VRと現実
夕焼けと、青空のコントラストが眩しく、生い茂る木々が、美しい景色を作り出す。
そんな景色を眺めている一人が突然言い放った言葉に俺は笑みがこぼれた。
「リュウ!今日は、ありがとな!お前のお陰で、今回のイベント終わる前に、限定アイテムゲット出来たぜ!」
この男は、ニコルと言う。名前とは裏腹に、体格がよく、白髪で眼帯をしていた。
「あぁ。気にするなよ!これぐらい余裕だって!」
俺は、彼に対して、微笑みが止まらなかった。
役に立ってるのが嬉しいだけじゃなく、親友と呼べる唯一の存在と一緒にクエストに参加出来たことが何より嬉しいのだ。
「リュウ。明日には例の物が届くんだろ?」
例の物…それは、ナイトギアと言うものだ。
今は、pcでこの世界を表現している。即ち、この世界は、MMO RPGのゲームである。リュウという名前も本名ではなく、ニコルも同じだろう。
プレイヤーは、キャラクターを作り、この世界での役割をこなしているのだ。この世界で本名などは、いらなかった。
「あぁ。ナイトギア。明日届くはずだぜ!」
俺は画面の前で嬉しそうにはしゃいでいた。
「いいよな。あれ、予約者が多くて、販売台数限定化してるんだろ??よく、抽選に選ばれたな。」
ニコルは、羨ましそうだった。それは、表情を見ていなくても、チャットと言う文章からも伝わってくる。
「本当に、運がよかったんだろな??普通ありえないよな??」
俺は人生の運を全て使い果たしたと思っていた。
ニコルが、チャットで、「本当に運がいいよな!お前、気をつけろよ??不運が続くかもしれねぇーからな!」と、茶化した文章が目に入る。
「俺。そろそろ落ちるわ!仕事あるしよ!また、明日ログインしたら、ナイトギアの感想聞かせろよな!」
まだ、やり足りないような、雰囲気が文章から滲み出ている。
「オッケー!了解!俺は、ギルドに入りたいって子がいるから、その子に会って話しして、落ちるわ!また、明日な。」
そんなチャットをキーボードを鳴らしながら打っている最中、画面の中でニコルは手を振っていた。
そして、俺が打った文章を確認してか、ニコルは光になって、消えていった。ログアウトしたのだ。
俺は今からギルドに入りたいって、希望して来た子の所に行って、話を聞かなきゃいけない。正直面倒だ。だが、ギルド“三軒茶屋”の団長を務めるのだから、仕方ない事だ。
なんとなく、俺の説明をしてみる。俺とニコルは、ゲームの、サービス開始時の古参だ。
当初は、ギルドなどは無く、閑散としていた。
すぐにサービス終了するんじゃね?と、思いながら、無料という言葉と、“進化し続ける、 RPG”と言う、キャッチコピーに淡々とゲームをしていた。運営は、活発的に、アップデートや、データーの調整を頻繁に行い、今や全世界で多くのプレイヤーを抱える大ヒットを成し遂げた。もちろん、無料だが課金と言う方法で、運営されている。
俺も多額のお金を課金した。まぁ、重課金者と言うやつだ。
そして、終いにはこのゲームの為に、仕事まで辞めた愚か者だった。社会では役に立たなかった俺だが、この世界では、1000人を超えるギルドの長だ。そして、みんなが俺を慕ってくれている。この世界は、俺を人として見てくれるのだ。ギルドは、最初弱小だったが、エンジョイするのが目的である為、自然と人が集まって来て、今や、日本で2番目に大きなギルドとして存在していた。
エルムファースト。ここは、最初にプレイヤーが集う大きな街だ。もちろん、俺もこのエルムファーストから、この大規模な RPGを始めたのだ。
「ここで、待ち合わせだったな。エルムファースト。最初の街か… どこにいるのかな?」
プレイヤーログを確認していると、“SAKURA”と言う名前が目に入った。
このプレイヤーだ。事前に名前を聞いていた、俺は、直ぐに分かったのだ。ギルドメンバーからの紹介だった。会って話をする。別に面接とかではない。団長は、直接会って、入団の許可をワザワザしなくてはならないのだ。面倒だが、運営の決めた事だから、仕方がなかった。
「君が、“SAKURA”さんだよね?」
個人チャットにて、声を掛けてみる。
よく考えると、SAKURAという名前の人に、君が、SAKURAさんだよね?と言う文章は見てて滑稽だった。だが、コミュ障の俺にとっては、精一杯の声掛けとキッカケだったのだ。
すると、チャットログに
「あっ!もしかして、ギルド“三軒茶屋”の団長さんですか??」
返信は早かった。大分前から待っていたのだろう。
「はい!俺が、ギルド“三軒茶屋”団長のリュウです!よろしくね!」と、当たり前の文章をカタカタと打った。
「団長さん。はじめまして。SAKURAと申します。今日は、ありがとうございます。」
と、礼儀正しい子だ。
俺はあたふたしながら、「ようこそ!ギルド三軒茶屋へ!これから、よろしくね!」と、俺自身礼儀正しく返した。
少し、たわいの無い会話をして、俺は今日落ちることにした。落ちると言うか、現実世界に戻るのだ。
ゲームを終了してからの俺は、明日届くであろう、ナイトギアに胸を躍らせながら、床についた。