四話、漸く届いた声は
逢音に連れられて北棟を飛び出した後、そのまま駅へ行こうとする逢音を止めて、校門で便と那由多を待った後に彼等と電車に乗り、帰宅して直ぐに制服から動きやすいTシャツとスエットに着替えた薫は姿見の前に立ち、首に巻かれていた包帯を取ってみた。
「あ……思ったより痕は残っていないんだ……」
露わになった首元には、薄くだがはっきりと両手で絞めてきた様な痕が残っている。指なのであろうその形は少し歪なのが不気味だ。
あれだけの力で締められたのにこうも薄いという事は、的確な処置を施してくれたのだろう。これならば明日には消えているはずだ。
「色守……かぁ」
自室のベッドへ寝転び、改めて振り返ってみれば本当に濃い一日だった。
初めて見る異形のモノに殺されかけ、ファンタジーを目の当たりにした。
新たな出会いを経験し、七不思議の一つを解き明かした。
(非日常って本当にあったんだっ……!)
ついつい口元が緩む。
「有り得ない」が「有り得る」に変わった瞬間。
学校では裏生徒会のメンバーのテンションについていく事が大変だったし、次々と出てくる単語を理解しようと集中していたが、こうして落ち着いて振り返ってみれば興奮してくる。
(どうしようどうしようどうしよう……!すっごい楽しみだっ……!!勿論僕は今までと変わらず、ただの村人に変わりないんだけどっ!!)
「僕も、なれないかなぁ……」
あの人達と同じフィールドに立ちたい。本当の意味で、彼らと同じになりたい。
事情を知ってしまったのだから、それだけで終わりになんてしたくない。
「……とりあえず、ご飯作ろう」
気分を落ち着ける為、深呼吸をしてからベットから起き上がる。
薫は諸事情により1DKの部屋に一人暮らしをしている為、自炊生活だ。光熱費等は家主である叔父が持ってくれているので生活費についてはあまり気にしていない。
部屋を出てキッチンへ向かい、夕飯の献立を考えながら冷蔵庫を開ける。
『…………』
その背中を、ジッと見送るモノが居た。
◆
翌日。
登校した薫に、岩本が声を掛けてきた。
「あの、碓氷君」
「あ、おはよう岩本さん。具合はもう大丈夫?」
「私は大丈夫だけど……碓氷君こそ大丈夫?私、寝ぼけて声を掛けてくれた碓氷君にジャーマンスープレックスしちゃったって聞いたんだけど……」
「ジャッ……!?」
想像を遥かに超える岩本への言い訳に、薫は絶句する。
(なっ……なんちゅー嘘ついてんですか句坂さんっ……!!寝ぼけてジャーマンスープレックスってかけられるもんなのっ!?確かに僕は小柄だけどさっ!!一応岩本さんよりは背が高いよ!?)
