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野球 短編集  作者: 国木田エイジロウ
銀河リーグへようこそ!
12/13

銀河リーグへようこそ! 中編

 大会当日になった。

 正人たちは大会予選が行われる星に移動し大会の開会式に参加していた。開会式後にすぐ多くの球場に分かれて試合が行われる。

 この予選は過酷だと言われている。その理由は予選の全日程を一日で終わらせるという無茶なものだったからだ。

 だが正人たちのチーム、渦巻フェニックスは決勝まで全試合四回コールドで勝ち上がった。

 言うまでもなく、グラビティルームのおかげだろう。相手投手の球は普通より遅く感じられる。球は軽く、打球の飛距離が伸び、普段よりホームランが簡単に打てる。

 守備に関しても飛んでくる打球が遅いため簡単に追いつける。決勝までは余裕で勝ち上がったが、決勝はこうはいかないだろうと正人は思った。

 決勝の対戦相手はオリオンスターズで渦巻地区一番の強さだ。

 どう強いのかというと、切れ目のない打線で全員がパワーヒッター。打撃一辺倒だけではなく守備も上手い。こちらとは違い、控えの選手も登録枠一杯を使い、変えの選手は大勢いる。取り付く島がないとはこのことだ。

 相手のこれまでのスコアを見ると強いチームにしては接戦が多いようだ。各チームがマークしていたのだろう。

 控え選手の体力も削ってくれていればなお戦いやすい。

 両チームが整列する。オリオンスターズの選手たちの顔色が悪そうだった。決勝に至るまでおよそ五試合を続けて戦い、接戦だ。そりゃ疲れるだろう。

 試合が始まった。正人が一番打者として打席に立つ。相手投手はあまり疲労していない様子。おそらく控えか。

 第一球を投じる。ストレートだが遅い。 正人は打った。打球は一二塁間を抜ける。ライトが捕球するのかと思いきや後逸。ありえないミスだ。

 三塁まで進む。先制のチャンスを作った。無死三塁で点が入る確率は高い。

 二番打者が無難にセンターへと犠牲フライを打ち、あっという間に先制した。

 ランナーはなくなったが、流れはこちら側にある。

 その後も打者一巡の猛攻でこの回は五点を奪い試合の主導権を握った。

 だが、こちらにも隙はあった。セイロンの指示でなんとなく守備はミスがないように見えたが、全ての感覚のズレを修正することは困難だ。

 大量失点、というわけにはならないが一点を返される。

 初回こそ五点を取ったフェニックスだったが、守備と打撃のリズムが狂った状況で追加点を取れず、その差はじわりじわりと詰め寄られる。

 決勝のみコールドの規定がないこの予選はどれだけ突き放そうとも最後の九回まで戦わねばならない。

 八回裏二死二、三塁。一打負け越しのピンチだ。打球が右中間へと飛んでいく。誰もが諦めた。だが一人、打球に向け全力疾走する者がいる。正人だ。

 見事なダイビングキャッチでチームのピンチを救った。

「技能が向上しても個々の力だけでこのチームは勝ち上がったんじゃない。俺たちは力を合わせ、ここまで来たんだ」

 一点差まで詰め寄られ、最終回。二死ランナー無し。

 打席には正人。左打席に入る。


 球場の観客席に二つの影あり。その正体はバイソンともう一人は人間の女性のようだ。

「さて、この場面。どう見るかね?」

 バイソンは女性に問うが女性は無言のまま。

「ふっ、せっかく宮殿の外に出て弟の様子を見させてやっているというのに。そろそろこの私に心を開いてくれてもよかろう」

「いい加減にしなさい! 誰が皆を苦しめるような者になんか……」

「弟がどんな目にあってもいいのか?」

 女性は唇を噛み締める。そして正人に向かって目を閉じ、両手を握る。まるで祈っているように。

 

 フルカウント。投手が投じたのは変化球。スライダーだ。だが、キレがなくおまけにど真ん中。

 甘い変化球を正人は逃さなかった。バットの芯に当てたまま振り抜く。

 快音そのまま打球は場外に。貴重な追加点だ。チームメイトが祝福する。

「この感覚だ。なんとなくだけどわかった気がする」

「何がですか?」

 セイロンは正人に尋ねる。

「ホームランを打つための条件みたいなものかな。芯に当てることと引っ張ること。それともう一つ」

 正人は上手い奴らにアドバイスを求めたことがあった。控えから抜け出そうと必死にもがくために。

 より確実にホームランを打つために上手い奴らは『最後にはセンスが必要』だと言う。

 だからといってセンスがないからホームランが打てないとかそういうことではない。打者としての最もの魅力は豪快なホームラン。いつもそう考えていた正人はホームランを打つことにこだわった。

