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色縁  作者: たんさんりんご
3/8

一話、始まりの黒

「終わったぁ〜………」


 放課後。

 薫は大きく伸びをした。


 担任は会議があるだとかで、薫に教室の施錠をしておいて欲しいと鍵を預け、早々に行ってしまった。

 担任の見張りが無いと分かった途端、薫以外の教室掃除が部活やら用事やらで帰ってしまった。

 体よく色々な物を押し付けられてしまったが、結構教室は汚れていた為に一人でせっせと掃除をし、ようやく終わったのだ。

 一度始めると、満足いくまでやってしまうのでいつもの下校時間はとっくに過ぎていた。


 使っていたちりとりを掃除用具箱に仕舞い、自席に掛けておいたリュックサックを持つ。

 最後に軽く教室内を見回し、窓の戸締りを確認してから教室を出る。

 教室のドアもしっかり鍵を締め、鍵を返す為に職員室へ向かう。

 結構時間をかけて掃除していたが、担任が来なかったという事はまだ会議は続いているのだろう。

 だからといって鍵を持って帰るわけにも行かないので、後の事は職員室に着いたら考えようと軽く考えて階段に向かいながら携帯を開く。

 薫の携帯はガラケーだ。

 待ち受けの上の方を流れるニュース欄が目に付き、そこには透明な木が発見されたという文字が流れていた。


 最近この手のニュースをよく見る。

 木に限らず、虫や葉っぱ、時には建物等にも透明化現象は見られている。

 何故形はそのままに透明なのか。何故突然透明になってしまったのか。

 原因も理由も何一つ分かっておらず、科学者や研究者達は日々頭を悩ませているらしい。


「見てみたいなぁ……。あ、でも透明だから見る事は出来ないか……」


 視認できないからこそ、謎なのだ。

 氷と違い、本当に“透明”で触る事でしか確認する術が無いという。


 携帯を見ながら歩いていた為、前方不注意だった。


「わっ……!!」


 ドンッと何かにぶつかり、携帯が手から滑り落ちて廊下に落ちた。

 目の前で一人の女子生徒が尻餅をついた。


「あっ……ご、ごめん。大丈夫?」

「………」


 彼女の履いている上履きのラインは薫と同じ青。つまり、同級生だ。

 ずっと俯いている彼女の表情は見えず、何かが可笑しいのは明白だった。


「あの……?」


 ふらり。

 どこか覚束無い足取りで立ち去っていく彼女を呆然と見送りながら、薫は首を傾げる。

 すれ違った時に僅かに見えた横顔は何処かで見覚えがある。

 しかし、次の瞬間薫は目を見開いた。


 彼女が向かったのは薫のクラス。

 先程確かに施錠し、鍵がかかっているはずのドア。

 そのドアを、彼女はいとも簡単に開けたのだ。


(なんで……確かに鍵は締めたのに……)


 一瞬締め忘れたのかと思ったが、ほんの数十秒前の事を忘れる程ボケてはいない。

 それと同時に、ようやく彼女が誰か思い出せた。


「待って、岩本(いわもと)さん!」


 薫達のクラスの女子学級委員の岩本だ。

 確か、体調不良で五時限目から保健室へ行っていたはず。


 薫の声は届いていないらしく、ふらふらと教室へ入っていってしまった。

 明らかに様子が可笑しく、心配でもあったので迷わず薫は彼女を追いかけた。


 ────それが、始まりだった。


 この時岩本を無視していれば、薫はいつもと変わらない、平凡な日々を過ごしていたのだろう。

 この時の選択を後悔しているのかと聞かれれば、薫はどう答えるのだろう。

 きっと、それは……────────











「………出ました。一年の教室みたいですね」

「おっ、ようやくか。中々尻尾出さねぇ奴だったが、流石に痺れ切らしたっぽいな」

「うちらが常に監視してたもんね〜!やぁっと倒せる!!」

「そーだな。で、一年の教室って具体的には何組?」

「さあ?もう探索やめましたもん」

「ちょっ……それお前にしか出来ねぇじゃん!!サボんなよ!!」

「そんなん行ってみればわかるっしょ!!行ってくるね〜!」

「はぁ!?おいゴラッ!!抜け駆けなんて許さねぇぞ!!」

「いいからさっさと行きますよ」


 薫の元へ味方(?)が到着するまで、あと数分。











「岩本さ……っ!?」


 薫は目を見開いた。

 確かに自分は岩本を追いかけて教室に入った。

 最後に教室を出たのは自分なのだから、今教室に居るのは岩本と追いかけてきた薫だけのはずだ。

 なのに、コレはなんだ。


 真っ黒な“モノ”。

 辛うじて人のような姿を保つ“それ”は、一心不乱に机に齧り付いていた。


「っ……!!」


 思わず悲鳴を出しそうになり、慌てて口を両手で塞いで後ずさる。

 ジッと“それ”を見つめていると、異変に気がついた。


 先程“それ”が齧り付いていた机。その机から、随分と色が抜けていた。

 一部分はグラデーションの様に色が無くなっていき、角が無くなっていた。

 この色の抜け方は明らかに時間によってではない。

 まるで、脱色作業を行ったようで。


(これ……アイツが……?)


 刹那、“それ”はゆっくりと齧り付いていた机からゆっくりと離れ、薫を見遣る。

 目が合ったと感じた瞬間、薫の全身を悪寒が駆け巡った。


「人間……(しき)ヲ、寄越セッ!!」

「うわぁっ!?」


 大きく肥大化した黒い腕が勢いよくで伸びてくる。咄嗟に横にかわす事が出来たものの、腕は勢いを殺さず壁にめり込んだ。

 壁に亀裂が入り、パラパラと破片を落としながらゆっくりと腕が壁から離れた。

 目の前で見たあまりの威力にサッと薫は顔色を青くさせるが、気を使って待ってくれる程目の前の生物は優しくない様だ。


「足リナイ……マダ足リナイ……。モット、モット(しき)ヲ寄越セッ!!」

(しき)……?」


 聞き慣れない単語に気を取られ、再び腕が伸びてきていると気がついた時にはもう薫は壁へと押し付けられた。


「がっ……!?」


 ギリギリと首を締められ、息が出来なくなる。

 苦しい。


「岩、も……とさ……」


 出てきた涙で滲む視界で、目の前の生物を見る。

 クラスメイトは何故変わり果ててしまったのだろうか。

 答えなんて、探している暇は無かった。


「ぐっ……ぁ……」


 意識が薄れていく。

 脳に酸素が渡っていない。


(死ぬ……)


 まさか、死に方をするだなんて思ってもみなかった。

 自分が漫画や小説の主人公だったら、こういった時に誰かが助けてくれるのだろう。

 しかし現実はそう甘くない。

 ────甘くないのだが、偶然という物は起こるのだ。




パリィンと、涼やかな音と共に細かな破片が宙を舞った。




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