ちなみに、薫の身長は161センチである。
男子高校生としては小柄な方だろう。
(それをあっさりと信じちゃってる岩本さんも岩本さんの様な気がするけど……もうちょっとマシな言い訳は無かったのかなぁ……)
「だ、大丈夫だよ……」
便のぶっ飛んだフォローに内心ツッコミを入れまくりながらも一応笑みを浮かべて頷けば、「良かった」と岩本は胸を撫で下ろした。
「本当にごめんなさい。……あの、これ。お詫びにクッキー焼いてきたの。良かったら食べて」
「わっ、ありがとう岩本さん!」
差し出されたのは可愛らしくラッピングされた袋。
お詫びの品が手作りクッキーとは、なかなか女子力が高い。
「こちらこそ、掃除とかごめんね。碓氷君、あの時間まで残っていたって事は掃除やっておいてくれたんだよね」
「あ、気にしないで。あれは僕が勝手に残ってやってたから遅くなっちゃっただけだから」
「……うん、ありがとう」
そう微笑み、岩本は自席へと戻っていく。
掃除の件に関しては、居なかったのは岩本だけでは無い上に岩本以外は薫に押し付けてさっさと行ってしまったので、毛ほども気にしていなかった。
さて、この貰ったクッキーはとりあえずお昼にでも食べようかと袋を見つめていると、突然「かぁ〜お〜る〜くぅ〜ん?」とねっとりとした声で呼ばれ、それと同時に誰かが肩を組んで体をしだれかからせてきた。
「なぁ〜んか岩本とい〜い雰囲気になっておりませんかぁ〜?おトモダチの俺に隠れてどんなテク使いやがったのかなぁ〜?」
「うわっ、びっくりした。おはよう、野田」
「うん、おはよう薫。………じゃっねーんだよっ!!確かに時間帯的にはおはようだけどな!?軽くスルーしないでっ!?」
岩本と入れ替わる様に話しかけてきたのは、昨日七不思議として裏生徒会の事を教えてくれた友人、野田であった。
「だって僕、別に岩本さんとそういった関係じゃないし。ただのお詫びとお礼言ってただけだもん。このクッキーだってお詫びの品だよ。食べる?」
「そういう事言ってんじゃないのっ!!あと要らないっ!!貰ったのはお前なんだからお前が一つ残らず食べなさい!!岩本に失礼でしょっ!?」
「本音は?」
「一枚ください」
「よろしい」
すっかり慣れた会話を繰り広げながら袋を開け、中のクッキーを一枚野田に手渡す。
自分もクッキーをつまめば、香ばしいバターの香りが口の中に広がっていった。
とても美味しい。
残りは昼休みに食べようと袋の口をしめ、カバンにしまえばチャイムが鳴り響く。
「じゃあな」と自席へ戻っていく野田の背中に手を振り、薫は前を向いて担任を待った。
◆
『まだ、気付いてもらえない』
「焦んなよ。フラグは立てたんだ、もうすぐ気付くって」
『本当に?』
「本当だよ。もう少し待っててやってくれ」
『……うん』
サァッと風が吹き抜ける。
春らしい、土の香りを含んだ風。
気付けば話し相手は消えていた。恐らく、まだ自覚のない主の元へ帰っていったのだろう。
「好いてるねぇ〜、あいつ。随分とまあ一途で、可愛いもんだ」
そう笑えば、左耳につけているピアスが耳に食いこんだ。
「いでででででっ!?おい、やめろ猩猩緋!!耳たぶ千切れるっ!!」
文句を言いながらピアスに触れれば、力が緩む。
ピアスに擬態化しているパートナーの機嫌は少しはよくなったらしい。
「たくっ……」
分かりやすいパートナーに苦笑する。
手を上げる事で自分の気持ちを伝えるなんて、まるで那由多の様だと思いながら便は全学年の教室がある東棟を見上げた。
「増えるかねぇ、お仲間さんは」
フッと鼻を鳴らした刹那、後ろから怒号が飛んできた。
「ごぉら句坂ぁっ!!お前ただボール探すのに何十分かけてんだ減点すっぞぉっ!!」
「ゲッ……」
顔を強ばらせ、便は慌ててボールを拾って校庭へと走っていった。
