第三の魔王
急な山道を抜けて、2刻程歩き進めるというより、崖を登って行くと小さな藁葺の屋根が多い集落へとたどり着いた。入口には、二人のバードマンが3人の訪問に怪訝な顔で見つめていた。ほぼ人との交流を行わない村に人間の訪問者がきたので当然といえば当然だった。本来であれば、直ぐに戦闘態勢をとるのだが、数か月前に村の長の孫娘が人間から貰ったフルポーションによって大けがから回復できた話がもちきりになったことがあったため、襲わなかった。門木は、ギルド嬢から貰った大きな赤いルビーと書状を渡すと、直ぐにバードマンは受け取ると長がいるところに飛んで向かった。長は、その書状とルビーを受け取ると孫娘と共に、入口へと向かってきた。その書状には、『預かった秘宝はお返ししますので、3人にご協力ください』と書かれていた。長には細かい内容は計り知れなかったが、孫娘の命を救ったギルド嬢の頼みを断るわけにはいかなかった。それは、孫娘がTRTのメンバーに怪我をさせられた際に、回復手段をお金を持たない彼らは彼女の死を待つしかなかった。だが、一人のバードマンが交流のない人間の村にいって事情を話したが誰もきいてはくれなかった。膝を落としていた彼にギルド嬢が声を掛けると、村に一つしかないギルド保管のフルポーションを無償で分け与えたのだった。彼は、何度となくお礼をいって村にもどってフルポーションを使うと直ぐに怪我は回復したのだった。だが、お金を持たない彼らに交換するものは何もなかった。長は、村の秘宝である紅玉を彼に持たせるとギルド嬢へと渡しにいった。彼女は、拒んだのだが一向に引く気がない彼の顔を立ていずれは返すことにして、一時預かることにしたのだった。
そんな事情があったことは知らない3人を、ギルド嬢と同列に扱うように村人に伝えるとその内容は直ぐに全員へと伝わった。ヒビキは訳が分からなかったがとても大事に扱われていることを知るとギルド嬢に感謝留守ことにした。そして、目的である魔王の所まで連れて行って欲しいと伝えると、村人全員が厳しい表情になったが、誰も断らなかった。魔王は、渓谷の先の山の奥深くにおり、歩いて向かうにはぐるりと渓谷を迂回しながら向かって行かなければならなかった。空を歩くように飛べるバードマンでも、渓谷で吹く突風から毎年けが人がでる危険な場所を通過しなけばならなかった。
リイナは孫娘に抱かれ、門木は入口にいたバードマンが、ヒビキは孫娘の許嫁がつれて渓谷ぬけて魔王の元へと向かうことになった。さらに、長を含めた幾人のバードマンがフォローをすることになった。渓谷では常に強い風が吹き荒れており、ヒビキは自分なら壁に激突して終わりだったなと感じていた。抜群の飛行能力をもつ三人ではあったが、それでもいつもより重い枷がついていると右へ左へと揺れながら進んで行った。一度だけ強風の突風が門木を運んでいる先頭のバードマンが受け、壁に激突しそうになったが、相方のバードマンが代わりに吹き飛ばされたが、崖がある壁にはぎりぎりぶつからずに済んだようだった。何度となく危険な渓谷を抜けて、TRTのメンバーよりも早く魔王がいる平屋の小さな屋敷に到着したのだった。
平屋に到着するとその前には、年老いた大柄なバードマンと小さな子供たちががこちらを様子を窺っていた。バードマンの長が、魔王に膝間づくと全員が同じように後ろで膝間づいた。
「よいよい、きにするな。
で何があるのかな?」
とても嬉し気に楽し気に話す彼に、ヒビキが一歩前にでるとリイナのことについて質問したが残念ながら知りたい内容はやってこなかった。悲しんでいる中、リイナが次の魔王に行くにはどうするか質問したところで、後ろから大勢の人がやってくる声が聞こえてきた。長は、子供たちは屋敷に隠れるようにいうと、バードマンたちに魔王を囲むように防御陣を敷かせた。ヒビキやリイナも同じように守られていたが、そのバードマンの翼から見える中に、見知った人間がいたのだった。
