09-2.人魔大戦こぼれ話
「でもさ、簡単に趨勢を左右するほど勇者や魔王って強かったの?」
「もちろんです。召喚によってもたらされる能力に加え、我々と違う思考にその強さがありました」
「思考ね。サブカルチャーで鍛えられてるからなぁ。どんなことしたんだか…」
ナガイさんの講義が終わると、そこにメリーさんも混じって話し込む。
勇者と魔王はどちらもおかしいが、聞けば聞くほど勇者がひどい。
「当家にもいくつか当時の話が伝わっています」
久々のライデンさん登場だ。城内だと専門家だらけで彼の出番が少ない。
今回はライデンさんも関係がある話なので参加してもらった。
「当家の家名の由来は既にお話ししましたが、他にもセキガハラでの功績があった者たちには特別な家名が与えられています。有名なのはマツナガ家ですね。うちが赤に対して彼らは白を基本色にしています」
「…白狼だろうなぁ」
「家名と基本色を与えられるとともに、なぜか髭を生やすように言われて困惑したそうですが」
なんでも過去の勇者の血筋でもあるらしく、珍しい黒髪なのも赤い彗星的にポイントだったそうだ。
髭はまあ…困惑するわな。元ネタの人を知らないと意味わからないし。
「他に大戦初期から活躍し、魔族領への潜入活動に定評のあったラル家がありますね」
ゲリラ屋とかそんな理由かな?予想通りジオン寄りのネーミングだな。
「魔法も色々と珍しい物を使用されたそうです」
「珍しい?オリジナル…ええと、独自のってこと?」
「そうですね。勇者様考案の魔法でして、中でも『びーむらいふる』が有名です」
「ビームライフルね。ビームという概念が理解しづらかったろうなぁ」
「原理らしきものは記録に残っているのですが、我々の理解力不足と魔力量の問題でその後再現はされていません」
正式名称は「光点収束魔法ビームライフル」で光魔法と記録されている。ただ熱や収束方法をどうしたのかがわからず再現はされていない。
加えて赤い彗星は発射音(!)まであったという。こんなの再現無理だろ。
参考までにレンズの原理を軽く教えておいた。これで何とかなるとも思えないけどね。
「同様の魔法で『そーられい』なる魔法もあるのですが、これは勇者様でも使用するのに多大な魔力を必要としていたらしく、再現は不可能と言われています」
「元ネタからして個人でどうにかなる物じゃないと思うよ…」
こちらも正式名称は「大規模光撃魔法ソーラ・レイ」だそうで。やりたかったんだろうね…
「他に勇者様考案の魔法に高速で移動する風魔法があります」
「空を飛ぶとか?」
「いえ、集めた風をマントで下に受け流して地表から浮く魔法です。原理的には凧揚げと同じような感じですね。浮遊した状態のまま前に進むので、地表に関係なく高速に進めるというものでした」
「ホバー走行をしようとしたのかな?たぶん重MSのあれだよなぁ…」
「名前は『高速浮遊推進魔法ドム』です」
「ほらやっぱり!」
現在も使える人がいるそうなので見せてもらった。
背中につけた長いマントの左右の裾が鎧の足元につながっており、風を受けると和凧のように膨らむ。風は主に前と左右から斜め後方に受け流す形で集め推進力として前進する。
間違ってないんだが、見た目から地表で凧揚げをしているように思える。ドムを知っているのでどうしてもコレジャナイ感を受けてしまう。確かに浮いてるし早いんだけどねぇ…
「ちなみに魔法制御で移動するので体勢はあまり関係ないのですが、直立していると気持ち悪いという勇者様の意見から中腰が基本姿勢となります」
「その格好で三人並ばせて走らせたかっただけじゃないかな…」
「よくご存じですね。三人一列になって走る『騎士の風』が戦術として確立されています」
ライデンさんが少しだけ驚いた様に話す。
それにしても騎士の風か。たぶん飛行機が無い世界なのでジェット気流とかその辺の意味を説明できなかったかんだろうな。
「騎士の風を出来るだけの練度を積んだ小隊は『三本の矢《スリーアロー》』と呼ばれ子供たちに大人気なんですよ」
「三本の矢ですか…」
「『一人の騎士では強敵に当たれば倒されてしまうだろう。だが三人で連携すれば簡単にやられることはない。お前たちは三人で高速に放たれた矢のように連携してあたれ』と勇者様がご教示された逸話が元になっています」
「豪快にパクって無理矢理うまい話風に纏めたな」
黒い三連星なんて言っても通じないとは思うけど、毛利元就の逸話で大丈夫だったのだろうか。きっと運よくフジワラさんの教科書に載っていなかったんだろう。
「握りこぶしの先に鋼鉄の爪を発生させ、対象を切り刻む土魔法『アイアンクロウ』」
「…ズゴックかな?」
「炎を纏わせた斧はやがて赤熱し、その威力は鎧すら厭わず切り裂く『ファイアーアクス』」
「ヒートホークなんじゃないかな」
「これは火魔法なので他に鞭やサーベルなどに応用されました」
「完全にジ○ン軍驚異のメカニズムだ…」
魔法は聞けば聞くほど頭が痛い。
「そういえば、この間ご説明した虎徹の件を覚えていらっしゃいますか?」
「ランク分けされている一種で騎士団の正式武装ですよね。」
確か雷鳥虎徹とか清流虎徹とか、山本…これはいいか。
「はい。あのランク分けと装備の統一は勇者様の一声で決まりました」
「装備の統一?バラバラだったんですか?」
「ええ…以前は装備が各自持ち込みだった上に戦後に貰える恩賞の為に、活躍する為に武装を良い物で整える他にも戦場でより目立つように奇抜な装備をする者も多かったのです」
確か戦国武将もそんな感じだったよな。持ってるのは刀か槍くらいで鎧がちぐはぐだったりするのは雑兵だったかな?この辺はうろ覚えだ。
「臨時雇いの者ならそれでも良いのですが、騎士団として一軍を形成する者たちがそれでは色々と不都合も起こります。そこで装備の統一を図ることによって修理や調達の利便性を高め、仲間同士の連帯感も高めることになりました」
確かに生産性とか良さそうだ。一人一人のワンオフより大量生産の量産品の方が作りやすい。既製品が溢れる現代社会からの発想だね。
「これを騎士団統合整備計画といい毎年試験に出るほど有名な故事となります」
「…そうですか」
そういやあったね!各メーカーで規格を揃えようとしたという設定。他に色んな機種作りすぎちゃって乗り換えが難しくなったから統一しようとしたとかそんなの。やっぱ機動する戦士かよ…
「ん?そういえばライデンさんの初代は赤い色の鎧で…」
「…我が家も当初はそういう興りだったということです」
ライデンさんは恥ずかしそうに顔を赤くして俯いていた。