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06.忍者ニンジャ

「本日から貴方の護衛を担当するハットリと申します」

「よろしくお願いします」


 今後は俺も城の外にも出ることがあるだろうということで、『護衛される』ということに慣れるため、少し早めに護衛が付けられることになった。

 実際にはローテーションで数名が交代で付くそうなのだが、本日の顔合わせに姿を現したのは三十代前半の男性で、名をハットリといった。服装は城の中でよく見かける従者のそれなのだが、スキのない身のこなしからただ者ではないと直感する。

 何より名前がハットリだ。これで何もなかったら逆にびっくりする。


 これ絶対に刃に心の人だよなぁ…。聞いていいものなのだろうか?

 俺の内心の葛藤を感じ取ったのか、ハットリさんが口を開いた。


「何かご不安な点でもございましたか?」


 不安…不安といえば不安なんだが。ええい、ままよ!


「いえ、不安といいますか…。ハットリさんを見ていると、どうしても浮かんでしまうことがありまして…」

「ほう、何でしょうか?」

「なんか、忍者っぽいなって」


 その瞬間、笑みを浮かべていた顔が一瞬凍りついた。しかし、それもすぐ元に戻すとおどけたように訪ねて来る。


「ほう、ニンジャですか…。それはどういったもので?」


 探りに来てる!?これはヤバイところ突いたか?

 これは当たり障りのないところかいくしかない。


「え、ええと…私の世界に存在した職業の人で、すごい身体能力を持った人々です」

「ほう!身体能力が凄いと。なるほど…私をそこまで評価してくださったのですね」


 …グッドコミュニケーションか?


「ええ、伊賀とか甲賀という一族がいて、主に…」

「カミムラ様」

「は、はい」

「とても…そう、とても興味深いお話ですので詳しくお聞きしても宜しいですか?」


 目力で抑え込まれた。怖えぇ…

 自分でも顔が引きつっているのが分かる。これはイエスしか言えない。


「も、もちろんですとも。知っている限りをお話ししましょう!」

「ありがとうございます。ふむ、どうやら話が長くなりそうですね。メリーさん、ここは親睦を兼ねて二人でお話しさせてもらってもよろしいかな?」

「はあ…、後で説明してくださいよ?」


 メリーさんは不服そうな顔をしていたがハットリさんが押し切った。

 俺に対して『後で絶対に説明しなさいよ!』といった視線を向けて部屋から出て行った。



「さて、何処まで知っている?…いや、由来を考えれば当然のことか」


 ハットリさんは急にハードボイルドな男になった。これが周囲をごまかす擬態を解いた姿か。

 …これ下手なこと言ったら始末されない?これでも一応勇者なんだけど!?


「警戒させてしまったのならすまない。これは一族を率いる者として、どうしてもしておかなければならない確認だ。別にカミムラ殿を害するつもりは一切ない」

「(カミムラ殿になった…)確認ですか?それはいったい…」

「例えば先ほどの伊賀や甲賀といった一族だが、現職の護衛として存在する。具体的に言えば俺と交代で護衛に入る予定だった者の一人だ」


 マジでいました!ハットリさんも本当は服部で、明日の担当の人は甲賀三郎さんというそうだ。

 漢字表記にするとどうしても周囲から浮くそうなので、普段はカタカナ表記で通しているらしい。

 この漢字カタカナ表記でわかるように、言語は過去に小学校の教員が召喚されたことがあるため日本語が使用されている。ちなみに英語は英国という存在がうまく理解できなかったことに加え、英語を話す人と会う機会が限りなく(それこそゼロに近く)低い点から一部が和製英語扱いで浸透しただけらしい。

 でも名前ぐらいだったら言ってもいいんじゃないか?


「名前ぐらいなら話しても問題ないのでは?と思ったろう。だがカミムラ殿も忍びを理解する者なら思いつくだろう。我々の任務は護衛だけではないのだ」

「あっ、諜報活動か…」

「そうだ。もちろん護衛担当とは別の者が就いてはいるが、我々の名前はいささか珍しい物になる。もちろん任務中は別名を名乗ったりするが、どこかで名前から素性がばれてしまうこともあり得る。そういった危険は排除せねばならない」


 確かにその通りだ。いくらメリーさんだけだったとはいえ、他者の前でペラペラと忍者について話してよい物では無さそうだ。最初の口ぶりからすると忍者という存在もあまり公になっていないようだし。


「あの、やっぱり外では忍者関係の会話はまずいですよね?」

「当たり前だ!……というのは冗談で、実はそうでもない。これを見てくれ」


 差し出されたのは一冊の本。どうやら子供向けの本らしく、表紙の中央には黒づくめの人物がピースサインをした姿が大きく描かれており、タイトルは元気な文字で『がんばれニンジャくん!』


