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08.異世界雑誌事情

「カミムラ様にはこの世界の文化を理解していただくために、このような物をご用意いたしました」


 朝食後に差し出されたのは数枚の紙が二つ折りにされた冊子だった。

 折るとノートくらいの用紙に段落ごとの大きな見出し、挿絵と共に文字がびっしりと書かれている。


「なになに…『セントラル城にて勇者召喚される』あれ、もう俺のこと公表されてるんですか?」

「いえ、まだされておりません。折り目の下に続きがございます。よくご覧ください」

「…ん?『セントラル城にて勇者召喚される(か?)』…「か?」が小っさい!」


 なんだこの飛ばし記事は!うまく折り目で「か?」を消して見せている。聞けば元々この二つ折りで売られているそうなので、この配置は確信犯だろう。

 そこで俺はハッとして出版元を見ると『セントラルスポーツ』と書いてある。


「よりによって東○ポを元にしてんじゃねー!?」

「なんでも過去の勇者様がお持ちになったのが、たまたまその媒体だったそうで…」


 これに関してはなぜかメリーさんも申し訳なさそうに話す。


「本当はちゃんとした報道紙をお渡しするつもりでしたが、手違いで本日発売のセンスポが…」

「ああ、良かった。これが国民で広く読まれているのかと思って焦りましたよ…」


 とはいえせっかくなので一通り読んでみる。元ネタと比べると枚数は少ないし、発行も週に一回だそうだ。枚数が少ないのは情報量と紙事情とかだな。


 構成は一面に裏一面、他に芸能、スポーツ、賭け事などでほぼ同じ構成にしてるな…

 それで今日の一面にトップニュースで今回は俺か。なになに…


―関係筋の話によると、普段は見られない召喚術師が王城に呼ばれるのが確認された。ただ前回の召喚からすると明らかに人数が少ないため、もし勇者召喚となるとご来訪頂いても能力的にあまり意味が無さそうなので、本紙としては今回の召喚は単なる試験的な召喚か、コーリのような動物を呼ぶといったごく小規模なものと考える―


「能力的にあまり意味がなさそうって失礼だよ!本当だけど!あと挿絵のコーリもひどい。何だこのダメそうな動物…見るからにダメそうじゃないか…」

「カミムラ様、どうかお気になさらないでください。センスポは毎年勇者召喚があると報道している新聞ですので…。今回たまたま当たったくらいでセンスポを信じる国民はおりません」

「…うん。それもどうなの?」


 なんだか逆に冷静になってしまった。扱いも東ス○と同じか…


「センスポは過去の勇者様がたまたまお持ち込みになられた新聞を参考にして作られました。勇者様もその新聞の事を説明するときに問題点にお気づきになられまして、後にセンスポを発行したいという申し出があったときに国民に詳しく内容説明をされたほどです」

「とても良い判断だと思います。発行させなければさらに賢明でしたが」


 異世界だから飛ばし記事も注意が必要だ。『河童発見』なんて書いたらこの世界だと本当にいるかもしれない。この辺の機微はこの世界の人の方が良くわかってるだろうけど。


「その時の告示はセンスポの社訓にもなっています。『この雑誌は娯楽である。全てを疑ってかかったうえで楽しむくらいで丁度良い』」

「その通りだけど酷いな!センスポも社訓にすんなよ」

「そしてセンスポ側には『どれだけくだらないことを書いてもかまわない。そのかわり記事によっては自分が刺されたり逮捕されることも覚悟しなさい』という忠告を残しています」

「まあ、バランスって大事だよね…」


 幸いにまだ逮捕者はいないらしい。


 一面のコーリの挿絵もそうだが、この世界には写真が無いので挿絵が発達している。

 それも人物を描く際には写実的に書いてあるかと思えば、可愛らしい動物を描くのにデフォルメのような漫画的表現が用いられていたりもする。さすがに四コマ漫画まであるのは笑ったけど。


「それは今年の拳闘大会の優勝者のボラーですね。本当はここまで大きな体ではないのですが、印象を元に描く技法を用いて腕力の強さを腕の太さで表しています。これが本当なら大人の男性より太い腕ですよ」

「へー、そういう表現技法も普及してるんだ」

「こういう娯楽誌ほど多いですね。動物によく用いられる『でふぉるめ』とかいう描き方は女子供に大人気です。こちらは勇者様伝来の技法ですね」


 ああ、やはり勇者枠だったか。確かに印象主義と違い、いきなりこの表現技法は難しいだろうなあ。


「やはりそこは気になられるようですね。午後には別の書物をお持ちいたします」


 他のデフォルメで描かれた本だろうか?ちょっと楽しみだな。



「こちらが子供たちに不動の人気を誇る『黒パンマン』の第一話です」

「ちょっとまてー!?」


 いきなり来たぞ!