 こだわりは時として自らの視界を狭くする。言うまでもなく、当たりとハズレの差は激しくなった。だが、この星で野球をして感じるのはどのチームよりも勝ちたいと思う執念。

 繋ぐ意識。試合のヒーローになることを捨て、次の打者へと繋ぐ。

 正人だけの大会ではない。チームメイトのこれからを決める戦いだ。

 そんな戦いに欠かせないものはより確実な得点力。繋ぐばかりではなく一発を打てる打者が必要なのだ。

 正人が感じたのは長打を打つための感覚。あいまいだったものが練習を重ねるうちに確立されたのだろう。

 無論だが、そういった感覚を他の者に教えることは極めて難しい。

「そうですか。地球に帰ったら大活躍できそうですね」

 セイロンは笑って言った。まあそれはフェニックスが本選優勝を果たせたらの話だ。

 九回裏。あとアウト三つだ。

「で、なんで俺がマウンドに?」

 マウンドにいるのはなんと正人だ。正人に投手経験はない。

「捕手のミットにめがけて投げるだけです。大丈夫ですよ」

 セイロンはそう言うがすごく不安だ。 というわけでマウンドに上がることになってしまった。

 交代はすでに告げられている。やるしかない。

 正人は捕手のミットを見る。真ん中低めに構えられたミット目がけて投げる。

 ものすごくいいミットの音がした。そんなに良かっただろうか?

「なんだこの球。こんな投手がいたのか」

 相手は驚いているようだが、正人は野手だ。これもグラビティルームでの練習のおかげなのだろう。

 球種はストレートのみ。だが相手は対応できない。

 三球で三振を奪い、まず一つアウトを取る。

 だいぶ気が楽になった気がする。自分のストレートは通用する。確信を持った正人は腕を振って投げた。

 速球がミットへと迫る。タイミングは合わない。また空振りを奪う。

 そのまま三振を奪い、あとアウト一つ。

 最後のアウトも三振で奪う。歓声が上がった。

「やりましたね。見事なピッチングです」

 本選出場を決め、セイロンは大喜びで寄ってきた。

「人生初マウンドは緊張したよ。俺はやっぱ野手のほうがいいかな」

 正人はホッとした。これからが本番。

 本選ではもっと強いチームと当たることもあるだろうが、このチームならなんとかやっていける。

 戦いはまだ終わらない。


「勝ったか。本選出場は最低限こなしてもらいたいと思ったがこれなら本選決勝まで残れそうだ」

 暗い部屋でバイソンは今日の試合の映像を見ていた。

「だが、優勝だけは不可能だ。まあせいぜい彼らには稼いでもらうとするか」

 独り言を呟き、にやりと不気味に笑う。

 

 予選が終わり、一日の休憩日を経て本選が始まる。正人たちフェニックスの選手たちは泊まっている宿舎で過ごす。

 休憩日、正人は予選前に言われたセイロンの言葉を思い出していた。

 正人のお姉さんは、バイソンの指示によって連れ去られた可能性がある。

 目的がなんなのかはわからないが、この大会には何かがある。

 バイソンという男は金のためならなんでもする奴なのか。何か書類とか証拠があればいいのだが……。

 悩んでもしょうがない。勝ち進んで事実を公表してやる。

 そう思い、個室のベッドに横になり目を閉じる。


 次の日。本選の会場に移動する。本選の開会式に参加する正人たち。どのチームも強そうだが一際目立つチームがあった。

 その名は、オックスバルカンズ。全員のガタイはかなりのものでどの選手も遠くまで打球を飛ばしそうだ。特にキャプテンのブルファン。彼からは凄まじい威圧感を感じる。他の選手もただならぬ圧力を感じる。

 予選とは違い、ある程度の試合間隔がある本選。一日に続けて試合をせずに済むが、コールドがないため一試合が長くなりそうだ。

 試合は全てドーム球場で行われる。いったいどのくらい金をかけたのかと驚くばかりの数のドーム球場。一つ一つのドームはかなり大きく見える。

 この大会の宣伝チラシの片隅の主催者の欄にバイソンの名があった。

 やはりこの大会には裏がある。正人はそう思った。

 あらゆる不安を抱えたまま、本選の大事な初戦へと向かう。

 絶対に負けられない戦い、真実を見つけ出すための本当の戦いが今始まる。

 