時間として三時間目。便が体育の授業でどやされているのと同時刻、自覚のない主こと薫は教室で化学の授業を受けていた。
◆
時は進み、放課後。
野田は漫研があるというため、またしても薫は一人で教室に残っていた。
「先生……僕はパシリか何かですか……」
今度はクラス掲示の整理を頼まれてしまった。
どうやら薫は、こういった貧乏くじを引きやすい体質らしい。
(まあ別に、帰宅部だし早く帰らないといけない理由なんて無いんだけどさ……)
ため息をつきながら、壁に貼り付けた紙の端を画鋲で止めていく。
「はぁ……」
「たっのもぉっ〜!!」
「うわあぁぁっ!?」
勢いよく教室のドアが開かれ、ビクッと肩を震わせた薫の体はぐらりと横にずれる。
そのまま重力に従い、薫は乗っていた椅子から転げ落ちた。
ドタンッと横向きに地面に叩きつけられ、あまりの痛さに薫は一瞬息が出来なくなる。
「うわぁっ!?だっ、大丈夫っ!?」
「な、何とか……。それよりどうしたんですか、戸浪さん……」
体を起こせば、不安そうに眉根を寄せる逢音が見えた。
格好は制服ではなく、ジャージである。
「うち、校庭に居たんだけどかおかおが見えて。かおかおのクラス知らなかったから、「見つけた!」って嬉しくなっちゃって来ちゃった。落とす気は無かったんだ……ごめんね?」
「いいですよ、大丈夫です。……句坂さんと色路さんは一緒じゃないんですか?」
「二人共、今は北棟に居るんじゃないかな。うち、テニス部の助っ人して来たばっかだからわかんないや」
「だからジャージなんですね……。よっと」
立ち上がり、倒してしまった椅子を起こす。
画鋲は机の上に置いてあったので、ばらまかれずに済んでいた。
というより、校庭から教室の壁に掲示物を貼っている薫の姿が見えたという事は逢音の視力は一体どれぐらいなのだろうか。
「かおかおは何してたの?」
「雑用をちょっと。これ留めたら終了なんですけど」
「あ、じゃあかおかおも行こうよ!よーさんとなゆも会いたがってるよ!」
「いいんですか?」
よく考えてみれば、便の言った通り薫は成り行きで事情を知ってしまった一般人だ。
あまり騒ぎを起こしたくないからひっそりと動いているというのに、のこのこお邪魔していいものだろうか。
そう思って問いかけたのだが、逢音はニパッと眩しいぐらいの笑顔を浮かべてそれを否定した。
「いーのいーのっ!ほーんと、かおかおって細かい事気にするよね〜。そんな毎日の様に色狩とバトルしてるわけでもないし、うちがかおかおと居たいからいーのっ!」
「……じゃあ、お邪魔させてもらいます」
そう答えれば、逢音は心底嬉しそうに笑う。
その笑顔で思い出されるのは、昨日の帰りに便に囁かれた言葉だった。
「逢音って本人の運動神経を見込まれて、特待生として入学してきたからさ。周りから遠巻きに見られがちで友達らしい友達が居ねぇんだわ。逢音自身も相手との距離感が近すぎて引かれがちで。薫が良かったら、仲良くしてやってくれ」
卓越した運動神経を見込まれて、荏杢高校へ推薦枠で入学してきた逢音。
大半は普通に入試結果で入学してきたので、見事推薦枠を勝ち取って入学した逢音を遠巻きに見てしまうのだ。
それに加え、逢音は人との距離が近い。
勢いについていけず、結果的に彼女は孤立しているというのだ。
ここまでキラキラとした笑顔を向けられてしまえば、薫も断れなかったし逢音と話すのは普通に楽しい。
「てゆーかさぁ〜、かおかお?」
「はい?」
聞き返した瞬間、ビシッと人差し指を突きつけられる。
「敬語っ!先輩のよーさんやなゆになら分かるけど、うちら同じ一年だよっ!?うちにまで敬語使う必要無くない!?」
「え、えぇ……」
