第7話 異世界から来た勇者
その男の人は変わった服を着ていた。
真っ黒な上下の服に黒い靴。そして、髪も目も黒い。
全身が黒い服装だった。
上の服のボタンだろうか、身体の正面で合わせる形になっているその服の5つのボタンだけが金色だった。
魔方陣の中心に現れたその男を部屋の全員が見ていた。
「ゆ、勇者様ですか?」
先程の王女が魔方陣に近づいて男に尋ねる。
男は王女の質問に困った顔を見せた。
(あ〜あれは、私が魔道士ですかって言われるのと同じ心境だ)
クロエは、なんとなく男の気持ちがわかる気がした。
「異世界から来られた勇者様では無いのですか?」
「え?ここ異世界なの?マジで?!」
「あぁ〜やっぱりそうなのですね…こら、離しなさい」
男の元に駆け寄ろうとした王女が近くにいた衛兵に危ないからと止められている。
(なんで異世界、異世界で会話が成り立つの?)
側で聞いていたクロエは、その会話に若干納得し難いものを感じた。
「俺…机で昼寝してた筈なんだけど…」
そう口にする男と目が合った。合ってしまった。
慌てて目を逸らすクロエ。
「おぉ、何その格好!魔法使いか!」
クロエはジョワルが用意した赤いローブを身にまとっていた。
(な、何故こっちに! いや、それよりも、そんな全身黒ずくめの人に服装をどうこう言われたくない)
そんな事を思ってしまうが、口に出す勇気は無い。
「そうです。その者が貴方を召喚した宮廷魔道士のひとりのクロエです」
やたらと嬉しそうに王女様が男に説明するが、色々気になった。
(わ、私は宮廷魔道士じゃ無いです)
そう言おうとクロエがするが、
「おぉ、マジか。ロリっ子魔道士すげぇ」
男の声の方が早かった。
「ろ、ろりっこ?」
聞き慣れない言葉にクロエが反応してしまう。
「ん?若いんじゃねぇの? もしかして、その見た目で100歳とか言ったりする?!」
すごく失礼な事を男が言ってくる。
(どう考えたら100歳なんて出てくるのよ。そんなに長生きする人はいません)
「10歳です」
クロエが口に出せたのはそれだけだ。
「おぉ、JSじゃん。って、10歳ってこんなガキっぽいかな? お前童顔なのか?」
(じぇーえすってなんだ!ガキで悪かったな!)
イマイチ良くわからないが、馬鹿にされているのはわかった。
「山の中で暮らして居たから」
「あ〜、化粧とかしてないからか。あっちの子は美人だもんな」
そう言うと王女の方を見る。
(王女と比べんな!勝てるか、そんなもん!)
段々とイライラした来たクロエであった。
「あ〜、勇者殿…場所を変えて話がしたいのだが、どうだろうか」
国王が、その場をおさめようと声を掛ける。
周囲は、あのジョワルも含めてどうしていいかわからない空気になっていたのだ。
(流石は王様…この状況で落ち着いているなんて凄いです)
クロエは、ひとりこの場を冷静に仕切ろうとする国王に感心した。
「ていうか、ここどこ? 俺何のために呼ばれたの? チートは?」
男の最後の言葉は良く分からなかったが、最初にその質問だろうと思ってしまうクロエ。
「その辺りの説明も場所を変えてしよう」
国王の言葉に我に返ったのかジョワルが男に言った。
「そっか。宜しくなロリっ子」
男は何故かジョワルではなく、クロエの方を向いてそう言って来た。
「な、なんで私…」
「そりゃ、召喚された場所にロリっ子の魔法使いが居たら、もうテンプレでしょ」
(てんぷれ? よく分からない言葉で私を巻き込まないで〜)
クロエは叫びたい気分だった。
「あ〜マジか〜。異世界召喚で冒険して魔王倒すとか胸アツ過ぎる」
(目的わかってるじゃない…)
そう言いたい気持ちを堪えるクロエ。
「勇者様を召喚した理由はご存知の様ですが…その者…クロエは必要でしょうか?」
ジョワルが男に問い掛ける。
(い、嫌な予感しかしないんですけど)
「いや、私なんか…」
「いるいる。天才…うん。美少女魔道士なんだから、仲間に必要だね」
(今、なんか間があった!何、今の間!)
この男に、天才だの美少女だのと言われても、全く素直に受け取れない。受けとりたくないとクロエは思った。
ジョワルは考え込む。
正直、彼はクロエを持て余していた。
もう少し大きくなったら魔道士学院にでも入れようかと思っていたが、クロエの魔法は彼が思っていた以上に非常識過ぎた。
これでは誰も魔法をクロエに教えられないのでは?そう考えていたのだ。そして、その苦情がジョワルに来る事も。
だが、異世界の勇者と一緒なら非常識も目立たなくなるのではと考えた。
ジョワルが国王を見ると、国王は軽く頷いた。
「そうか。魔王を倒すのに必要と言われては仕方がない。旅にはクロエも同行させよう」
ジョワルの非情な宣言がクロエの耳に届いた。
(何故、私が…)
クロエはその場にへたり込みたい気分だった。