第8話 タケル
一同は召喚儀式を行った部屋とは別の部屋に来ていた。
部屋の中央に置かれたテーブルの奥には、国王フェリシテ王女、ジョワルの3人が座り、テーブルの手前には、勇者と呼ばれる男とクロエが座っていた。
部屋の壁際には衛兵が立っている。
(この座り方だと…私がこいつの仲間みたいじゃない)
諦めの悪いクロエである。明らかに国王達はクロエを勇者の仲間として扱い、座る位置を決めているのだ。
「挨拶がまだであったな。私が、この国の国王ミカエル・フォン・アーカムだ。勇者殿の名を教えてくれないか」
国王が話を切り出した。
(そう言えば、まだ名前も聞いていなかったっけ)
色々と話した気がするのに、肝心な事は何も話せていないのに気がついた。
だが、国王に聞かれた男は、何故か国王の名前を聞くと部屋をキョロキョロ見ていた。
(部屋に入って来た時は普通だったのに、なんで今頃キョロキョロし出すのよ)
どうもこの男を見ていると、おかしな言動や行動が目に付いて仕方がない。
男が口を開くと質問の回答とは全然違う事を言い出した。
「王様に会う時って…なんか、こう謁見の間みたいな場所かと思ったけど、普通の部屋っぽいし、余が国王だ。とかって言わないのな」
男の発言に国王とジョワル顔が困った様になるのが見えた。
(そこ?気にするところが、そこなの?!)
国王を相手に質問に答えず部屋や話し方を指定し出すとは誰も思ってもいなかった。
「あの…勇者様が話しやすいようにだと思いますよ」
クロエは男に言った。
「おぉ、ありがとうございます」
クロエの言葉に男が国王に感謝の言葉を述べる。
「俺の名前は…なぁ、クロエって下の名前?」
「へっ?し、下?」
(下ってどう言う意味? 家名を聞かれてる? いやいや、それより王様の質問に答えようよ)
「えっと…クロエは名前です。家名は、シャティヨン。クロエ・シャティヨンです…」
国王の質問を無視しているのが気になって、小さく答えながらテーブルの下で国王の方を指さす。
(こっちじゃなくて、前向いて話して…)
「えっと、それじゃぁ…タケル・フジマキです」
やっと勇者が名前を答えてホッとするクロエ。
「勇者様の世界では、家名と名前の言い方が違うのですか?」
目をキラキラされながら、王女がタケルに聞いた。
「そうそう。普通は藤巻武尊の順番なんだよ」
何が面白いのかタケルが笑いながら王女に答えた。
「それでタケル殿。我々がタケル殿に来て頂いた理由だが、魔王の手から人々を救って欲しいのだ」
「おう、任せとけ」
国王の要請をまるでその辺のお使いを引き受けるかの様に軽く受けるタケル。
「「…」」
答えるとタケルはじっと国王を見たまま動かない。
「…報酬などは」
「いやいや、そうじゃなくて」
間に困った国王の言葉をタケルが遮る。
隣に座るクロエは、冷や汗が出る思いがした。
いや、実際嫌な汗が先程から出ている。
(お願いだから、私が居ないところで話してよ)
そんなクロエの思いも虚しく、タケルが訳の分からない事を言い出す。
「伝説の武器とかってないの? 勇者にしか使えない剣とか鎧とか」
「「…」」
言葉を失う一同。
「勇者様の世界にはその様な物があるのですか?!」
王女が聞いて来るが、その回答は、
「いや、無いけどさ」
と、素っ気ない物だった。
(無いなら何故聞いた! お前の世界に無い物がある訳ないだろ!)
勇者の頭をひっぱたきたくなるのを堪えるクロエ。
他の人達も、国王含めて何か言いたそうな顔になってる。
「あ〜うん。残念ながら、私達の世界にも…少なくともここにはその様な武器は無い。
武器などを揃えるのに必要な資金は援助するので、それで揃えて欲しいのだが、それで良いかな?」
ジョワルが勇者に申し出る。
その顔には、さっさと必要な話を終えてしまいたいと書いてあるようだ。
「しょうがないか…まぁ、徐々に強い武器に変えて行くのも楽しみ方のひとつか」
(楽しみ方って何? 魔王倒しに行くんだよね? もっと真剣になろうよ)
クロエがそう思っていると、国王とジョワルも同じ様に感じたらしく、タケルを見る目はどこか冷めていたが、
「魔王を倒す旅を楽しめるなんて、流石勇者様です」
約1名。王女だけは違う反応を見せていた。
「ジョワル…ワシは政務があるので失礼するが、後を頼めるか」
我慢の限界なのか、国王は立ち上がりさっさと部屋を出て行ってしまった。
「おぉ、王様ってやっぱり忙しいんだな」
空気が読めていない感想をタケルが口に出した。
(違うと思うよ…)
クロエは思うが言葉にはしない。
「他に何か質問はあるかな?」
冷たい視線でタケルを見るジョワルが聞いてくる。
クロエは、タケルの方を見るが、彼はう〜んと少し悩んだ後、また変な事を言い出した。
「王女様は一緒に行かないの?」
その目は王女を見ていた。
「「「えっ?」」」
予想外の言葉に3人の声が揃った。
「な、なんで王女様が?」
クロエが聞いてしまった。
(しまった…つい喋っちゃった)
クロエは、出来るだけ巻き込まれたく無くて、先程から頑張って黙っていたのだ。
「何でって…回復役?」
返ってきた理由は、更に謎だった。
(回復役? 治療魔法の事? 何故王女にそれを求める?)
「あ〜、王女様は治療魔法は使えないし、必要ならクロエが使えるから問題無い」
クロエは、ジョワルの言葉に思わずジョワルを見るが、目を逸らされてしまった。
(ちょ!ひ、ひどい!)
「申し訳ありません。私も、勇者様の活躍をこの目で見たいのですが、戦う力はありませんので」
そう言いながらタケルに頭を下げるフェリシテ。
(こんなのに、頭を下げる必要なんてありませんよ! こいつの言ってる事が変なだけです!)
そう心で叫びながら、実際にクロエの口から出たのは、
「王女殿下…」
とか細い声が出るだけだった。
「あ、いや、ごめん。そう言う設定かなと思っただけだから…うん。クロエがいるから大丈夫だから」
慌てた様に謝罪を口にするタケルを、
女の涙とかに弱いタイプ?
などと思いながらクロエが横から見ていた。