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第4話 国王の意見

 

 火はゲイツの肉体を煙に変えると、その勢いを失い鎮火していた。


 焼け跡の前に立ち尽くすクロエに、ジョワルが話し掛ける。


「これからどうする?」

 先程とは違い、今度は意味が正しく通じた。


「わかりません…両親も居ないので」

 クロエは焼け跡を見たまま答えた。


「俺と…王城に来ないか?」

「えっ?でも…」


 ジョワルの言葉に戸惑うクロエ。

 初めてあった男に言われて、すぐについて行ける訳がない。


「俺はゲイツ老…お前の祖父に以前世話になったんだ。恩人の孫を放っておく訳にはいかないからな」


 そう言われるが、クロエからすれば突然の申し出過ぎて躊躇われる。


「私は…ここで、おじいちゃんとふたりきりだったから、町にも行った事無いですし…」


 言い訳のような言葉がクロエの口から漏れる。


 そこに軍医の男が口を挟む。


「お嬢さん、そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。

 こちらのジョワル殿は、お嬢さんのおじいさんが王城を去る時にに宮廷魔道士を任した程のお方ですから」


 男の言葉にジョワルを見るクロエ。

 少しの間の後、クロエはジョワルに頭を下げて言った。


「お世話になります」


 その後、クロエは身の回りの荷物を纏めると、ジョワル達と山小屋を後にした。


 一晩経ち、ゆっくりと歩くくらいまでは回復した馬に乗って、三人は山を降りる。


 ジョワルの前にクロエが座り、クロエの荷物が入った背負い袋は、軍医が馬に積んで運んでいた。


 王城が見える位置に来ると、クロエが驚いた様な声を上げる。


「あれがお城…思ってたより、ずっと大きい」


「あぁ…私は王城の一室で暮らしているから、多分お前もあそこで暮らす事になるな」


 ジョワルは未婚だった。

 それに、国王の相談役でもあったので、王城に寝泊まりしていたのだ。


 クロエを預ける相手も居ないし、魔法の常識を無視したような事をしでかす少女を、町で一人暮らしさせるのも危険な気がしたのだ。


(ゲイツ老…魔法の常識くらいは教えておいて欲しかったですよ…)


 自分から言い出した事だが、これからの事を考えると、元々子供が苦手な彼は少し気が滅入ってしまった。


 城の入り口で衛兵に馬を預け、ジョワルとクロエのふたりは王城の中を歩いていた。


 軍医とは城の入り口で別れている。


(本当に町は初めての様だな)


 ジョワルは、城の城下町で物珍しそうに辺りをキョロキョロ見ていた少女の様子を思い出していた。


 ひとつの部屋に着くと、ジョワルはクロエに言う。


「私は、ゲイツ老の事を報告してくる。お前は、少しここで待っていてくれ」


 その言葉にクロエは頷き返した。



 ジョワルはクロエを部屋に残すと、国王の元へと向かった。


 執務室の前に立つ衛兵に面会をしたい旨を伝えると、すぐに取り次がれた。


 国王は机で何かの書類を確認しながら、署名をしているようだった。


 ジョワルは、いつものように来客用に置かれているテーブルの脇の長椅子に腰掛ける。


「して、ゲイツは見つかったか?」


 国王の問いにジョワルは少し顔を伏せ気味に答える。


「私が着いた時には、既にお亡くなりになっていました」


「そうか…それでは、勇者の召喚は出来ぬか」


 国王は筆を止めて椅子から立ち上がると、ジョワルが座る向かいに腰を下ろした。


「異世界の勇者と言うのは…本当に我々の力になるのでしょうか?」


 ジョワルは国王に疑問を投げかける。


「わからん。だが、海岸沿いの町や村では、海を渡ってきた魔族による被害も出ているらしい」


 彼らの住むアーカム王国は大陸の西の端にあり、海の向こうにあると言う魔族の侵攻を度々受けていた。


「小競り合い程度の侵攻であればなんとかなるが、大挙して魔族に攻められれば国民に多くの被害が出る。

 ただのおとぎ話かも知れんが、打てる手は打っておきたい」


 アーカム王国には、かつて異世界から召喚された勇者が魔王を倒したと言う昔話があった。


 昔話に出てくる勇者の召喚儀式を国王が宮廷魔道士に命じたのは、王城の地下にある宝物庫から召喚儀式に使う為の魔方陣と、国王の祖先にあたる過去の国王が書き記した手紙が発見されたからだ。


 国王自身も半信半疑であったが、厳重な警備がなされている宝物庫にわざわざ紛い物を保管するとも考えにくかったので、もしかしたと言う思いから儀式の実施を命じたのだ。


 ふと、ジョワルはクロエの事を思い出した。


「そう言えば、ゲイツ老の元に孫娘が居りました」


「ほぉ。その娘はどうしたのだ?」


「話によると両親も居らず身寄りも無いとの事でしたので、独り立ち出来る歳まで、私が面倒をみようと思っています。ゲイツ老には生前お世話になりましたので」


「ふむ。城で暮らすという事か?」


「そう考えておりますが、駄目と言うことであれば、町に家を用意致します」


「いや、別に余は構わないが…ゲイツは、その娘に魔法を教えていたのか?」


 ジョワルは質問の回答に悩んだ。

 クロエは魔法を使えるようだが、ゲイツが教えたものとは思えなかった。


「魔法は使えるようです」


 国王に嘘をつく訳にもいかず、そう答えた。


「ふむ…」


 質問に対する回答のズレに違和感を覚えながらも、国王はそこは指摘しなかった。


 その代わりに国王が口にしたのは、


「その者を儀式に使えないか?」


 勇者召喚の儀式にクロエを参加させるという話であった。


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