思わずたじろいだ薫だが、逢音はお構い無しにぐんぐんと近付いてくると薫の頬を両手でつねりあげた。
「っ!?いふぁい、いふぁいれふ!」
「次敬語使ったらこれの刑だからね、かおかお!」
「っ〜!!」
尋常じゃないほど痛い。
必死に頷き、離してくれとアピールするがなかなか解放してもらえない。
「わかった?」
「ふぁふぁりまひたふぁら……」
そう答えれば、ようやく逢音が手を離す。
ヒリヒリと痛む頬を撫でれば、「痛かった?ごめんね?」と謝られた。
成程、抓るだけでここまで痛いのだからグーパンはもっと痛いだろう。昨日便が音速で謝ったのにも納得がいく。
「力、強いね……戸浪さん……」
「握力48だよ!」
ゴリラか。
流石に言えるわけもなく、グッと薫は言葉を飲み込む。
言ってしまったら女子に失礼だし、何しろその後が怖い。
「呼び方も逢音でいいよ?」
「呼び捨てはまだちょっと……。逢音さんでいい?」
「むぅ……」
不服そうに唇を尖らせつつだが、渋々という風に頷いてくれた。
とりあえず罰は免れたなと胸を撫で下ろした瞬間、突然教室内に影がさしたかと思えばグイッと腕を引かれた。
そのまま逢音の豊満なそこに顔を埋めてしまい、ボッと顔が赤くなる。
しかし、ワンテンポ遅れて響いた何かが砕け散る音に体が固まった。
「かおかお、下がってて!」
ドンッと逢音の後ろへと突き飛ばされ、まともな受け身も取れないまま薫は床を転がった。
鈍い音をたてて、壁へとぶつかる。
「戸浪さっ……」
「月白!」
慌てて起き上がった薫を守るように立ちながら、逢音が叫ぶ。
ピンッと微かな音がして、逢音の前髪を留めていたヘアピンが光を放ちながら形を変えていく。
光が消えれば、逢音は淡い水色が混じった白い弓を握っていた。伸ばされた腕は、既に弦を引き絞っている。
(一体何がっ……!)
立ち上がれば、逢音で隠れていた侵入者の姿が見えた。
見覚えのある真っ黒な、どろどろとした大きな体。
鋭く伸びた爪で襲われれば、簡単に首が掻っ切られてしまうだろう。
侵入者の正体は、言わずもがな色狩だった。
昨日と違うのは、姿形が人間ではなくカラスの様だという点だろう。
「色……ヤハリ、未契約ノ色ガ居ルナ……?」
ゆらり。
舐めまわすように、カラスは教室内を見回す。
視界に止めたのは薫だ。目が合い、思わず薫は後ずさった。
が、背中に固いものを感じてハッと振り返る。薫のすぐ後ろは壁だった。
「寄越セ」
「ッ!!」
低い声で呟かれたその声にゾッと悪寒が走り、冷や汗をかきながら前を見ればこちらに色狩が動き出したのと、逢音が矢を放ったのは同時だった。
淡い水色の軌跡を描きながら、矢は見事色狩の左羽に突き刺さる。
「邪魔スルナ!」
「するに決まってるでしょっ!!かおかおも色も、うちが守る!色守なめんな、クソカラスッ!!」
新たに矢をつがえながら、逢音が声高々に宣言する。
弓矢へと形状変化した月白も、同意するようにピカッと光る。
「愚カナ娘ダ」
忌々しげに色狩がそう言うと、空気がビリビリと揺れる程の大声で鳴いた。
すると、左羽に刺さっていた月白の矢がドロリと溶けて色狩の体へと飲み込まれていく。
「全テ飲ミ込ムダケダッ!!」
バサァッと大きく広げられた羽によって窓からの光が遮られ、教室内が暗くなる。
おまけに鋭く針のようになった羽根がダーツの如く飛ばされてきた。
咄嗟に飛び退き、飛ばされた羽根はカカカカッと先程まで薫が背中をつけていた、若干コルクの様になっている壁へと突き刺さる。
突然暗くなったので、目が慣れない。
とりあえず逢音の居場所は知っておきたいと思い、先程逢音が居たであろう所へ手を伸ばす。
伸ばしたその先で、何かが手に触れた。それも、幾つも同じような感覚が肌を撫でていく。
訝しく思いながら、とりあえずそれを掴んでみた刹那、切羽詰った逢音の声が響いた。