 デフォルメどころか擬人化が来た。しかもタイトルからしてひどい。


「もしかして、お腹の減っている子供たちに自分の黒パンで出来た頭を分け与えて満足させるという献身的なヒーローの事が描かれた本じゃないだろうか」

「少ない息継ぎで一気に言い切りましたね…。なぜそんなに興奮されているか非常に気になりますが、おおむねその通りです」


 これはまず予想通りの内容のようだ。


「黒パンには子供たちの成長に必要な栄養素がたくさん含まれている上に、硬いのでしっかり噛むことで早く満腹感を得られます。そういった黒パンの良さを勧善懲悪の正義のヒーローという面にからめることで、子供たちの心をわしづかみというわけです」


 俺も朝食で食べたけど日本の食パンと違って硬いもんな。色も小麦と比べて黒いので黒パンマンか。


「多くの子供はこの本を読み聞かせられます。すると子供たちは『普段食べている黒パンはこんな素晴らしい物なんだ』と自然と思い込みます。白いパンと比べるとちょっと酸味があるのですが、私も気にせず喜んで食べたものです」


 メリーさんも幼い頃を懐かしむようにしみじみと語っている。


「まあ、大人になると言いくるめられた事に気づいて何とも言えない気分になるのですが」

「それは…ええと何と言ったら良いか…」


 庶民の味方、黒パンマン。だけどその存在意義には世知辛い所もある。


 本を受け取って読んでみる。

 やっぱり頭に黒パンをつけた人型のようだ。さすがに服装はこの世界準拠のようだけど。


「やっぱり悪役はカビですよね…」

「そうですね。衛生面の教育も兼ねていますので、カビへの注意やうがい手洗いの大切さはしっかり盛り込まれています」


 変わっている点は例のばい菌を元にしたキャラクターがいない点だ。やはり目に見えないものは表現がしづらかったと見える。

 代わりに悪役を演じているのが黒パンマンの色違いでカビパンマンだ。顔全体を白や緑などまだら模様にしている。黒パンはあまりカビは生えないらしいが、それでも教育の題材としては悪くない。


「なんでも最初はカビを題材にした別の悪役がいたそうなのですが、勇者様の描かれた人物が一部種族の外見にそっくりだったためお蔵入りになったそうです」

「しっかり元ネタも書いてたのかい!」


 さすが異世界、あの外見の種族もいるとは…

 日本では問題ない悪役として描かれていてもこの世界では肖像権でアウトなんてことが起こり得る。

 しかしあの外見と同じ種族か…これはいつか見てみたい。


「他にもたまにしか出てきませんが、白パンマンという仲間もいたりして…」

「あ、これ長くなるパターンだ」


 メリーさんに午後いっぱい使って語られた。




 後日


「カミムラ様!これも子供たちに大人気な『がんばれニンジャくん!』という本なんですよ!」


 視線を感じる…


「私も久々に読み直しましたけど、やっぱりカッコいいですよねぇ。思わず夢中になって読んじゃいました」


 メリーさんも楽しそうに語る。最近はこういった砕けた様子も見せてくれるようになって嬉しいのだが…


「普段はおっちょこちょいな所もあるニンジャくんですが、いつもくじけずに仲間と一緒にがんばるんです」


 柱の陰からハットリさんが鋭い視線で見ているのに気づいてしまったので、できればもう少し抑えめにしてほしい!


「夜の街で人知れず悪者を裁く…この人知れず善行をするところが素晴らしいのです!」


 語りながら俺をテーブルへと誘導する。これも長くなるパターンです!


「時には悪の道に外れてしまったニンジャに出会ってしまい…」


 勘弁してくれ!

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