異世界へ
今日は雲ひとつない晴れた日だ。いつも通りと変わらず学校いって帰り際に寄り道して喋って友達と遊んで帰る…そんな日のはずだったんだ。
バシッ!
「痛っ 」
「こらっ 織田くん!起きなさい。授業中に寝るんじゃないの」
痛い、何かで叩かれたようだ。ぼーっとした目をなんとか開けると、教科書を丸めて俺に突きつけてきている。おそらくこの教科書で叩かれたのだろう。それにしても痛い。頭を叩かれたようだ。手加減を知らないらしい。
「痛いですよ先生」
「授業中に居眠りしてるのが悪いんです」
先生はそう言いながら俺の頭に手を伸ばす。自分でもやりすぎだと思ったのか、言葉とは裏腹に心配するそぶりを見せる。少し意地を張った子供のようだけど、見た目はストレートで長髪の艶のある黒髪で顔もキリッとしていて、可愛いと言うよりは綺麗なかんじでカッコいいと言う言葉の方が似つかわしい 非の打ち所がないエリート女子といった所でそのギャップが可愛らしい。
そう、今は学校にいて授業中だ。俺つまり織田 秀徳 (おだ ひでのり)はどうやら居眠りしてたようだ。つまらない授業を受けてると眠くなってくるんだ。学校はつまらない。俺は目つきが悪いし無口だから友達があまりいなかった。唯一、友達と言えるのはこいつだろう。
「はははっまた寝てたのか、授業しっかり受けないとまた点数落ちるぞ」
こう言ってはいるがこいつも点数は高くない。俺とこいつは赤点の奴が受ける補習授業の常連だ。こいつは橘 透と言って俺の唯一の友であり親友だ。なにをしたわけでもないのに目つきが悪いせいで皆んなに怖がられている俺に無神経にも話しかけてきて大分馴れ馴れしい。ムカつくけど人望の厚い、いい奴だ。俺なんかがいなくてもこいつには友達と呼べる奴が沢山居るのになぜか俺につきまとってくる。
「そんな事言ってお前は勉強してんのかよ?」
「もっもちろん、やっやややっていたとも」
やってないな。間違いなくやってない。そう思って透のノートを見てみると下手くそな絵の落書きが書いてある。みかんに手と足がついていて縦巻きロールのカツラを被った、今人気のキャラクター『ミカ様』を書いていたようだ。透はムカつくけどイケメンだし、すごいムカつくけど運動神経もいい。こんな残念な奴じゃなければ、さぞかしモテた事だろう。こんな性格だから人気者なんだろうけど。
「橘くん、あなたもなの?」
先生はそういって透を睨みつける。
「あなた達、二人とも居残り授業です。放課後は帰らずに残りなさい」
先生は呆れたような物言いでそう告げる。
「「マジかよ」」
マジかよなんて言ったものの先生は自分の仕事を増やしている訳だから、俺たちの事を心配してのことだろう…と言う事にしておく。全くかわいいやつだ。
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授業を終えて帰りの号令が終わるといつもなら帰るが、俺たちは居残りだ。
「また勉強か…」
俺は誰にも聞こえないような小さな声で呟く。誰にも聞こえない筈だが先生は聞き逃さなかったようだ。
「そうですよ、楽しい勉強の時間です」
そう言って先生は満面の笑みを見せる。俺と話す口実が欲しくて居残りを楽しみにしてたのか、それとも俺たちがとんでもない量の勉強をやらされるフラグなのか。前者だと思って無理やりテンションを上げよう。
透と俺は黙々と文句も言わず勉強している。先生が睨みを利かせているからだ。ここで文句の一つでも吐こうものなら追加の課題が俺たちを待っている。
「よし、今日はこの辺で終わりにしましょう」
先生がそう言うと緊張取れたのか透が口を滑らす。
「やっと終わったよ。今日はってまさか明日も…」
「ん、その通りですが何か問題でも?」
先生はそのつもりはなくて、はなしの流れで言っただけのようだが透のせいで明日の居残りが確定する。その明日は来ないのだが、そんな事を俺たちは知るよしも無い。
「先生、そんじゃさいなら」
透が挨拶をしたので俺もそれに習って軽く頭を下げる。
「気を付けて帰りなさい」
先生が返事をした後、俺と透は教室をあとにする。
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誰も居なくなった教室。一人の女性がそこに居た。彼女はこの学校の教師で名を下道 亜里沙と言う。先ほどまで生徒二人の居残り授業に付き合っていたからだろうか、少し疲れたのか、ぐっと背伸びをする。自分の学生時代を思い出したのか、教室を見渡していると
「あれ、これはなにかしら」
そう言った彼女が視線を向けるのは金属製のペンダントだ。
俺は透に『ヒデ』と呼ばれている。こんなかんじで帰り際にいつも誘ってきて一緒に帰る事になる。
俺たちは帰りに決まって近くの公園に寄り道する。
