いついかなるときも平静に
「やぁ,初めまして。君が僕のボディガードだね。こんなにクールな美女をエスコートしながら観光できるなんてなんて光栄なんだ。」
聞いた方が恥ずかしくなるようなセリフを物怖じなく発する爽やかな青年が手を差し伸べる。
事前のリサーチの年齢よりも,大人びて見える青年の瞳を見つめながら手を差し伸べた。
いつもの仕事よりは,カジュアルな依頼だ。相手にもリラックスして滞在を楽しんでもらいたい。その気持ちが伝わるようにアイラにしては珍しく笑顔で言葉を交わす。
「よろしく。私はアイラよ。今日から一週間のスケジュールで,私のチームがあなたの護衛と案内をするわ。あなたのご希望に可能な限り答えようと思っているわ。荷物は滞在先のホテルに先行して運んでおくので,待機させている車へどうぞ。秘書は一緒ではないの?」
若いとはいえ,立派に仕事をこなす彼には専属の秘書がいるはずだ。彼女の会社への依頼や支持,彼の要望も全て秘書を通してのものだった。
「ああ,彼はいつも相当な量の仕事を任せてしまっているから,この機会に休暇を取ってもらっているよ。多少なりとも自分でできることはあるから,僕のことそんな母親のような目でみないでくれよ。」
そんな指摘を笑顔で頷いて受け流しながら,アイラは彼を車へと案内した。
亀の歩みです。