えなくなるまで肩を寄せ合い見送っていた。
響は、一人町の端に立ち間もなく出発する先頭に座って海を眺めていた。これまでの出来事を思い出しながら考えると一つの考えにたどり着いた。それは、自分のスキルが、一番の鈴音を助けるために使われたのではなく、リイナを助けるために使われたのではないかということだった。リイナを助けるためには、現実世界の手助けが必要であり、鈴音をはじめ雪菜たちの協力無くしては、現実世界に戻すことなんて出来なかっただろう。そして、仮想世界でも幾人ものプレイヤーやノンプレイヤーの力を借りることで、ようやくリイナの融合までこぎつけることができた。
だが、判らないことを考え続けることを止め、その考えが会っていようが間違っていようが、一人の力では、どうすることもできなかったと思い、出会った全て人々に感謝することにした。
ヒビキが全ての出会いに感謝しているなか、ゆっくりと歩みを始め星々が輝く中ゆっくりと彼を待つみんなの元へと進み始めた。