 初戦の相手ははっきり言って大したことはなかった。気持ちが入っていた分拍子抜けだ。

 だがこの試合は正人のミスが目立った。 観客は予選とは比べものにならない。緊張するのも無理はないが、簡単なフライを何度も落としているようではいけない。

「正人さん。らしくないですよ」

 すみません、と謝る正人。電光掲示板に小さく表示されている他球場の情報を見て正人は驚く。

「二〇対〇だと? しかもまだ試合の前半すら終わってないぞ。相手はどこだ」

 相手チームの名前にはオックスバルカンズ。実力は本物だ。

 予選で一番のチームたちばかりが集まっているはずの本選でこれほどまで差が開くとは……。戦慄した。

「今は試合に集中ですよ、みなさん。ミスはありますが自分たちのできることを精一杯すれば確実に勝てます」

 セイロンが集中を促す。

 チーム全体が引き締まる。チームの心臓はセイロンなのかもしれない。

 セイロンのおかげもあり初戦に勝利した。

「なんとか勝てたな」

 試合終了後、キングが正人に話しかける。正人は無言のままグラウンドを見つめる。

「助っ人がエラーの連続とはな。しっかり頼むぜ」

 そう言って正人の肩をたたく。

「キングはどう思ってるんだ。バイソンのこと」

「憎いさ。俺たちを強制連行して金儲けの道具に使っているんだ」

 でも、とキングは続ける。

「お前と出会えたことでなんとなく野球を知り、その楽しみを理解したと思う」

「感謝するのはまだ早いぜ。優勝までの道のりは平たんじゃないぞ」

 気持ち新たに優勝を目指す二人の姿を遠くから見つめる者がいる。

「そんなに心配かね、明日美くん」

 その者は、バイソンである。

 黒沢 明日美。連れ去られた正人の姉である。

「決勝には進めるだろう。だが優勝は不可能だ。なんせ決勝で待ち構えるのはもう一つの私のチームなのだから」

 ニヤリと笑うバイソン。明日美は唇を噛み締める。

「これで君は私の伴侶となるのだ。さあ早く心を……」

 バイソンは明日美に触れようとするが、その手を明日美に弾かれる。

「ぐおっ」

「私は信じています。正人のチームがこの大会を制し、あなたの悪事を明るみにしてくれることを」

 明日美は言う。

「決勝が実に楽しみだ」

 そう言うとバイソンは去っていった。


「間違いない。それは姉さんだ」

 俺とセイロンは防犯カメラの映像を解析し、辿り着く。

 バイソンの豪邸へと向かう明日美の姿が映っていた。

 フェニックスは本選を勝ち抜き、ついに決勝というところまで来た。

 相手はもちろんオックスバルカンズ。桁違いのパワーを持ち、今大会トップの実力チーム。

「決勝前夜。今しかチャンスはありません。一緒に正人さんのお姉さんを取り戻しましょう」

 気づかれずに少しずつ作戦を練ってここまで来た。

「俺たちは常に行動を監視されている、そうだったよな? でもいいのか。気付かれるぞ」

「別に構いません。バイソンの行動パターン。広報としてあの人を観察する機会は多々ありました。彼は常に目を光らせているわけではありません」

 セイロンによるとこの日がバイソンによる監視が薄くなる日なのだという。実際に予選決勝前、自らの部屋で泥棒に入られていたそうだ。

「そしてバイソンが苦手としているもの。それは煙です。部屋に押し入り、これをぶち込んで明日美さんを助けましょう」

 そう言ってセイロンが正人に手渡したものは煙玉だった。

「こんなのでうまくいくとは思えないんだが」

「つべこべ言う時間はありません。明日美さんを救い出すことがチームの勝利にもつながります。やりましょう」

 悩んでいる場合ではない。セイロンを信じ、正人はバイソンの部屋に入った。

「な、なんだお前たち。急に来るな、事前に連絡をよこせと言ったはず……ぐおっ、煙だと! やめろお前たち!」

 セイロンと正人は煙玉を投げつけ、すぐさま明日美を救い出す。

「正人!」

「姉さん、助けに来たよ。さあ早くこっちへ」

 明日美は正人の手を取り、セイロンとともにバイソンの豪邸を抜け出す。

「うまくいった、のか?」

「ええ、相当警備が手薄ですからそう簡単においかけて来ないはずです」

 セイロンら三人はしばらくして宿舎にたどり着く。

「本当に助かったわ、正人。あやうく宇宙人の嫁にされるところだったわ」

「なんだって?」

 正人は唖然とした。いろいろな話を聞かされ、バイソンの悪事について知る。

「これが部下へと誘拐の命令を出した時の指示書。これだけでも十分役に立つはずよ」

「そうですね。この証拠だけでもいけます。宇宙警察に調査を要請します」

 バイソンの豪邸は本選が行われる星にあるのだが、ここには宇宙警察も存在する。宇宙で起こる犯罪に対処すべく作られた組織らしいが、宇宙の富豪がこっそりと陰でやっていることを完全には掴めなかった。

「まあ姉さんは救い出せたとして問題は次の試合だ。どうやって勝つ? あのとんでもない強さのチームに」

「秘策ならあるわ。私の話を聞いて欲しいの」

 驚くべき内容であったのは言うまでもない。決勝がついに始まる。

 果たして正人たちは元の場所に帰れるのだろうか?


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