幼女とアルバイター。
大人しく正座をして俺の質問に答えてくれる彼女の話を纏めると。
帰り道で感じた嫌な感じとは、恐らく彼女が天界?から見定める為に俺を見ていたから。
ドアの前で振り返っても誰も居なかったのは、その時彼女はまだ天界?に居たから。
俺の部屋に入ったのは天界?のなんか凄い女神パワーを使って入ったから。
既にかなり痛い子だと認識しているが、その意識を上乗せしたのは彼女の自己紹介だ。
「自己紹介ですか……? えっと、わたしはアテナ。貴方達人間からすれば、神様……つまり女神です。こう見えて、愛を司っている立派な女神なんですよ!」
別に神話に詳しい訳じゃないけど、愛を司る女神って確かアフロディーテとかエロスとかじゃなかったっけ。アテナって知識とかそんなのに携わってる女神だったような。
……っていうか、女神?
なに言ってんだこの子。
だが、あながち嘘を言っている様に思えないのは正座したまま自信満々な彼女の姿と、実際に俺が体験している事と彼女の言っている事が合致しているからだ。
ここまでの事を理解に追いついていない頭をフル回転させて結果を導く。
考えると言う力を持った人間にしか出来ない崇高な行為だ。
俺は意を決して脳内で纏めた結論を彼女に向けて言った。
「じゃあ、警察呼ぶからそこで同じ事言っておいで。」
時には、考える事をやめるのも大事な事である。
ズボンのポケットからスマホを取り出して操作していると、彼女から非難の声が上がる。
「ま、待って下さい! わたしは本当に女神ですから! なんなら証拠だって見せます! あなたの今日一日の行動を全て包み隠さず言ってみせましょう!」
不法侵入罪に、ストーカー罪も追加かな。
「ちち、違うんです! そういう事では無くてですね、えっとー……そのー……。 ! で、でしたら女神の力を見せて上げます! さぁ、何でも言ってみて下さい!」
両手をわたわたと動かして必死に抗議の声を上げる彼女の姿は哀れとも見えるが。
しかし、自称女神様がその力を見せてくれると言うのなら乗ってみるのも有りか。
「本当は禁止事項ですが、仕方ありませんよね、えぇ。」
ぶつぶつと呟いている言葉は俺の耳には届かなかった。
取り敢えずスマホを一度ポケットに戻してから、彼女に向き合う。
顎の下に手を当てて考える素振りをしてから、ものは試しにと。
「何でも言ってくれって事だけど、君には何が出来るの?」
女神の力。と言われてもピンと来ない。
だったら質問を投げかけてから考えるのも遅くはないだろう。
彼女は俺の質問に対して得意気な顔を浮かばせると続けてこう言った。
「その疑問はもっともです。そうですねぇ……じゃあヒントをあげます。わたしは愛を司る女神です、貴方には意中の女性は居ませんか? その仲を取り持ってあげま「いません。」……、そうですか。」
アルバイター舐めんな。
彼女の言葉を割って入ったのは俺の悲しい本音である。
こうやって問答してても埒が明かないだろう。
無理難題を吹っかけて、さっさと警察に明け渡そう。
そう考えた俺は、唸り声を上げている彼女に告げた。
「そういうのじゃなくてさ、何かこう……一発で、この子は人間じゃない、女神だ! って思わせられる様なやつは無いの? 例えば瞬間移動とか俺を天界に連れて行くとかさ。まぁ無理なら無理で「そんな事でいいんですか? 楽勝ですよ。」……、はぁ?」
逆に俺の言葉を割り、間に入ったのは彼女のそんな言葉だった。
続けて彼女は俺の想像していなかった事を言い出した。
「いやぁ、良かった良かった! 貴方を一々説得するのは面倒だなぁと思っていたので、手間が省けましたよー。では、天界に行きましょうか!」
─────そこで俺は、後悔した。
突如として畳が引かれているだけだった家の床には青白い紋章が浮かび上がる。
それは俺と彼女を包み込む様に光初めた。そんな異常事態に慌てた俺は彼女の肩を掴んで前後に揺らし静止の声をかける。
「ちょ、ストップストップ! わかった、わかったから! お前は女神だ、女神アテナだ! どんな手品かしらんけど、こんなの見せられたら納得するって!」
「あ、あっ、辞めて下さい! 揺らさないで下さい! ずれます! 色々ずれちゃいますから!」
無我夢中で静止の為彼女を揺らしていた俺には声が届かない。
そんな俺の想いとは裏腹に、その紋章の様なモノの光は強さを増して。
最終的に、眩しくて目を閉じた俺の意識は。
身体が浮き上がる様な感覚と共に、俺の元から消え去った。