第5話 王城の生活
国王の言葉にジョワルは慌てる。
「まだ年端もいかない娘を儀式にですか?」
思わず国王に反論する様な事を口にしてしまった。だが、国王はそれを流し続ける。
「儀式の六人目は見つかっておらんのだろう。それならば、その者で試してみてもいいと思うが?
それにフェリシテも勇者にいつ会えるのかと言うておるしな」
国王は勇者の物語に傾倒してしまっている第三王女である自分の娘を思い出し、苦い顔を見せた。
その王女は、勇者の物語が好き過ぎて、召喚儀式には毎回参加する程なのだ。そして、毎回儀式が失敗すると、残念そうな顔を見せるのであった。
それは、美しく聡明で国民からも人気が高い第三王女の唯一と言っていい欠点であった。
「フェリシテ様ですか…わかりました。ただ、どの程度魔法が使えるかまではわかりませんので、少し時間を下さい」
断る事は出来ないと悟ったジョワルは、せめてクロエの力を把握する時間を作ることにしたのだ。
その後の話で、クロエは元宮廷魔道士であるゲイツ・シャティヨンの孫娘で、クロエの弟子として宮廷魔道士になるべく修行をする旨を公表する事になった。
ジョワルとしても、未婚といえ周囲に変な誤解を作りたくなかったので、有難かった。
こうして始まったクロエの王城での生活だが、クロエにとってはあまり居心地の良いものでは無かった。
ジョワルは宮廷魔道士として、それなりに多忙であった為、ほとんどひとりで過ごす事が多い。
「あの子、また一人でブツブツ言ってるよ」
「しっ!声が大きいわよ。ジョワル様が連れてきた子よ?こんな所で話してて、悪口なんて言ってるのが聞かれたら、何があるかわからないわよ」
友人も居ないクロエは、精霊達と話す事が多かったのだが、他の人には姿は見えず、声も聞こえない。
その結果メイド達の間では、いつも独り言を言っている気味が悪い子として噂になってしまっていた。
そして、その話を精霊達がクロエに伝える為、それが益々クロエの疎外感を強くする原因になってしまっていた。
王城で過ごすごく短い期間で、山小屋で過ごしていた天真爛漫な面影は消え去り、クロエはすっかり暗い印象になっていた。
ある日、クロエは中庭の隅の方にひとり座っていた。
夜はジョワルが魔法の事を教えてくれるが、昼間は特に部屋に居てもすることが無い。それに、精霊とあまり話してはいけないと言われたので、中庭で過ごす事が多かった。
勿論、ジョワルは精霊と話していると周囲から変な目で見られると言う意味で言ったのだが、ジョワルに禁止されたと思い、バレない様に中庭で精霊達と話していたのだ。それが返って周囲の目につく結果になってしまっていた。
これはジョワルに子育ての経験がないのと、クロエがジョワルに心を開いておらず、必要最小限しか話をしない為に起こっているすれ違いだろう。
「山でひとりの方が良かったかなぁ」
そんな言葉がクロエの口から漏れる。
山の中でどうやって暮らすのか。ここにいれば、衣食住はある。その程度はクロエにもわかっている。
それでも、この城に居ると閉じ込められている感じがするのだ。
「おじいちゃん…」
中庭の片隅で泣くクロエの周囲には祖父の姿は無く、ただ慰める様に集まった精霊達が漂うだけであった。