ブランコしかないシンプルな公園で、近所の子供とかは皆んな新しく出来た遊具の沢山ある方の公園に行ってこの公園にはあまり誰もこなくなっていた。
「ヒデ、なんか飲むか?」
そんな事を聞いてきたので俺はコーヒーを頼んでブランコに座る。近くの自販機で買ってきた缶コーヒーを俺に渡して透もブランコに座る。冬の始まりの肌寒い時期だからか暖かいコーヒーが体の中に染み渡る。
「なぁヒデ、もうすぐ卒業だろ?お前はどこの高校いくんだ?」
「とくに決めてないけど近くならどこでもいいや。透はどうすんの?」
「俺もとくには決めてないな。近くだったら同じ高校かもな」
俺と透の家は近所で小、中と同じ学校だ。何が面白いのか、いつも帰りにこの公園によってはこんなたわいもない話をして暇を潰して家に帰る…そのはずだったのに
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ズドン
大きな音がした。耳を裂くような爆発音とともに目が開けられないほどの眩しい光が俺たちを襲う。目が光に慣れてきて状況を確認する。透は無事なようだ。目が開けられないほどの光だったのが慣れてくるとそこまで眩しくない。黒色なのに光り輝いている不思議な光。やがて光は空間を歪ませひび割れていく。
「なんだこれは」
「わからない、とにかく離れた方がよさそうだ」
俺たちは何の根拠もない焦りみたいなものを感じ、速やかに離れようとする。
バキバキッ
だが少し遅かったようだ。光から生じたひびは段々と広がっていき目の前の景色は割れた鏡のように音を立てて崩れていく。その割れた空間の狭間の中から黒いものが溢れてくる。それは水銀を黒く染めた様な見慣れないもので、俺たちの警戒心を煽っていく。その黒いものが触手のように形を変えて俺たちに襲いかかる。
「これに掴まれたらやばそうだな」
こんな状況でそんな事を冷静に呟いているのだからこいつは大した奴なんだろう。いや、こんな呑気なことを言っているようだが額には汗が流れている。この肌寒い時期に汗を掻いてるところを考えると、内心は物凄い焦っているのだろう。
「やばいだろうな、とっとと逃げるか」
俺も同じようなテンションで答える。
ガシッ
音が聞こえた。振り返ると目の前に黒いものが来ていた。腕を見るとがっしりと黒いものに掴まれている。掴まれてると言うよりは呑み込まれているような、そんな感じがする。横を見ると透も捕まってしまった様だ。俺たちはなにを言うまでもなく瞬く間に黒いものに呑まれていく。
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ぽたっ
頬に冷たいものが落ちる。
「うっ」
ぼーっとした目をこじ開けるとそこは薄暗い洞窟の様な場所だった。天井はそこまで高くなく3メートルくらいだろうか。上を見ると尖った岩が無数にあるような、平坦ではなくボコボコした天井の様だ。その尖った岩の先端から溜まった水の雫が垂れている。ジメジメしていて肌寒いところだ。
「起きたか?」
そう言ってきたのは親友の透だ。
「覚えているか?起きて早々悪いがここを移動した方がよさそうだ」
覚えている?何を…そうだ俺たちは公園で黒い何かに呑まれて、それから…
「ここはいったい」
「わからない、洞窟っぽいな。少なくとも公園ではないだろうな」
そう、ここは公園ではないことは確かだ。一体どうして公園からこんな所に…
「っと、今はそれどころじゃないんだ。さっき動物の唸り声のようなものが聞こえた。」
俺より早く目覚めたからだろうか。俺よりも冷静に見える。ここは大人しく従った方が良さそうだ。
「わかった。移動しながらわかる事を話し合おう」
俺たちは音を立てないように暗い洞窟の中を歩きだす。こんな状況なのにパニックにならずにいられるのは透がいるからだろう。多分透も一人ではここまで冷静にはいられないはずだ。
「とりあえず状況を確認していこう」
俺たちは状況を把握するべく話し合いをする。 話し合いをして確認した事は三つ。まずは安全性だ。俺たち以外の生物もいるようだし、ここが何処かもわからないところからするとお世辞にも安全とは言えない。次に確認したのは持ち物だ。俺が持っているのはスマホと缶コーヒーの空き缶とガムが六つに財布だけだ。透はスマホとイヤホンに財布と何方もあまり使えなそうな物しか入っていない。そして最後に確認したのは出口がどこにあるかだ。無論簡単に見つかるはずも無く風の吹く方へ歩いている。
「光が見えてきたぞ」
その声に顔を上げると八畳程の空間に壁一面の大きな扉とその脇には松明が暖かい光を発している。さっきまでの自然な洞窟とは異なり明らかに人工物だ。
「どう見ても人が作ったものだよな」
「ああ、人がいるかもしれない。」
書くのは遅いですが気長にお願いします