「おおーい!思いっきりニンジャって出てる!?忍んでないよ!」

「ははは、その通り。忍者は既に市民権を得ている」

「え、市民権?どういうこと!?」

「勇者様の思い付きでな、忍者は人々を守る正義の味方という触れ込みで公表された。同時に親しみを持ってもらおうと『ビコーニンジャ村』という忍者体験施設もある」

「くそっ、不意打ちで来た!ビコー?日光か!?いや、あれは江戸村だし…それより体験施設って!いいんか!?」

「百面相だな勇者殿。……なるほど、これがツッコミの勇者か」


 どうも聞きたくない呟きもあったようだがそれは置いておいて、忍者は『ニンジャ』として周知されているらしい。

 黒づくめの男なんて普通は怪しすぎるものだが、正義のヒーローとして弱きを助け強きを挫く存在として公表し、イメージ戦略を展開しているのだそうだ。もちろん本物は黒づくめなんて滅多にしないし、『そういう恰好』という固定観念を与えることで活動をやりやすくする意味もあるという。

 中でもビコーニンジャ村は子供たちに大盛況で、男の子のなりたい職業ベスト10には毎年ニンジャがランクインしているらしい。ほんとかよ。


 ビコーニンジャ村もただのアミューズメント施設というわけではなく、まだ未熟な青年忍者がスタッフとして入るためとても本格的らしい。というか本物だよね?

 ここでの制服は当然ながら黒づくめの恰好であり、演者の身元を隠すと共に忍者の正統派スタイルを後世に残す役を兼ねている。一石二鳥といえるシステムといえる。…いったい俺は何を言っているんだ。



 忍者の現在が分かったところで、今更だがこの世界には魔法が存在することは少し触れたと思う。

 俺が呼ばれた召喚魔法から始まり、一般的な事象から連想される火水風土がある。

 加えて主に癒しに使われる光魔法、精神に影響を与える闇魔法がある。先入観としては色々中二病を刺激する二つの魔法だが、これは発動時の見た目からそう名付けられているだけで、よくある光と闇といった対立やどちらが良い悪いといったことはない。単純に光って治る、周りが暗くなって精神が安定-不安定になるという点から来ている。


 そんな魔法が存在する世界に忍者という概念が持ち込まれたらどうなるか。


「火遁の術か?あれは慣れだな。もちろん魔法の適正も必要だが、少し火がつけられればそれを種火に燃料を使って拡大させることができる。それよりむしろ土遁の術が大変だな。土の中から飛び出すにしろ潜るにしろ、人が一人はいる分の土をどうにかしなければならない。それに呼吸だ。潜って窒息して死んでいたら話にならないからな。これに関しては魔法の素養とセンスが大きい」


 優秀な忍者は優秀な魔法使いでもあった。しかし夢の忍術が現実になるとは……


「そして知力に体術なども加えて優秀な者が頭領となる。そんな人物が勇者殿を護衛しているんだ。安心して貰っていい。かわりにそっちの活動も期待してるぜ?」


 最後の一言が余計だが、安心した。


「今日は顔合わせでこんな恰好をしているが、普段は目立たないところで護衛をしていることが多い。城内では騎士の中に混じっていたり、外では市民や外商の恰好をしていたりな」

「外商?」

「訪問販売や行商人の類だな。そうそう、外での不測の事態には登山の薬売りを頼れ。そいつが無理でも繋ぎくらいはつけてくれるはずだ」


 そういって見せてくれたのは、山を登る籠を背負った男のデザイン画。


「行商人は色々な場所に行くのに便利でな。中でも薬売りはどこでも歓迎される。当時の勇者殿が言い出した時はみな困惑したそうだが、実際にやってみるとその有用性に驚いたそうだ」


 …元ネタは富山の薬売りか。富山県が無いから登る山で登山と来たか。


「と言っても必ず一人は周囲につけるようにしているからな、そこまで深刻に考えずともよい」


 俺の渋い顔を勘違いしたのか、ハットリさんはそういって豪快に笑った。

 その後は周囲に護衛が見えない時の連絡方法など細々としたことを話し合った。



 別れ際にふと気になったことがある。

 そういえばハットリさんは一族を率いる者と言ってたけど、そうすると下の名前は…


「あの、もしかしてハットリさんの下の名前はハンゾウとか?」

「さすが勇者殿、すぐわかってしまうな。私が"十三代目"服部半蔵と申す」


 そういってニヤリと笑う姿は誇りを持った男の姿だった。

 ちなみに十三代目は『この世界で』だそうだ。しかし実際目にすると何とも言えない感動がある。

 …金髪に青い目という点に目をつむればだが。



 その後メリーさんの追及を受け答えるなどして一日が終わり、夜の自由時間になった。

 俺は今日あったことを思い出しながら、ベッドで天井を眺めていた。


 確か、こうだったよな。

 ハットリさんに教えられた『周囲に誰もいない時に連絡をする合図』を思い出してやってみる。

 スッ……天井の一画が音もなくスライドし、そこから覗き込んだ黒覆面と目が合った。

 あ、そこ開くんだ。


「すみません、大丈夫です…」


 黒覆面は静かに一つ頷くと再び物音一つ立てずに天井は元に戻った。

 とりあえず、俺は何も見なかったことにして寝ることにした。

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