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02.俺が呼び出された理由

 俺はあまりの展開に唖然としたまま、先ほどの侍女さんに連れられて別室へと案内された。

 そのまま訳も分からず用意された席に座ると、遅れて王様や大臣といった面々がやってくる。

 王様は慌てて立ち上がろうとした俺を手振りで抑え、全員が着席するのを見計らって口を開いた。


「驚かせてしまったかな?先ほどはすまなかったな。わしはこの国の王でアーサー・セントリオンという」

「お、俺は…いや私は、上村正和(カミムラマサカズ)と申します」

「カミムラ殿か。どうかそんなに緊張せずに、普段通り楽にして貰いたい」

「は、はあ…わかりました」

「うむ。それでは改めて、異世界にようこそ日本人よ。さぞかし驚いたことと思う」

「異世界!それに日本人ってわかるんですか!?」

「もちろんだとも。現在、この世界に召喚される者は日本人しかおらん」


 なんだそのピンポイントな召喚は。


「おぬしが不思議に思うのも仕方あるまい。だがこれは事実であり、必要な措置なのじゃ。もちろん、ちゃんとした理由もある。今からそれを語ろう」

「はあ…」


 かつてこの世界は、来訪した日本人たちが語る『よくある異世界』のように、人間と魔族が対立する世界であったそうだ。

 そこで別世界から能力のある者を呼び込み、その力や知識で魔族との争いや、襲い来る様々な困難に対応してきた。

 だけど当初は召喚自体が手探りだった上に技術的な問題もあり、ランダムな世界、場所から召喚されるため、意思の疎通すら図れず逆に災いになる場合も多かったらしい。


 それからは召喚された者―現在では勇者と呼称―の力も借り、だんだんと召喚に条件を付けて対象を絞っていった。

 まずは同じ人型の地球に固定し、その後に比較的に友好的な人が多かった日本に固定して…といった風にだ。

 現在は日本人に固定してから既に三百年は経過しており、この世界に日本人の影響がそれなりに出ている。そのことが来訪する日本人を安心させ、さらには協力的になる一因となっている。


 あれ、そうするとこの場合の俺って勇者で?レベルを上げて?魔族と戦う?

 …ただのサラリーマンが?

 あれ、かっこいい伝説の勇者のポジションになっちゃう!?


「なんとなく事情はわかりましたが…俺はこれからどうなるんですか?その、魔族と戦うんですか?」

「いや、それはない」


 即否定!夢を見る隙も無かった!


「そこの補佐官の顔をよく見てみなさい」


 王様が指した先を向くと一人の女性が頭を下げる。

 きれいな顔立ちだけど疲れているのか顔色が青く、目は充血して赤い。それに頭に角と背中に羽と、よく出来たコスプレをしている。

 …現実逃避はよそう。

 青い肌に赤い目、角生えて翼があるって…


「魔族!?」

「その通りだ。彼女は魔族だが補佐官をしておる。優秀な子じゃよ」

「夜魔族のセリスと申します。我々が反目していたのも既に過去のこと。召喚された勇者様のお力で争いが終わり、既に100年以上が経っております」


 戦争終わってた!いや、俺の身に危険が無いのはいいんだけど。あれ、なら何で俺呼ばれた?


「おぬしが疑問に思うのも仕方あるまい。世界は既に大きな争いのない平和な世。ならなぜ呼ばれたのかじゃろ?」

「そ、そうです!どうして俺が!?」

「まずは落ち着いて聞くのじゃ。この世界は過去の勇者の方々によってとても平和になった。そして大戦後に召喚された勇者の力によって現在も発展している」


 勇者は魔族との戦争後も召喚されている?ということは単純な力が目的ではないということか。


「なら今も勇者が必要とされるのはなぜか?それは召喚の条件が『この世界に必要な者』となっているからじゃ。争いの絶えない時代には武力を、荒れた国土には復興する力という風にの」


 勇者が召喚される条件は『この世界に必要な者』

 そうなると俺も召喚されたことに意味がある筈だ。

 …何かすごい特技あったかな?


「あの…こう言うのもなんですが、俺は元の世界では至って普通の人間でしたよ?もう、そこら辺を歩けば見つかるくらい普通の社会人でしたが」


 自分で言っていて悲しくなる事実。

 物語なら村人Bくらいの人間だ。あ、Aは村の名前いう奴な。


「いや、おぬしにはちゃんと能力がある!わしらはそれをしっかりと確認した!」

「え、いつの間に!?」

「先ほど体験した謁見の間での出来事をよく思い出してみるといい」


 何とも良い笑顔で俺に言う王様に、同意するように頷く大臣たち。何だその『私たちはわかってるよ』感。

 謁見の間ではまるでドラスレのようなやり取りをさせられたな。

 あまりにそっくりな展開に思わずツッコミを入れてしまったが、本当に良かったのだろうか。やはり一度しっかりと謝っておこう…


「先ほどはお話の途中にも関わらず思わず口を出してしまい、申し訳ありませんでした」

「そう、それじゃ!我々はツッコミ役が欲しいのじゃ!」

「はぁ!?」


 わけがわからない。ツッコミ役?

 王様は混乱する俺を少し気の毒そうに見ながら続ける。


「先ほど、おぬしより前に召喚された勇者の話はしたな?その方々が…まあ色々と…やりすぎてしまったのじゃ。全体を見ればその功績は素晴らしく、有用なことが多い。だが我々には理解の及ばぬものもあるのじゃ。そこでそれらに収拾をつけてもらおうと、物事を理解し、我々に説明できる人間を呼ぶこととなった」


 王様はそこでいったん話を区切ると、真剣な目で俺を見る。


「かつて我々は先代の勇者様に問うた。どうすればその人材を判断できるのかと。その答えが先ほどの『もしも召喚先がドラスレ3だったら』編じゃ」

「やっぱドラスレ3かよ!」

「うむうむ。おぬしがした挙動、そしてツッコミ。先代勇者の残した想定集に書かれた中でも高得点を取っておる!素晴らしい!」


 王様は心底嬉しそうに頷いているが、なんて理由で呼び出しやがった!


