銀河リーグへようこそ! 後編
決勝戦が始まる。
「正々堂々と戦おう」
「ふん。何が正々堂々だ。この卑怯も……ふごっ!」
正人がキングの口を押さえる。
「だめですよキングさん。こんなところで喧嘩をしては。今は試合に集中してください。俺たちは優勝するためにここまで来たんですから」
正人がキングを止め、場は収まった。
「ああ、そうだったな。勝って元の星に帰る。気づけば泣いても笑ってもこれが最後か」
キングはここまで共にして来た仲間たちと最後の試合を少し惜しんでいるようだ。
「またきっと会えますよ。そのときはもっと楽しく野球をしたいですね」
正人が言う。
「というか、あの人がお前のお姉さんだよな? なるほど。あんな美人ならバイソンが連れて行くのも無理はない。奴は結婚相手を探していたようだからな」
キングと話をしながら守備位置につく。
バイソンは相手側ベンチにいる。
「奴が俺たちと対峙する日が来るなんてな。俺たちはあいつに踊らされていたが、今日でそれもおさらばだ」
だが、勝てるのか。明日美の話を聞く限り相手はタダ者ではなかった。
キャプテンを除く相手のスタメン選手全員は薬物によって強化されている。大会の規定には薬物強化禁止などは書かれているが、具体的な検査を行わない。おそらくバイソンはその抜け道を使ったのだろう。
証拠はあるが、使うタイミングだ。とか何とかいろいろと考えていると打球が飛んで来る。
「いきましたよ、正人さん!」
はっと我に返る。強烈な打球が正人を襲う。グローブを差し出し、なんとか掴んだがグローブを付けている左手がヒリヒリする。
すでに試合は始まっている。フェニックスは後攻。チームの人数不足は否めない。
アウト一つは何とか取った。が、相手の打線が投手を襲う。
二番、三番と連続安打で一死一、二塁。ここまで試合の大部分を投げて来た投手に疲れが見え始めた。次の打者は一番危険な相手。四番ブルファンだ。
その初球。外角低めギリギリのまっすぐ。見逃せばボールかもしれないような球だった。
だが、それを軽々とスタンドへと持っていきあっさりと先制された。
相手は相当強いというのに序盤から三失点。後続は何とか断ったが、厳しいスタートだ。
全員の気持ちが早くも切れかかっている。正人は声を張り上げた。
「ここまできたんじゃねえか! 俺たちを金儲けの道具としか思ってないバイソンにギャフンと言わせるチャンスなんだぞ、これは。簡単に諦めるなよ!」
落ち込む気持ちはわからなくもない。
一番である正人がチャンスを作るしかない。
正人が打席に入る。決勝戦。多くの観客がこのドームにやって来ている。
この星に来て約三週間だろうか。野球の技術を磨くには絶好の機会だった。
今なら速い球に目が慣れている。初球は速いまっすぐ。狙いを定め、逆らわずに球を流し打ちする。
チーム初ヒットだ。二番は送りバント、三番はヒットでつなぎ、一死一、三塁。打席には四番のキング。
「チームとしての打撃を見せてやる。この投手からホームランはなかなか難しいが、点を取る方法はいくらでもある」
両手でバットを強く握りしめ、初球をフルスイングする。センターの定位置より深いフライだ。
補給と同時にスタートを切る。外野から内野にボールが渡るがホームへの返球はない。これで一点を返した。
勢いはあったが、後続が打ち取られ、三対一で初回の攻防を終える。
突然、グラウンド内に警察の制服姿の者たちが入って来た。
「宇宙警察だ。バイソン、お前を誘拐、その他の容疑で逮捕する。君達も来てもらうぞ」
「お前たち、これはどういうことだ。バイソンさん。あんた一体何を……」
宇宙警察が書類を見せ説明する。
「こいつはバイソンが部下に指示した誘拐についての証拠。それとこれは選手の薬物使用に関する報告書だ」
「おい、お前たち。今まで自分の強さをごまかしていたというのか」
ブルファンは怒った。
「すまねえ。勝たなければ俺たちは……」
選手たちは仕方なかった、とだけ言ってバイソンとともに連れて行かれた。
「皆さんもバイソンの件で被害を被った方だ。直ちにそれぞれの星に送り届けたいのだが……」
宇宙警察は正人らに問う。
「いいえ、この試合の決着がついてからにしてください。薬物強化選手がいなくなってもあのチームは強いですから」
キングは言う。あのやりとりを見てブルファンが真面目な選手だと理解したのだろうか。
「その判断に感謝する。最高の試合にしよう」
それにブルファンが答える。
いなくなった選手の打順に控え選手が入り、試合再開。
それからは壮絶な接戦。四回と五回に一点ずつ返し同点となったあと、試合はこう着状態に。
九回裏。二死ながら三塁へとランナーを進める。サヨナラのチャンス。打席には正人。初球、ストレートが高く浮く。
両手で握りしめ、バットを全力で振る。
あれから数週間。正人は明日美とともに部屋の掃除をしている。今日はたまたま野球部の練習がない。おまけに休日である。
正人は掃除機を掛け終わり、棚に飾ってある写真を見る。そこには優勝カップを手にする正人と歓喜のチームメイトたちが写っていた。
「名残惜しくなっちゃった?」
明日美が聞く。短い間だったがチームの一員として戦い、決勝ではあれからサヨナラヒットを打った。その経験のおかげか自信がつき、今は野球部のレギュラーとしてチームに貢献している。
「まあね。一言お礼が言いたいな」
正人がそう言うと、インタホーンが鳴る。正人は家の扉を開ける。
「お久しぶりです、正人さん」
なんと、そこにいたのはセイロンだった。なんでも話があるのだとか。
「実は私の星に野球チームができまして、宇宙規模の野球リーグに所属することができたのですが、まだ人数が少ないので助っ人してチームに加わって欲しいのです。どうでしょうか?」
急な誘いだった。この前と違い、地球でひっそりと行う試合なのだという。
「わかった。君たちと一緒に戦って俺は成長できた。その恩としてもちろん力を貸すよ!」
そう言って正人は手を差し伸べる。
「もちろん、私もよ!」
明日美が正人の後ろから出て来て彼女も手を差し伸べる。
セイロンは二人と握手し言う。
「銀河リーグへようこそ!」