「かおかおっ!無闇に何か掴んじゃっ」
「モウ遅イ。ソコカ」
「ぐっ!?」
突然右手に激痛が走る。
まるで刺がいくつも突き刺さったかのような鋭い痛みに、薫は握っていた「それ」ごと手を開いた。
それと同時に、窓を塞いでいた羽が閉じられて再び夕日が差し込んでくる。
明るくなった教室を見て、薫は絶句した。
とめどなく降り注いでくる物は、真っ黒な羽根。
ふわふわと舞い降りてきているくせに、よく見れば羽根の毛一本一本が鋭い針のようになっており、どうやら先程自分が掴んだ物もこの羽らしい。
「大丈夫!?」
「多分……」
駆け寄ってきてくれた逢音にはそう言ったものの、未だにドクドクと血が流れている感覚があるので、正直直視はしたくない。
グロゲームは好きだが、実際自分があんな目に遭うのは御免である。
「……かおかお、あのね」
「オ喋リシテイル暇ガアルノカ?」
「っ!!」
ブワンッと色狩が羽を横に薙げば、幾つもの羽根が風と共に真正面から飛んでくる。
逢音も薫も、自身の顔を守るように腕を翳すが、鋭い羽根のせいでピッといくつも赤い線が皮膚に走っていく。
風のせいで目も開けていられず、ただされるがままだった薫の耳にドスッという嫌な音が届いた。
「ぐっ……」
「嘘、逢音さんっ!?」
まさか、今の音は。
風に耐えながら目を開き、自分の前に矢のように羽根を体に刺した逢音が膝をついているのを見てサッと薫の顔色が青くなる。
自分を庇ったせいで、逢音が傷ついたのだ。責任を感じない訳がないし、相手はまだ未知の存在。何があっても可笑しくない。
「大丈夫、大丈夫だよかおかお。……ねえ、昨日の進路資料室の場所、覚えてる?きっとそこによーさんとなゆも居るはずだから、かおかおが呼んできてくれないかな?」
「でっ……でも」
「アイツの狙いは、かおかおなんだよっ!?」
「ッ……」
切迫した逢音の表情が映る。
あまりに真剣なその目に、思わず薫は息を飲んだ。
(そういえばさっき、アイツ……未契約の色って……)
その後直ぐに自分へ襲いかかってきた。
そして、逢音のこの言葉。もしかしなくとも、色狩の狙いは自分だという事を断定するだけの証拠は出揃っていた。
唇を噛み締め、薫はグッと拳を握りしめた。
分かっている。ただの一般市民である自分がお荷物である事ぐらい。その上、相手の狙いは薫なのだ。
でも、それでも手負いの逢音を見捨てて行くのは気が引けてしまった。
迷っている間にも羽根は降り注ぎ、色狩自身も距離を詰めて攻撃を加えてくる。
辛うじて逢音が弓で攻撃をいなしながら守ってくれているが、逢音の武器は遠距離である弓。対してカラスの姿をした色狩は、羽根を飛ばすという遠距離も出来るがつつくという近距離攻撃もできる。
今でさえ、徐々に押され気味だ。
ここで自分のエゴでくずるか、さっさと二人を呼んでくるか。
どちらが最善策かは、明らかだった。
「ごめんっ……!」
そう呟き、ドアへ駆け寄ろうとした時だった。
『一緒に戦いたい』
一瞬。
世界が止まったかのように感じ、水面に広がる波紋のようにその声が静かに響いてきた。
「えっ……?」
鈴の音の様に涼しげな、それでいて暖かい声。
知らないはずなのに、心のどこかでは知っているような声が。
『それが願いなら、力を貸すから』
『貴方の力になりたいから』
『だから、お願い』
────名前を呼んで、主。
「名前……?」
知らない。分からない。
薫は、この声の主を知らないはずなのに。
「マサカッ……!!」
色狩が狼狽え、慌てて薫へ攻撃を放つ。
飛ばされた羽根が届く前に、薫は名前を呼んでいた。
「山吹色……?」
『嗚呼……やっと、届いた』
橙のかかった黄色の光に包まれながら、薫は確かに誰かに微笑まれた。