「というか、そいつが答えればいいだろ!?今すぐその先代勇者(バカ)をここに連れて来い!」

「…残念ながらもうおらん」


 王様は遠くを見つめるような眼差しで答える。

 なんてこった。これは既に故人か…

 途端に目の前が真っ暗になったようで、思わず頭を抱える。


「ああ…俺はこんなくだらない理由で呼び出されたのか。まさか残りの人生を異世界でツッコミして終えるなんて…」

「いや、元の世界に帰れるぞ?」

「…いまなんと?」

「だから帰れると申しておる。ちゃんと必要とされる役目が終われば帰れるのじゃ。それも元の姿で」

「それを先に言えよ!!」


 興奮した俺が落ち着くようにと、侍女さんが飲み物を持ってきてくれる。爽やかなレモン水のような味に少し気分が安らぐ。

 周囲では大臣たちが「期待通りの方が来てくださいましたな」なんて笑顔で談笑しているが。こいつら…


 詳しく聞いたところによると、勇者召喚のプロセスはまず元の世界で時間凍結、次に異世界(こちら)へ召喚、目的達成後に元の世界へ送還、最後に時間凍結を解除という流れになるらしい。

 最初は一方通行だったり戻っても浦島太郎状態だったそうなのだが、勇者召喚の改良と共に勇者側の意向を組み込むことでそうなっていった。


 最近はプログラミング技術の応用で、儀式に必要な時間や労力も改善させたらしい。スゲェな。

 ちなみにこれが先代勇者の実績の一環だ。一度作業に入るとのめり込むタイプで、各種魔法の改善を飽きるまでやって帰ったらしい。それで他はおろそかになったと…

 これは俺にもメリットがあるのでどうにも怒りをぶつけ辛く、思わず苦虫を噛み潰したような顔になる。


 はぁ…落ち着いたら落ち着いたで、今度は一体どんなものにツッコミを入れることになるのか不安になってくる。

 悪ノリした日本人はとんでもないことをやらかすからな…


 

「それではおぬしをサポートする人材を紹介しよう」


 王様の合図で隣室の扉から数人の男女が入ってくる。

 先頭は初老の男性で、見事な白髪に片眼鏡、そして黒い燕尾服をピシッと決めている。

 なんか物語に出てくる執事みたいだな。


「身の回りの世話をさせて頂きます。執事のセバスチャンにございます」

「やっぱり執事かよ!」


 いやしかし、いきなり来たぞ。王様、ツッコミに喜んでるんじゃない!

 ただ執事なのは本当のようだ。俺のツッコミにも動揺ひとつ無い。


「あの、失礼ですがそのお名前は…」

「はい、勇者様にお使えする執事は代々セバスチャンと名乗ることになっております」

「…本名は?」

「ヨーゼフと申します」

「なんかすみません…」

「誇りに思っております。お気になさらないでください」


 柔和な笑みで返される。うーん、かっこいい大人だ。


 二人目は俺より少し年上くらいに見える男性だった。

 見た目はこれといっておかしな所は無い。金髪でいわゆる貴族って感じの若者だ。


「勇者様の疑問にお答えする、特別情報補佐官のライデンと申します」

「知っているのか雷電!?」


 思わずツッコミ?を入れてしまったが、切れ目無いボケが来る!いや、ボケじゃないんだろうけど…

 王様、よし来た!みたいなリアクションしてんじゃねー!


「は、はあ。知識は申し分ないと自負しております」

「…すみません、あなたもお名前は?」

「いえ、私は本名でライデンは家名です。クリストフ・ライデンと申します」

「お、おう。リアルライデン…」


 その場限りのネタじゃなかったようだ。申し訳ない。


「その者は元は武門の出でな。人魔戦争の折に活躍し、当時の勇者に家名を授けられたのじゃ」

「……なぜライデンという家名を?」

「当時の頭首が赤に染めた鎧を身に纏っておりました、それをご覧になった勇者様が『色が俺と被る。お前は真紅でライデンと名乗れ』と告げられたのが由来と聞いております」

「どこの赤い彗星!?それにジョ○ー・ライデンかよ!」


 くそう、長いスパンのネタだ!そして勇者に関しては無視だ!何もしなくても絶対後で絡んでくる…

 それと先先代の勇者がライデンって家名から、特別補佐官の役職作ったんだってさ。

 絶対あのくだりをやりたかっただけだろ。


 最後に出てきたのはまだ若い女性だった。

 茶色の髪をストレートに伸ばし、小脇に紙の束を抱えている。文官か?


「特別書記官のメリーと申します」

「彼女はこれからの活動を記録する者じゃ。基本的に常におぬしの側におり、発言や行動など全てを記録する」

「俺の記録ですか…」

「性癖などプライベートなことは書かないので安心してください」

「アッハイ」


 さらっとえぐい所突いてきたぞこの女。そしてこっち見ながら紙に何か書いてる。この人怖い。



「さっそく効果が表れているようじゃな。専任はこの三人となるが、必要に応じて随時人員は追加される。勇者よ、よろしく頼むぞ!」

『よろしくお願いします』

「よ、よろしく……」


 早くも疲労困憊な俺がいる。


「さて、勇者が残されたものは城の中にもあるのじゃが…」

「あの、続きは明日にでも…」


 なんとか休ませて貰った。

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