それは、第三エリアで関を後ろから襲い英雄になろうとしていた吉原だった。彼は現実世界に戻った早々に追放されると解放戦線の敵対グループに入り、解放戦線の情報をTRTに売ることで、上へとのし上がっていった。TRTでは、数人いる副リーダーまで上り詰めていた。
だが、吉原がグループの中心にはおらず、狂気に似た目をしている威圧的な男が前にたっていたことで、彼がリーダーであるとヒビキは感じていた。一触即発の状態だったが、TRTの一人が小さな子供を連れて、リーダーの前にやってきた。
「この子供をころされたくなかったら、魔王を前にだせ。
ださないんだったら、皆殺しだ。
こちらは、どちらでもいい」
副リーダと思われる彼の口上は本当で、30人近いTRTのメンバーが取り囲んでおり、どうにもなりようがなかった。年老いた魔王は、止めるバードマンやヒビキたちの肩を叩きながら前へ進んで行った。
「いいのだ。
儂が犠牲になれば、皆を解放するんじゃな」
「あぁ、俺に二言はない」
だが、これまでの悪行をよく知る門木は、小さな子供を盾に脅威な人物を一人づつ殺していくと知っていた。彼は、こっそりと藪から後ろに回って行くと、あたかも自分が仲間のように徐々に前にでて行った。他のメンバーも港をでていくときにいたメンバーだと知っていたため、それほど不振には思わなかったのが幸いした。彼は、あと一メートルで届くところまでやってきたのと、魔王に向けて刃がふりおろすために吉原が歩き出したのが同じだった。吉原は、バードマンの後ろにヒビキがいたことに気づきどう殺そうかと考えながら歩いていたが、その目線の先が自分ではなく子供の方だと思うと後ろを振り返った。そこには、門木が子供を助けるため小走りで駆け込んできていた。
「うしろだー!」
吉原が叫んだ同時に、門木に手を向けスキルを発動するとぴたりと動きが止まった、だが、その一瞬前に、門木は子供を奪い取るとヒビキのほうに放り投げていた。奪い取られた副リーダーは激高すると持っていた剣で門木の胸を突き刺すと門木は光の粒子へと変わって行った。
「あにきぃ、姉御をみつけてくれよぉ……」
「カドキさん!」
ヒビキとリイナが絶叫している中、ヒビキの胸には小さな子供が降ってきた。ヒビキは彼の最後の願いを受け止めると、奥にある屋敷へと逃げるように促した。門木の絶命をうけバードマン達は、魔王を守るため一斉に飛び上がり攻撃を仕掛けた。だが、バードマンの攻撃は、彼らの倍もいるTRTのメンバーのスキルによって、一撃もダメージを与えられていなかった。一人は強制的に地べたにおとされたり、一人は操られた人形のように味方に襲い掛かって行った。リーダーは、ゆっくりと魔王に近づくとその動きに見惚れ皆が魅入ってしまった。ヒビキとリイナは状態異常にかからずに、反撃しようとしたが吉原の行動停止のスキルの前に指一本動かすことができなかった。リーダは、動けない魔王の首をはねると踵を返した、魔王はリーダの後ろで光の粒子に変わり消え去った。リーダーは振り返らずに撤退の合図を送るとTRTのメンバーは従いその場を後にした。屋敷の前には、さまざまに怪我をしたバードマンと吉原だけが残っていた。
「ヒビキ、今殺してやりたいんだが、手が塞がってるからな。
今度ころしてやるよ」
吉原はヒビキに近寄ると顎にハイキックを決めるとヒビキはその場で意識を失った。ヒビキが倒れた腹に何度か蹴り飛ばしたが何の反応もなかったため、つまらなくなった吉原は首の骨を折ろうかと考えたが遠くでリーダーの怒声が聞こえると、リイナに手を当てたまま直ぐに軍団の元へと戻って行った。
「ヨシワラ!おれの指示がきこえなかったのか!!」
「へ~い、今いきま~す♪」
吉原の姿が見えなくなったところでようやくリイナも体を動かすと動かないヒビキに駆け寄った。近寄り命の危険はないことを知ると、怪我をしている全員にポーションを振りかけ怪我を直していった。陽が落ちる中、長を含め全員にも暗い影を落としたのだった。
ネタバレ山盛りのあとも、前作に興味があるひとは、こちらをどうぞ。
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