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野球 短編集  作者: 国木田エイジロウ
俺たちの野球道
8/13

逆襲に燃える者 前編

 今の大学野球には凄い奴がいる。


 早海大学は昔、東都大学一部では弱いチームだったが今その影は微塵もない。それは高校時代のチームメイトである黒沼、新村が加わったからである。


 黒沼はチームの不動のレギュラーで投手として全国に大きくその名を轟かせた。

 その後、さらなる活躍の機会を求めて新村と共に大学へと進学。

 新村は長年ベンチ外の選手だったが大学で頭角を現し、強打者に成長した。

 そんな選手のいるチームから点を取ることは難しい。また、完璧に抑えられる投手はいない。


 秋季リーグ最終戦、川之江かわのえ 大地だいちは応援スタンドで唇を噛み締めていた。スコアは一七対〇。彼のいる慶祥院けいしょういん大学は早海大学になす術がない。

 最後の打者が三振に打ち取られ、早海大学のリーグ優勝が決まる。


 今思えば、ここから始まったのだ。試合後、監督に渡そうと思っていた退部届を破り捨て打倒早海大学を決意したあの時から。



 慶祥院大学野球部は東都大学一部リーグで最多の優勝回数を誇る名門中の名門。無論、部員数は多く、二〇〇人をゆうに超えている。

 だがそんな強豪では珍しく、入部試験で希望者を蹴落とすことはしないという。その代わり、技能テストが存在し、実力次第で一軍、二軍、三軍に分けられる。


 川之江は野球経験者であり全国大会にも出場したことがあるにもかかわらず、三軍にいる。

 それは技能テストの結果が良くなかったことが大きな理由である。緊張で打撃も守備も散々な結果になってしまったのだ。


 三軍の仕事は主に雑用。打撃マシンの球出しやボール拾い、道具出し。週に二、三回練習の機会があるが、フリー打撃、キャッチボールと守備練習のためのノックくらいで実践練習は全くない。

 それ以外の日でやることがないときは筋トレやランニングをしている。三軍には初心者も混じっているため体力をつけさせる目的でやっているのだが、川之江にとっては退屈だった。


 高校時代は不振で控えになり、最後の夏の大会には代打程度でしか出ていなかったが、それまではレギュラーだった。

 三軍だと決まったとき、川之江はやる気をなくした。高校時代の実績など何も関係ない。

 練習を適当に流す日々が続いたある日、川之江は秋季リーグの試合の応援に駆り出された。

 このときすでに野球を続ける意味を見失っっていた川之江は、この試合が終わったら野球部を辞めようと考えていた。


 だが、グラウンドで見たのはかつてのチームメイトである黒沼と新村。黒沼とは高校時代、一軍で競い合った。彼が立ちはだかるのも頷ける。

 驚いたのは新村の活躍だ。東都大学一部では弱い早海大学だが、層は厚いらしい。長年ベンチ外であった彼がレギュラーとして試合に出ているのは考えられなかった。

 しかし、新村は一軍のエース投手から三打席連続で本塁打を放ち、スタジアムに歓声を沸かせる。

 結果、慶祥院大学は大敗した。

 試合終了後、川之江は新村に会った。声をかけてきたのは新村の方だ。


「川之江! 久しぶり! 大学でも野球やってたんだな」

「ああ、驚いたよ。まさかお前が早海大学のレギュラーの座を掴むなんてな。見事なホームランだったぞ」


 川之江はかつてのチームメイトを褒めた。


「お前の方はどうなんだ? 今日は試合に出てなかったみたいだけど」


 痛いところを突かれた。レギュラーはおろか一軍にもいない。高校のときとは立場が逆転したように感じた。


 川之江は正直に話した。野球を辞めようとしていることも。


「もったいない! 高校では控えだけど立派な一軍の選手でチームを支えてたじゃないか!」

「お前のようにはいかない。俺はもうやれる気がしない」


 突然、後ろから声がした。


「所詮お前はその程度だ。諦めが早く、緊張に弱い。高校ではそれが原因で結果はいまいち。大学でもどうせ同じだろ」


黒沼だ。その言葉にイラっとした川之江は拳を握り締める。


「怪我で一年くらい離脱していたお前が言うなよな」


 新村が間に入って軽くツッコミを入れる。


「辞めるって言うのは俺たちに勝ってからにしろってことだ。まあ、そのころになればお前の辞める気なんてとっくに消え失せているだろうな」


 川之江に向かって新村が言った。

 あんな言い方をした黒沼だが、奴は川之江がチームの柱となった慶祥院大学と勝負したいということなのだろうか。

 しかし、そうなるには紅白戦で相当な結果を残して二軍、一軍へと上がりその中でスタメンを勝ち取る必要がある。

 至難の技であることは言うまでもない。


「勝負だ、川之江。お前が試合に出てくるなら今日のような退屈な試合もましになる」


 黒沼が言った。

 勝負したい気持ちを受け取った川之江。その気持ちには応えたいが、一軍の舞台で活躍することなどできるのだろうか?


 

 家に帰り夕食をとる。

 その後、川之江は自分の部屋に入る。

 川之江はどうすれば一軍に上がれるかをいろいろと考えた。

 必要なのは緊張に打ち勝つ力。メンタルを鍛えることだ。

 だが、まだ何かが足りない。何かを見過ごしているような、そんな気がする。


 すでに大学の二回生。一軍に上がれるのは早くても来年の秋季リーグだろう。一軍に上がったからといってベンチに入れるとは限らない。

 登録枠は二五人。その中に入らなければ一軍であっても試合に出ることはできない。

 考えるだけで時間が過ぎていった。


 もしかしたら選手を見ている監督なら何か分かるかもしれない。

 明日にでも聞いておこうと思った俺は今日は寝ることにした。

 

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